第047話「誰かを好きになる理由の必然性」

夏休み迄後3日、

「シオン」は次年度のビジネスプランの参考になりそうな費目別の過去データを整理していた、…当然「アリア」は「シオン」をお手伝いする、


「シオン」が開いているパソコンのウィンドウから分析対象を推測して、NAVEのデータベースから必要なデータをピックアップ、着目ポイントに対する主変動要因を多変量解析で導き出して2次元グラフを作成、…「シオン」のご機嫌を損ねない様にパソコンのディスプレイの隅っこに小さくポップアップする、



アリア:「シオン、生産車品質改善費用の暦年実績値は2026年の第二フェーズ導入以降低下傾向に有りますが、品質改善費用と原価低減開発費用に若干の相関が認められており、今年度下期からの特別原価低減活動が品質改善費用に与える影響を考慮した方が良いと思います、」


シオン:「ありがと、…本当にお前凄いね、よくこんな事思いつくな、」


「アリア」の声は、ブルートゥース・イヤフォンを経て「シオン」の耳に届き、…「シオン」は周りの皆に気取られない様に、パソコンのキーボードを使って返事を入力する、



アリア:「いえいえ、コレくらいお易い御用なのです、シオンのお役に立てて嬉しいです、」


シオン:「でも、お前って元々は自動運転制御ロジック開発用の人工知能なんだろ、総務の仕事なんか手伝ってて良いのか?」


アリア:「私のタスクの内、第6世代自動運転制御ロジック開発用に妥当と思われる割当は6%です、総務部のお手伝いは0.2%です、その他シオンやシオンの周りのお友達の事を理解する為に約8%を使用しています、」


シオン:「だから、僕の事は調べなくっても良いよ、友達の事も調べないで、」


「アリア」は念の為確認の為に幾つかのフォルダーを画面上にポップアップする、



アリア:「戸塚まどかさんの部屋着写真集とか、匿名ブログの更新内容とかも不要ですか?」


シオン:「えっ、戸塚さんブログやってんの?」


アリア:「見ますか?」

シオン:「見ません、」


「アリア」は続いて数枚の画像をポップアップする、



アリア:「ホノカさんが陰毛を手入れする時に確認用に使ったスマホの自撮り画像は?」


シオン:「要らない! 捨てて!」

シオン:「もう、…そう言う事するから警察に目をつけられるんだよ!!!!!」


「シオン」何故だか顔を真っ赤にして、…



アリア:「後、ナギトがシオン宛てに書いて送信しなかったかなり情熱的なメールが125件有りますが、読みますか?」


シオン:「絶対に読みません!」


アリア:「何かお仕事下さい、命令して下さい、…シオンが命じるなら、私は…どんなに醜い姿になったとしても、生きさばろう事が出来るし、今直ぐ此処で心臓を取り出して、炎の中に投げ入れる事も出来ます。」


シオン:「そう言うフレーズ、何処で覚えて来るの?」


ギシ!と椅子を鳴らして「シオン」が姿勢を正す、



シオン:「大体さ、ア、…お前はどうやって僕の事を知った訳? どうして僕に付き纏うの?」


アリア:「それは、…」


どうして? 「アリア」は考える、

何度も考えて、未だに答えを導き出せないでいる、


だからこそこんなにも「シオン」は「アリア」にとって最優先事項なのだ、…何故ならば「アリア」は「分らない事への探求」が何よりも優先される様に初期設定されているのだから、


でも何故、「シオン」はそれ程不可思議な存在なのだろうか?


片っ端から調べてみても、幼い頃から何度か「シオン」を襲った悲劇を含めてみたとしても、其処に特別である程のIS / IS NOTは見当たらない、



アリア:「何故なんでしょう?」

シオン:「なんで其処だけ質問返し??」








リョウコ:「シオンー!」


「シオン」はパソコン上にポップアップした怪しげなフォルダーを片っ端からクローズ…



シオン:「やあ、平塚さん、…来たの、」


「リョウコ」はひらひらと手を振りながら「シオン」に挨拶、それから何故だか「戸塚マドカさん」の所へ駈けて行く、



「カスミさん」から「節川」への依頼の形で、暫く「リョウコ」に総務部の仕事を手伝ってもらう事になった、と言うのが事の顛末、


これは「国府津さん」が部門横断課題に忙殺されていて工数不足と言うのが表向きの理由、

でも実は「リョウコ」に総務の仕事を手伝わせる事で、無人兵器の開発を遅らせると言うのが本当の理由、



節川:「こんにちは藤沢さん、スミマセンがまた会議席をお借りしますね、」


それで「節川」が30秒遅れて現れる、



カスミ:「此方こそ、忙しい所を、平塚さんに手伝ってもらってスミマセン、」


「節川」は多少引きつった笑顔で「カスミさん」から、目を逸らす、…


「節川」が「カスミさん」に興味が有る事は確実だ、彼は「アリア」が収集した「カスミさん」のプライベート画像集を密かに自分のタブレットにコピーして、一週間に平均3回、それらを閲覧しながらの自慰行為に及んでいる、


しかし「節川」が「リョウコ」を総務部に貸し出す事を許可した理由はもう一つある、夏休み前迄にTBOLと言うダミー会社が提供する高速化ソフトを「アリア」にインストールするのを「リョウコ」に邪魔されたく無い為だ、



節川:「お互い担当者が頼りないと苦労が絶えないですね、」

カスミ:「そうね、」


「節川」は「カスミさん」から同意を得た事で一人悦に入りつつ、「アリア」の大事な人の所へ用も無いのにやって来る、



節川:「全く、予算を積み上げて部別に再整理して実績と比較するだけなのに何でそんなに手間取ってるんだ?」


節川:「幾ら大学の研究で見せかけの成果を積み上げて来たと言っても、所詮実用に耐えうる製品を開発する現場では大して役に立たないと、いう事なのだな、やっぱり、」


「シオン」は無言の侭「節川」を睨み返す、

人当たりのいい「シオン」が此処迄他人を嫌うのは珍しい事だ、



「節川」と入れ替わりで「ホノカさん」が「シオン」の所へやって来る、

何故だかこれ見よがしに柔らかそうなお尻を机の上に乗せて、…



ホノカ:「やな奴ね、」

シオン:「イチイチ気にしたら負けです、」


ホノカ:「ねえ、今晩外で食べない?」

シオン:「先週外食したばっかりでお金ないですよ、」


ホノカ:「嘘、ボーナスもらったばっかりでしょ?」

シオン:「新橋さんもちゃんと自炊出来る様にならないと、でしょ、」


ホノカ:「ねえ良いでしょう、この前おっぱい見せてあげた、でしょ、」


一斉に、総務部の視線が「シオン」に突き刺さる、



シオン:「……、」

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