第007話「心労の仲良しイベント」

配属5日目の金曜日

僕の机に同期会幹事の「浜岡・リュウヤ」が訪れる、…同期会主催のGWバーベキュー大会(泊り)に僕から「戸塚さん」を誘ってくれと言う依頼だった。


「浜岡クン」は同期の中でも「ナギト」と並ぶリーダー気質の人間で、要するに兎に角仕切るのが好きらしい、それで何故だか「ナギト」と仲が悪い、同属嫌悪と言う奴だろうか、



シオン:「わかった、今日中に聞いてみるよ、」

浜岡:「頼む、何としてでも戸塚さんには参加してもらいたいのだ、」


要するに皆可愛い子が好きなのだろう、でも会社って本当にこんなんで良いのだろうか? 大学生とあまり変わらない気がする、


更に輪をかけて僕は大学時代からサークルとか合コンとか、そう言う仲良しイベントには縁がなかった(注、自分から遠ざかっていた)から、そこに有る価値観がイマイチ分らない、


そうは言っても一応引き受けたからとトボトボ「戸塚さん」の所に行くと、まさに丁度、車体開発グループの先輩達が彼女をGWのテニス旅行イベントに誘いに来ていた所だった、一歩遅かったか、…



マドカ:「楽しそうですね、テニスは大学時代に少しだけやった事が有るので、行ってミタイ気はするんですけど、実は予定が入ってて、…イギリス赴任している従兄弟が一時帰国するので、親戚で鳥取に旅行する事になっているんです。」


「戸塚さん」の和やかな微笑みと「長谷部さん」の血走った警戒の眼差しに見送られてスゴスゴと引き上げて行く先輩達の後ろ姿、…コレじゃ同期のイベントに誘っても無理そうだな、



森:「二宮君、一寸良いかな」


僕は呼び止められて、そのまま「森さん」のデスクへ、…41インチの液晶ディスプレイには、午前中に僕がまとめた各部別の「予算実績まとめ」表が映し出されている。 更に部別のデータが開発プロジェクト別に分類されていて、表中の「電装開発グループ」の行が赤字に自動変換されている、



森:「此処を見て、…開発コードFSC319のプロジェクトの労務費実績が予算超過している、今週だけで130%に行ってる、先週迄はこんな傾向は全く見られなかったんだ、何が起こっているのか、大至急調査する必要が有る、」


FSC319とは、第2プロジェクトマネジメントグループが担当する「第6世代自家用自動運転小型車」の暗号コードの事だ、



森:「此の侭だと開発費が足りなくなってプロジェクトに支障が出るからね、こう言う場合は、予算を超過している該当部署とプロジェクトマネジメントグループに警告を出すんだ、」


シオン:「でも、なんで超過しちゃったんですか?」


森:「さあ、詳しい事は該当部署に調査してもらわないと分らないけど、大抵は開発中のトラブル対応が原因の事が多い、そう言う意味でもこの警告はプロジェクト開発に問題が起きていないかの指標になっているんだ、経営者の判断材料としても使われている、」


森:「警告は関連部署にE-mail配信するのと、毎週月曜日の予算実績管理部長会議で各部部長に報告する事になっている、これからその報告書作成を一緒にやってみようか、」





NAVEでは現在大きく分けて3つのプロジェクト開発が進められていた、


一つ目は、第1プロジェクトマネジメントグループが指揮する「コミュータ」の様な大手タクシー、バス、レンタカー会社向け商品、


二つ目は、第2プロジェクトマネジメントグループが指揮する「自家用自動運転小型車」


三つ目は、第3プロジェクトマネジメントグループが指揮する「輸送業者向け商用車」


そして2031年から始まる国家プロジェクトの「第3フェーズ」の目玉の一つが「第6世代自家用自動運転小型車」だ。


第6世代自動運転小型車は、専用設備の整った試験導入地域だけでなく、従来のマニュアル運転自動車や自車の位置情報を発進出来ない旧車が混在する市街地でも安全に自動運転を実現する為に、従来よりも車載センサーや運転装置が増やされている、


更に周囲の信号機や街灯(注、此の時代送電線は全て地下に埋設されて電信柱は絶滅している)に設置した監視カメラやレーダーの情報とも連携して、車載AI(人工知能)で安全運転確保と緊急時対応が出来る様に、第5世代よりも大幅な制御仕様変更がなされる計画だった、


その特定部署の開発に何か問題が起きているとすれば、それは由々しき事態と言える、



僕は「森さん」の指示の下、2時間かけて部長会報告書を作成し、その報告者蘭に初めての自分のサイン(注、自筆のサインをスキャンした電子サイン)を入れた、



シオン:「何だか緊張しますね、」

森:「なに、直ぐに慣れるよ、」


それから報告書をサーバーの会議資料用フォルダーにアップロードして、一連の作業は完了、





そう言えば、第2プロジェクトマネジメントチームって「ナギト」の配属されたグループだったな、…と言う訳で、定時後「ナギト」に話を聞いてみる、



ナギト:「へえ、部長会資料なんか作ってんだ、凄いな、…俺なんかまだ主任にくっ付いて見習い作業員としてOJT(On the Job Training)やってるばっかりだぜ、」


シオン:「それで、何で予算超過しちゃったか知ってる?」


ナギト:「うーん、ごめん本当は分ってないとイケナイんだろうけど、…知らないな、主任に聞いてみようか?」


シオン:「有難う、来週月曜日の部長会で正式に部長に調査をお願いする事になっているらしいけど、こういう問題の状況把握と対応って、本当はトップからのカスケードよりも現場間の有機的情報コネクションの方が有効だよね、きっと、」


ナギト:「流石、情報工学の第一人者だな、」

シオン:「総務だけどね、」


其処へ再び同期会幹事「浜岡クン」が現れた、やっぱり「ナギト」は外方を向いて目を逸らす、



浜岡:「聞いてくれた?」

シオン:「未だだけど、駄目みたい、…GW中はずっと予定が詰まってるって、」


浜岡:「そう言えば、総務部って今日これから飲み会だよな、」

シオン:「よく知ってるね、」


浜岡:「終った後さ、戸塚さん呼び出せないかな? 同期で飲まない?」

シオン:「僕は遠慮しておくよ、何だか色々あって疲れちゃった、」


浜岡:「なんだ付き合い悪いな、じゃあ、戸塚さんだけでも誘ってみてよ、」

ナギト:「自分で誘えば良いだろう、同期会幹事なんだろ?」


「浜岡クン」、じろっと「ナギトの後頭部」を一瞥してから、



浜岡:「しかなたい、聞いてみるか、」


「浜岡クン」、まるで勝ち目の無い戦にかり出される小大名?ミタイに、トボトボと「戸塚さん」を追いかける、

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