第002話「完全中央統合制御型自動運転自動車交通網」

配属式から社員寮への帰り道、

僕と「ナギト」は横浜駅からコミュータ(自動運転タクシー)を利用する、


駅前の駐車場に常時複数台駐車されている内の一台のドアにIDカードを認証してドアロックを解除し、座席に乗り込むと自動的にカメラが僕達の生体認証をチェックする、


液晶パネルに郵便番号を入力すると目的地付近の地図が映し出されて、降車希望場所を指でタッチ、それからデビットカードから引き落としされる金額を画面で確認してボタンを押すと、…ゆるゆるとコミュータが走り出す(注、自動車専用道路以外の車速は時速5km以下の徐行と法規で定められている)、


やがてコミュータは半地下に敷かれた完全密閉式の自動車専用レーンへと降りて行くと、見る見る内に車速は時速100kmまで上昇する、




国家プロジェクト「完全中央統合制御型自動運転自動車交通網」

このプロジェクトは自動運転自動車を軸とした交通事故・犯罪の撲滅を目的として発足した新交通システム開発である、


横浜市、川崎市を及び東京23区、関東圏以外では札幌市がその試験導入地域に指定されていた、


第一フェーズは2021年~2025年

対象地域の市街地の車道を可能な限り歩行者から隔離する為の新自動車専用道路網、通称「チューブ」が施設された、(注、チューブは天井部分を除いて地下に埋設されている)


チューブには所々に魚眼レンズが取り付けられていて、そこから得た映像データを修正してチューブ内を自動運転する自動車のスクリーンには「まるで外を走っているような映像」を映す事が出来る、



第二フェーズは2026年~2030年

その上で対象地域への第5世代自動運転自動車以外の乗り入れを制限した、


(作者注、第1世代は自動安全ブレーキや車線逸脱ワーニング、第2世代は安全確保を目的としたステアリングやブレーキ補助機能、第3世代は限られた運転条件下での完全自動運転、第4世代は他自動運転自動車とのデータ連携及び交通連携機能、第5世代は道路交通情報センターからの操作で緊急時強制運行停止や誘導及び渋滞緩和運転機能を備えた車を指す)


第4世代以前の自動運転自動車やマニュアル運転自動車を使用する者が対象地域を訪れる際は、公共交通機関を利用するか、新海老名サービスエリア等、幾つかのサービスエリアに設置された超巨大立体駐車場に自家用車を駐車して、そこから自動運転タクシーに乗り換えて対象地域に乗り入れる事になる、


マニュアル運転機能付きの第5世代自動運転自動車でのマニュアル運転での乗り入れは可能だが、道交法は2020年以前に比べてはるかに厳しくなっており、違反行為は即座に自動的に道路交通情報センターに通知され、警察権限によって中央制御で強制的に運転停止される事もある、また自動運転自動車はドライバーの酒気帯び・疲れを自動感知して運転不可と判断した場合は自動的にマニュアル運転を停止する仕組みになっていた、


一方で滅多に自動車が走らなくなった旧車道には我が物顔にマナーの悪い自転車が溢れかえる様になった、その結果むしろ以前よりも小規模交通事故は増加の傾向にあり、これは新たな問題となりつつある、



因みに再来年、2031年から始まる第三フェーズでは、

より安全運転精度を向上した第6世代自動運転自動車の導入と同時に、関西、中部、九州地方への対象地域の拡大を目指している、


これほどまでに自動運転自動車と歩行者の共存に慎重になるのは、「自動運転AI(人工知能)は誰かに傷を負わせなければならない場面で責任を取れない」問題、通称「正義の問題」が立ちはだかる為である、


例えば「行き成り飛び出した幼児」と「対向車」と「それらを避けるために壁に激突する自分」の内の誰かを傷つけなければならないシーンに遭遇した場合、どれかを選択したAIには「傷つけてしまった相手」に対して責任を取れないと言う事だ、







僕の掌には、柔らかな「戸塚さん」の指の温もりがいつまでも残っていた、女の人の素肌に触れたのは、一体何年振りだっただろうか、


「チューブ」を疾走するコミュータのシートに座り、僕は黙り込んだ侭じっと掌を見つめる、


そんな僕の事を心配してか「ナギト」がボソリと呟いた、



ナギト:「お前は石川啄木か? 総務だって立派な仕事だろう、実際にやって見なきゃ自分に合っているかどうかなんて判んないって、」


まあ、正論だけれど、



ナギト:「それに、同期のアイドル「戸塚・マドカ」と同じグループなんて、或る意味ついていると言えなくもない、…仕事だけが人生じゃないと思うぜ、」


まあ、その通りだけれど、


だからと言って、そんなに簡単に割り切れるものでは無いのだ、

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