第015話「日常的な非常事態」

月曜日の朝、

NAVE研究開発センター6階、開発総務部執務室



カスミ:「先週は悪かったね、折角の所 邪魔しちゃったミタイで、」

シオン:「いえ、とんでもない、此方こそ、…」


「藤沢さん」にソレを言われるのは、「藤沢さん」にソレを言うのは、…頭では分っているのに何だか納得いっていない自分が何処かに引っかかる、


思う侭にならない理不尽を受け止めざるを得なくなった時、

人は一体どうすれば良いのだろうか、…



カスミ:「あの後、大丈夫だった?」

シオン:「はあ、まあ、ナントカ、」


いや、本当の所は色々と大丈夫では無かった、

結局土曜日の午後になって何だか精密機械の運送屋が「平塚さん」の部屋に妖しげな機械を運び込んでくる迄の間、「平塚さん」は僕の部屋に居座り続け、


同じくアセトアルデヒドが完全に抜け切る迄の間、「戸塚さん」は僕の部屋のトイレを占領し続けた、


…それで僕は、女の子の中身が一体何で出来ているのかの片鱗を理解するに至る、



カスミ:「国府津さんは来てるの?」

シオン:「私物が置いてあるから来てるみたいですけど、朝から姿は見ないですね、」


チラリと視線をやると、「平塚さん」は机の上にやる気無く俯せて、何故だかネットサーフィンしている?


会社ってこんなんで良いのか???



カスミ:「そう言えば、今日の部長会で予算超過の件を報告するんだっけ、二宮クンも出席するの?」


シオン:「いえ、流石に新人が行成り部長会報告とか無いでしょうから、森さんがやってくれるのではないかと、…」



チラリと行き先黒板を見ると、「森さん」、「休み」になっている!


どう言う事? どうすれば良いの??



カスミ:「まあ、そんな事じゃないかと思ったわ、…仕方ない、私が一緒に出てあげるから、内容を説明してくれるかな、」


何だか「藤沢さん」は「森さん」の生態?(注、最後の最後で丸投げ敵前逃亡)に心当たりが有るらしい、それで心配してくれたと言う事か、…



シオン:「すみません、」


果たして、役員も一目置くと言われる「藤沢さん」のCapability=能力は、やはり徒者ただものではなかった、素人の僕が一度さらっと状況説明を流しただけで、事の重大性にあっさりと行き当たる、



カスミ:「おかしい、と言うか、何か不味い気がする、」


カスミ:「来年12月に生産開始する「第6世代」の電装開発予算が、何故此の時期に足りなくなるの? 」


カスミ:「生産立ち上がり21ヶ月前と言えば「バーチャル試作後半ロット」の開始時期で、此の車は確か電装仕様が決まらなくて後半ロットに集中させてシミュレーション入る予定だったから、これから予算増えて来て当然なのに、このグラフ上は予算が増える絵になってない、」


シオン:「そうなんですか?」


「藤沢さん」が何を言っているのか分らない自分が恥ずかしい、 



カスミ:「此のプロジェクトの「開発費見積もり報告書」をダウンロードしてくれる?」


シオン:「えっと、どうすれば良いんでしょうか?」

カスミ:「そうか、まだ始めたばかりだったわね、ちょっと待って、」


そう言うと、藤沢さんは経理グルークの「吾妻さん」を呼んで、今日一日の予定修正の指示を出しているらしい、



吾妻:「分りました、じゃあ、こっちの事は任せて下さい、…二宮クン、頑張ってね、」

シオン:「どうも、」


って、未だに事態を飲み込めていない自分がもどかしい、



「藤沢さん」は、僕の机に来てラップトップを立ち上げ、ビジネスプランのデータベースから当該プロジェクトFSC319の部別予算データを抽出、ダウンロード、


同時に別ファイルからFSC319の開発費見積もり報告書をダウンロード、


それで両者に紐づけされている開発スケジュールと部別予算を並べてチェックする、


此処迄所要時間3分若、



カスミ:「違っている、」

シオン:「本当だ、」


開発費見積もりのバージョンをチェックすると、…ビジネスプランに入っているデータはバージョンが旧い、


重ねた開発費のグラフは、最新の物の方が明らかに大きくなっている、それも電装開発グループだけではなく、開発部門全体では、年間凡そ15億円の差が生じている、



カスミ:「何でこんな古いデータを使ったんだろう?」


と言っても、去年担当していた「森さん」は体調不良で休み、


「藤沢さん」は直ぐに「森さん」の携帯に電話を掛けるが、…応答が無い、


それで透かさず今度は、第2プロジェクトマネジメントグループに電話、


正直僕には、一体何が起きているのか全く付いて行けてない、



カスミ:「大体の、状況は分った、」


カスミ:「このプロジェクト、先月中にバーチャル試作とシミュレーション評価が立ち上がる予定だったのだけど、予算がガイドに納まらなくて電装仕様の決心に手間取った、結局今月の役員会に掛ける事になったけれど、生産開始の時期は決まっているから、そこから前倒して各部の実業務はプロジェクトマネジメントグループの独断でスタートしている、想定開発費は最新バージョンの見積もり報告書の通りで、これを当て嵌めれば電装開発グループの予算が追加されるから、予算オーバーは解消される、」


シオン:「じゃあ、問題解決ですか?」


カスミ:「いや、そうじゃないの、…

ビジネスプランの大きな役割の一つは年度の総開発費をガイドに納める事、つまり会社が年間に使える予算に基づいて実行する開発イベントを選別する事なの、今年度のビジネスプランは既に先月末に確定している、もしも今からFCS319の予算が15億も増えたら、開発費ガイドに納まらなくなってしまう、」


シオン:「どうなるんですか?」


カスミ:「第6世代自家用車は今期の最重要プロジェクトだから、止める訳にはいかない、生産開始時期を遅らせれば、他社にシェアを根刮ねこそぎ全部持って行かれてしまう、」


カスミ:「何か、他のプロジェクトを止めなくちゃならない、要するに、ビジネスプランの作り直しが必要と言う事ね、」


シオン:「なんか、凄い事が起きてる訳ですね、」

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