第001話「想いの侭に成らない配属」
時は2029年3月30日(金)
場所は品川にある「ニホンアートノモスビークル株式会社」の社員研修センター講堂、
通称NAVE(Nihon Autonomous Vehicle Engineering CO., LTD.)と呼ばれるこの会社は、日本の産学官共同国家プロジェクト「完全中央統合制御型自動運転自動車交通網」の開発に参画する為に自動車産業とIT産業を母体として業態再編・設立された幾つかの新会社の一つで、自動運転電気自動車製造販売と関連通信サービスを生業としている。
僕の名前は「二宮・シオン」24歳、この会社の新入社員だ、
入社後1年間の工場・販売実習を終えた今日、僕達新入社員60名は会社の講堂に集められて、本社人事の加藤部長から一人一人名前を呼ばれて辞令を拝領していた、
僕は研修中に知り合った「川崎・ナギト」と並んで座り、神妙な面持ちで順番を待つ、
シオン:「どうだった?」
ナギト:「ま、こんなモノかな、」
B5サイズの紙の辞令には「第2プロジェクトマネージメントグループ」と書かれてある、
今時「紙」を使うなんて少し時代錯誤な気もするけれど(通常、連絡事項はタブレットに電子媒体で送付されてくる)、それ位重要事項と言う事なのだろう、或いはある種の記念品的意味合いなのかも知れない、
処でプロジェクトマネジメントグループとは、各技術開発グループを束ねて製品としての自動運転自動車の開発を推進するグループである、…仕切屋で面倒見の良い「ナギト」には打って付けの配属先と言えなくもない、
加藤部長:「二宮シオンさん」
シオン:「はい、」
僕は、緊張しながら壇上の人事部長の前に立つ、
加藤部長:「頑張ってください、」
拝領した辞令には、…「開発総務部」?
シオン:「総務部って、何するんだろ?」
ナギト:「こういう新人教育とか、集会の仕切とか、受付とか、社内放送とかじゃないか?」
僕には夢が有る、いや、どうしても果たさなければならない「約束」が有った、
これまでその為に、その為だけに全てを投げうって必死に勉強し、大学から大学院を修了して、交通情報工学学会では少しは名の知られた研究者になったつもりだった、
一年間の研修期間中も、僕の研究を知っている何人かの先輩や社員教育の講師からは「交通工学に関する最新理論を社内に広めて欲しい」と期待の言葉をかけてもらっていた、
僕は一刻も早く研究開発の最前線に参画して、自動車に関する事故や事件の撲滅に全力を尽くさなければならない筈だった、
それなのに、…
シオン:「すみません、これって、何かの間違いじゃないですか?」
僕は式の後、後片付けを始めていた人事部の「三枝課長」の所に確認に行った、
三枝課長:「各人の学歴と研修期間中の適性試験結果に基づいて、現時点で最も相応しいと思われる配属先を決めているんだよ、石の上にも三年って言うだろう、先ずは何事も経験、その上でどうしても異動を希望する場合は、所属部署の上司とキャリアプランについて相談しなさい、」
何だか想定回答の様にスラスラと「三枝課長」の口をついて出た台詞は、世間一般的には何一つ間違っていないのだろう、
会社にとっては一人一人の最適よりも会社全体の最適が優先されるのだ、僕よりももっと優先される人材がいたのかも知れない、
でも、この人は本当に其処まで解って言っているのだろうか? この会社の為に交通工学を役立てる事が出来る人間のノウハウを活用しないで、…本当にそれが会社にとっての最善だと思っているのだろうか?
取付く島も無く、…
あからさまに納得行かない渋い顔で「ナギト」の元へ戻る僕の肩を、誰かがポンと叩いた、
振り返ると其処には、一人の美少女が立っていた。
(作者注、小柄ながらもメリハリ凶悪ボディとユルフワソバージュの美少女、綺麗な小顔にバランスよく配置されたクリンクリンの大きな瞳と長い睫毛、すらっと鼻筋が通っていて、ほんのちょっと厚めの唇はアヒル口に微笑んでいる、)
彼女は大きなリボンが付いたクリーム色のブラウスと淡いグレーのタイトスカートに身を包み、何故だか僕に握手を求めて、すらりと細い右手を差し出している、
柑橘系の爽やかな香りが、遅れて僕を包み込む、…名前は確か「戸塚・マドカ」、
マドカ:「二宮くんも開発総務なんだ、これから宜しくね、」
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