第012話「機械仕掛けの少女」
僕の袖を掴む少女の手首には、シルバーメタリックのブレスレッド、
表面に施された見覚えの有る幾何学模様は「障害者支援用高度ICT装置認証ロゴ」(注、空港のセキュリティ等でも専用器械で認証チェックすれば、身に着けたままセキュリティを通過出来る)
間違いない、この子は先週の金曜日、交差点の真ん中で全盲者用コンタクトレンズ型カメラを落として困っていた、あの少女だ、
でも、…
シオン:「君は、誰なの? どうして僕の名前を知っているの?」
少女は、少し照れた様に俯いて、その侭僕の袖に真っ赤になった顔を埋める、
ひろみ:「お知り合いですか?」
シオン:「うん、」
そして、改めてよく見ると気付く、…
少女の耳の穴には、同じロゴマークの付いた補聴器、
首にも、ロゴマーク付きのネックレス、(注、形状は目立たないが略首輪、色は同じくシルバーメタリック)
さらに、薄いクリーム色のノースリーブ・ワンピースから剥き出しの腕は、いや、手首から指先迄の皮膚が、店内の淡い光に照らされて、ほんの微かに、まるでモルフォ蝶の羽根の様に光彩を放っている、…恐る恐る触れてみたその感触は、医療用ストッキング? 人工皮膚?
この子は、一体?
えりか:「凄い懐かれてますね、」
でも、僕は此の子の事を、何にも知らない、
シオン:「何処から来たの?」
その問いに、少女は黙ったままピンと伸ばした指で、…今まさに「戸塚さん」が吸い込まれて行った「藤沢さん」達のテーブルを指し示す、
マドカ:「あ、戸塚です、」
少女の手を引いて連れて行った「藤沢さん」達のテーブルでは、…何だか草臥れたおじさんが「戸塚さん」をナンパしていた?
カスミ:「国府津さん、コノ子はうちの社員です!」
国府津:「あ、そうなの、残念、」
「国府津さん」?…この人が、僕の上司?
シオン:「あの、」
マドカ:「あ、来た来た、二宮クン、此処座りなよ、」
って、此の状況に突っ込んで行って、何故にノリノリなの「戸塚さん」、…
シオン:「あの、こんばんは、すみません、…お邪魔ですよね、」
「藤沢さん」は、ちょっと困った顔で苦笑い、…この人、こんな可愛い顔もするんだ、
国府津:「別に一人増えようが二人増えようが構わないよ、座りな、」
酔っぱらいのおじさんは何故だか上機嫌
国府津:「この青年も「カスミ」の新しい後輩なのか?」
カスミ:「ええ、…そして国府津さんの直属の部下です、」
シオン:「初めまして、二宮シオンです、ヨロシクお願いします、」
それで「国府津さん」は一瞬素に帰って、僕をジロリと値踏みする?
国府津:「まあ、堅い話は月曜日にしよう、今日は只の「おじさん」と「青年」な、」
国府津:「そうか、君が「シオン君」か、…それにしても良く懐いたものだな、」
それから「国府津さん」はニヤニヤしながら僕の背中に隠れた「少女」の顔を覗き込む、
シオン:「あの、この女の子は、国府津さんのお知り合いですか?」
国府津:「ああ、その子もウチの社員だよ、「平塚・リョウコ君」、ヨロシクね、」
こんな小さな子がNAVEの社員?
マドカ:「こんな小さい子が、NAVEの社員なんですか?」
国府津:「見た目は幼いけど、歳は君達より上の筈だよ、」
国府津:「ちょっと訳ありでね、「平塚クン」は人と馴染むのが苦手なんだ、二宮クン何だか気に入られちゃったみたいだからさ、面倒見てやってくれないかな?」
訳あり、人と馴染むのが苦手、…全盲、聾唖、全身を障害者支援ICT機器で覆われた女の子、
僕が過去のトラウマに囚われて性格が歪んでしまった様に、
この子も何か、…辛い経験をして来たのだろうか、
僕は「戸塚さん」の隣に腰掛けて、
「ひろみさん」と「えりかさん」が僕達のグラスと荷物を運んで、自分たちは小さな簡易ソファで僕らの周りに腰掛ける、
「国府津」さんが真ん中で、その隣に「藤沢さん」、反対側にはグラマーな美人キャスト(名前はアカリさん)、
何故か「平塚さん」は僕の膝に頭を乗せて、…もしかして寝ようとしている???
国府津:「ところで、二人は付き合っているの?」
カスミ:「国府津さん! 行成り何聞いてんですか!」
突然の「上司」の質問に、狼狽える、僕、…
国府津:「だって、大事な事だよ、」
シオン:「いえ、…」
マドカ:「はい、出来れば皆には、内緒にして置いて頂けると嬉しいんですけど、…」
って、何言ってんの「戸塚さん」!
国府津:「なら構わないけど、…お互いにその気が有るのなら出来るだけ早い内にきちんと(結婚)した方が良いよ、私は社内結婚は大歓迎だが、社内恋愛は賛成しないよ、厄介事が増えるだけで困る、」
アカラサマに苦虫を噛み潰した表情の「藤沢さん」が何だか辛そうで、…可哀想になってくる、
マドカ:「そう言うお二人はどう言う関係なんですか?」
国府津:「元上司と部下、カスミが入社した時の課長が俺だった、こいつ生意気でさ、…」
カスミ:「国府津さん!」
何か、真っ赤になって、こんなに防戦一方って言うか、無条件降伏状態の「藤沢さん」も居るんだ、
マドカ:「それにしては、こんな場所で会って下の名前で呼んでいるなんて、…気の置けない間柄の様にも見えますが、」
と、ニヤニヤ嬉しそうな「戸塚さん」、
国府津:「そうだな、社外だってケジメは大事だな、これからはちゃんと「藤沢クン」と呼ぶ事にしよう、」
カスミ:「いいですから、今のままで! 飲みに行く時は良いって、…」
何か、こんなしおらしいって言うか、乙女チックな「藤沢さん」も居るんだ、…
誰が見たって分る、会って一週間しか経っていない僕にだって分る、「藤沢さん」は、「国府津さん」に好意を抱いている、…
二人は、そう言う関係なんだな、
カスミ:「戸塚さんも、変に勘ぐらないで、…ちょっと個人的に渡したい物が有ったから、無理言って時間を作ってもらっただけなの、」
国府津:「全く「藤沢クン」は何時まで経っても成長しないなぁ、」
止めの一言に「藤沢さん」はすっかり
一気に場がシラケる、
アカリ:「ちょっとぉ、お通夜みたいになっちゃったじゃない、どうすんのよ?」
美人キャスト、何故だか「国府津さん」の顎にアッパーカット一撃、
国府津:「しょうがねえな、今日は「若い二人」の将来を祝して、シャンパン奢ってやるよ、」
アカリ:「いよっ、イオリン太っ腹! ドンペリ?」
国府津:「違う! モエ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます