第010話「初めての間接キス」
間接照明の薄暗い空間に、仄かに心地良い香りと、何だか落ち着いた雰囲気の音楽が漂っている、
僕達は、案内された低いテーブルの、沈むソファに二人並んで座り、
シオン:「あ、ごめん、」
マドカ:「おっと、…はは、」
思わず二人の太腿が密着して、「戸塚さん」の熱い体温が伝わってきた、
先程の「優しそうな女性」が僕の傍に跪いて、丁寧に下から名刺を手渡してくれる、
優しそうな女性:「始めまして、花帆と申します、よろしくお願いいたします。」
シオン:「ごめんなさい、今週配属されたばかりでまだ名刺持ってなくて、」
花帆:「お気になさらないで下さい、宜しければお名前頂戴してもよろしいですか?」
シオン:「はい、僕は二宮と言います、」
マドカ:「戸塚です、」
花帆:「二宮様、戸塚様、本日はようこそいらっしゃいました、」
想像していたのとは何だか違う、落ち着いた雰囲気、店員さんの応対も普段行く様なレストランや居酒屋なんかよりもずっと丁寧で、何だか持て成されている感が半端ない、…
花帆:「何か、お飲み物を お持ちしましょうか?」
マドカ:「えーと、梅酒はありますか?」
花帆:「はい、飲み方はどうされますか? ロック、ストレート、ソーダ割り、…」
マドカ:「ソーダ割りでお願いします、」
シオン:「僕は、何かカクテルが有れば、」
花帆:「どの様なものがお好みでしょうか? 甘いモノ、すっきりした感じのモノ、」
シオン:「甘い、飲みやすいのが良いです、」
花帆:「それでは、マンハッタンをご用意致します、」
「花帆さん」の指示で、隣に立って控えていたもう一人の黒服の女性がカウンターへ注文を伝えに行く、
花帆:「当店では、いらっしゃったお客様 お一人お一人に、お世話させて頂く「キャスト」を付けさせて頂いているのですが、構いませんでしょうか?」
シオン:「はい、お願いします、」
花帆:「ご指名はございますでしょうか?」
シオン:「えっと、初めてでよく解らないので、」
花帆:「それでは、私の方で選ばせて頂きますね、」
それで、「花帆さん」はもう一人控えていた黒服に何か小声で指示を出す、
マドカ:「あの、こういうお店って、私みたいな女が来ても大丈夫なんですか?」
花帆:「勿論です、女性のグループでお越しになる方もいらっしゃいますよ、」
へー…
って、戸塚さん本当にこういうお店に興味があるのだろうか?
辺りを見回すと、幾つかのテーブルでは男性客に綺麗なドレスの女性が寄り添って親密そうに会話している、…何だか楽しそうに盛り上がっているテーブルも有る、
危ない店では無いミタイで、又少し安心する、
やがて綺麗なグラスに入ったカクテルと梅酒ソーダ割りが運ばれて来た、
花帆:「すぐにキャストも参りますので、もう暫くお待ちくださいませ、」
そう言うと「花帆さん」は丁寧にお辞儀をして何処へともなく消えて行く、
マドカ:「面白ーい、私こういう店に来たの初めて、」
シオン:「僕もだよ、」
マドカ:「乾杯しよっか!」
取り敢えず、僕達はグラスを手に取って、…軽く音を鳴らす、
マドカ:「あ、美味しい、この梅酒、」
果たして、大き目のグラスの中で細かく砕かれた氷の隙間に満ちた琥珀色の「マンハッタン」は、冷たくて甘くてスーッと飲みやすくてそれでいて、…喉の奥に落ちてからホカホカと熱を持つ、不思議な飲み物だった、
シオン:「美味しい、」
マドカ:「ねえ、それ一寸もらっても良い?」
え、…
興味津々に目を丸くする「戸塚さん」に、
だって、僕口付けちゃったよ、…とは言い出しにくくて、僕はすごすごとグラスを渡す、
「戸塚さん」は間接キスなんかひとつも気にしてないミタイに、すーっと一口、…
マドカ:「本当だ、美味しい、」
シオン:「今さらだけどさ、戸塚さんって当然二十歳過ぎてるんだよね、」
マドカ:「あら、二宮クン、女性に歳を聞いて良いのは、結婚する覚悟が出来た時だけよ、」
そう言って、又、「戸塚さん」は僕に向って意味深な笑顔を浮かべて見せた、
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