第011話「運命の再会」

やがて、僕達のテーブルに綺麗なドレスを身に纏った二人の女性が登場した、


一人は白いドレスの小柄なロングウェーヴ、

もう一人はグレーのミニスカートのグラマーなショートボム、



白ドレス:「お隣、座ってもよろしいでしょうか?」

マドカ:「あ、はい、どうぞ、」


ミニスカート:「失礼します、」

シオン:「あ、どうも、」


あっと言う間に僕達のソファはストロベリーの匂いがする柔らかな感触でいっぱいになる、



白ドレス:「ひろみです、」

ミニスカート:「えりかです、」


簡単な自己紹介から、仕事の話、僕と「戸塚さん」の関係、結構ズバズバと突っ込んだ質問が次々飛んでくる、


一方で僕らは、何を話せばいいのか判らなくて防戦一方、



ひろみ:「私達も、飲み物頂いて宜しいですか?」

マドカ:「どうぞ、」


すかさず黒服の女性が近づいて来て、「ひろみさん」が何やら小声でよく解らないお酒をオーダーしている、



えりか:「二宮さんって滅茶苦茶ハンサムですね、モテるでしょう?」

ひろみ:「本当、」


処で僕はこの手の話が大嫌いだ、…



ひろみ:「お二人は本当に付き合ってないんですか?」

マドカ:「ええ、同じ課の友達です、」


えりか:「じゃあ、私が二宮さんに迫っても構いませんか?」

マドカ:「全然問題ないですよ、」


僕にはいっぱい問題ある、



ひろみ:「戸塚さんも凄く綺麗、何か秘訣あるんですか?」

マドカ:「特にないですよ、…強いて言えば、ストレスを溜めない事かな、」


ひろみ:「わかりますー、でも、私はストレス発散できないから駄目なんですよね、」

えりか:「因みに何時もはどうやってストレス発散してるんですか?」


マドカ:「月並みだけど美味しいもの食べるとか、内緒だけど皆にちやほやしてもらうと結構癒されますよね、」

ひろみ:「ですよねー、って、それ綺麗だから出来る技ですよね、」


って、そういう事言っちゃうんだ「戸塚さん」、…



マドカ:「後、最近は二宮クンを眺めてるとかかな、」


ひろみ:「ああー、確かに子犬っぽくて癒されるかも、」

えりか:「アニマルセラピー的な?」


マドカ:「時々拗ねたミタイにムッスリしてる事があるんですけど、その顔がまた可愛いの、」


へー…

って、一体僕の事なんだと思ってたの「戸塚さん」?



えりか:「綺麗な手ですね、」


いつの間にか「えりかさん」が僕の手を取って指を絡めて、撫ぜ回している、


どきっとして思わず顔を合わせて見つめ合うと、…何故だか「えりかさん」が、うっとりと頬を染めている?



シオン:「あ、…すみません、僕、ちょっとお手洗い、」

えりか:「はい、こちらでーす、」


さっと「えりかさん」が立ち上がり、僕をトイレの前まで案内してくれる、




綺麗に清掃された個室、高級そうな洗面台、変な匂いなんか微塵もしない、

僕は良い香りのする石鹸で手を洗って、鏡の前で溜息を一つ、…


腕時計を見ると、この店に来てからあっという間にもう1時間が経とうとしていた、


そろそろ帰る様に促した方が良いかな、…

でも「戸塚さん」結構ノリノリだし、もしかして結構酔っぱらってるのかな?



ドアを開けて外に出ると、…



おじさん:「おっと、ごめんよ、」


酔っ払いのおじさんが、少しよろけながら僕にぶつかって、そのまま入れ替わりにトイレに入って行く、


えっと、元居たテーブルの在り処を探す、…何処だっけ、



と、辺りに巡らせたその視線の先に、僕は、


一人の女性を見た、…



凡そこの場の雰囲気とは場違いに、何か物想う様な遠い目をしながら一人ポツンと寂しげに、静かにグラスを唇に運ぶ、…


彼女の名は「藤沢・カスミ」、経理グループの主任


でも「藤沢さん」が、どうして此処に???





僕は「藤沢さん」に気付かれない様に、急いで元居た席に戻って、…



シオン:「戸塚さん! 向こうのテーブルに藤沢さんが居るよ、」

マドカ:「へー、挨拶したの?」


すかさず「えりかさん」が温かいおしぼりを僕に渡してくれる、



シオン:「してないけど、って、もしかして、戸塚さん知ってて、この店に来たの?」

マドカ:「あれ、言わなかったっけ?」



チラリと振り返った「藤沢さん」の隣に、さっきトイレですれ違った男性が腰を下ろす、


見るからにしょぼっと冴えない、痩せて草臥くたびれたおじさん?



僕は、人をその外見で評価する事が嫌いだ、生理的に受け付けられないと言っても良い、外見上に問題が有るからと言ってその人間の価値が貶められる事は有ってはならない、


それなのに、その筈なのに、…



どうしてだろう? 何故だか「藤沢さん」の隣に男の人が寄り添っている事が、…無性に、気に入らない、



シオン:「帰ろう、」

えりか:「えー、もう帰っちゃうんですか?」


マドカ:「じゃあ、私も藤沢さんに、ご挨拶してこよっかな、」

シオン:「駄目だよ、お互いプライベートで来てるんだし、」


気がつくと、綺麗事ばかり言ってる自分が居る、



マドカ:「もしかして二宮クンは私と二人で居る所を藤沢さんに見られたく無いのかなぁ?」


悪戯な顔でニヤニヤ笑う「戸塚さん」の美貌を、今日程忌々しく思った事は無い、…



シオン:「そう言う訳じゃないけど、…」

マドカ:「それに、ちょっと気にならない? あの藤沢さんが、一体どんな人と会って居るのか?」


シオン:「止めようよ、そんな詮索するのは、趣味悪いよ、」


あの「藤沢さん」が、あの男性と一緒に居るのには、きっと何か「理由」があるに違いないのだ、…


そんな「真実」は後で自分で、ゆっくり考えれば良いじゃないか、



マドカ:「ごめん、そんな怖い顔しないで、…分った、帰りますぅ、じゃあ、私もお手洗い、こっそり覗くだけ! ね、」


そう言って「戸塚さん」は、興味津々に席を立つ、


女って、どうしてこうもゴシップネタが好きなんだろうか? 

あんな真面目そうな「戸塚さん」まで、…



えりか:「誰か知っている人が居たの?」

シオン:「ええ、ちょっと、」


えりか:「そう言えば今日は確か、他にもNAVEのお客さん来てたわね、ママ(花帆)の古い知り合いで、昔の常連さん、…」



マドカ:「ごめーん、二宮クン、見つかっちゃったぁ!」


フロアの端から、「戸塚さん」が叫ぶ、

全く!…確信犯に違いない、





俯いて頭を抱える僕のシャツの袖を、その時、誰かが引っ張った、


ふと顔を上げたその視線の先には、…



一人の、小さな女の子、

身長は150cm位、小柄で華奢な体つき、肩にかかるかかからないかの髪を両サイドでツインテール風に束ねている。 すっきりと目鼻立ちが整っていて、どこか幼さ、あどけなさの抜けない、可愛らしい、…女の子、


僕は、この少女の事を、…知っている、

あの日、配属式の日に、交差点で踞っていた、女の子、


でもどうして、こんな所に?



不意に、赤ん坊の様な、子猫の様な、思わず抱きしめたくなる様な、なんだか、護ってあげたくなる様な、…居ても立っても居られない様な甘い匂いが、僕を包み込む、


シオン:「えと、あの、」

女の子:「シオン、…見つけた、」


迷子の子猫みたいなその少女は、今にも泣き出しそうな瞳で僕の顔を覗き見て、…


にっこりと微笑んだ、

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