第7話 少女の涙は見たくない

【前回のあらすじ】 

 公園内のフリマを見て歩く鏡太。有翼人種の女性からせがまれ白い羽を購入。お腹がすいた鏡太は露店エリアまで引き返しタコ焼き屋を発見。店主のベルから悪魔に付いての情報を聞く。一通りフリマをみた鏡太はコミケエリアを目指す。そこへ現れたのは紫音の妹の朱音。初め紫音と思っていた鏡太は驚く。そしてお腹が減っていた朱音をファミレスへ連れてくる鏡太。朱音の注文のパフェで一苦労。鏡太の波乱は尚も続く。


 ファミレスで食事を終えた二人。鏡太は食後の予定を朱音に聞く。

「朱音ちゃんはこれからどうするの?」「朱音でいいの」

(えっ!えっ!僕この子その気にさせる事した?カップルパフェ恐るべし!)

「でもね~僕達そんな関係でもないし」

「お姉ちゃんが朱音て呼ぶの」

「そう言ってもね」「男に興味ないの(ボソッ)」(ガーーーン)

 鏡太は朱音の言葉に凄くショックを受けた。

「じゃ何が好きなの?」

 BLと即答する朱音。(聞いた僕がバカでした!・泣)

「朱音ちゃん、どこ行くか外を散歩しながら考えよっか」「うん」

 鏡太はそう言うと会計をすませて朱音と外へ出る。


 ファミレスを出てブラブラ歩き出す二人。朱音が立ち止まる。

「取材したいの」

 突然の言葉。暇を持て余してる鏡太は朱音の行きたい場所ならどこでも良いと思っていた。

「どこ付き合うよ」

 朱音は豪華な建物を指差す。

「あそこ、ご休憩」

「ん?(ギョッ)あなた!そんな言葉どこで覚えてきたの!悪い子ね!あれは、お子ちゃまが行く場所じゃありません!大きくなって行きましょうね!」

 どこへでも行くけど、それだけはダメだと思う鏡太。ゴージャスな飾りをしたお城みたいな建物ラブホを無視した。


(この子は恵だ!恥ずかしいとかなく無垢むくなんだ!でもBLなんだよな)

 鏡太はハラハラして朱音の横を歩いて行く。朱音はまた立ち止まった。

「待つ取材」

『ハッ!』鏡太は辺りを見る。怪しい所は別にない。朱音はスケッチしてるようだ。

「なに書いてるの?」

『これっ』と朱音は葉っぱを指差す。鏡太はよく目をこらして見てみる。

「ん~?(昆虫の交尾合体)見てはいけません!」

 鏡太は朱音の目を両手で隠す。


 これ恵どころじゃないよ。着ぐるみ着たエイリアンじゃないのか!このままでは

ヤバイ!どこか他の場所に連れて行こう。普通じゃないと感じた鏡太は朱音に声をかける。

「朱音ちゃん商店街行こうか」「うん行く」

 朱音を連れ商店街の方へ歩く鏡太。10分ほど歩くと商店街入り口についた。

「あっ!あれやるの」

 突然、朱音はゲーム店のUFOピッチャーめがけ走り出した。


(ドンッ・キャッ)

 朱音は丁度ゲーム店から出て来た客と出会い頭にぶつかった。

 相手はガラの悪い3人組。朱音は本をばらまき倒れている。

 それを見た鏡太は朱音が気がかりで叫んだ!

「朱音ちゃん大丈夫!」


 転んで寝そべっている朱音に3人組はからんでくる。

「おい!コラなにぶかってんだおぉー」「なんだ!この嬢ちゃんキモ!」

「BL本なんて持ってるぜキモイよな~」

 朱音に容赦なく罵倒ばとうをあびせてくる三人組。一人の男がBL本に手をのばす。

「それ大切なの触らないで!」

 朱音は男につかみかかる。

「何が大切だ!こんなもん」

 男は朱音の言葉を無視。BL本は無残に破られ飛び散った。

「や、いやーーー!やめてーーー!」

 朱音の叫び声が商店街に響き渡る。


「へっ!いい気味だぜ」「ついでにこいつの服も破くか!」

「そりゃいいな。素っ裸にしようぜ!ウヘヘ」

 3人組は尚もさげすみ、朱音の胸ぐらをつかんだ。

 それを見た鏡太は激怒!

「こいつら!もう我慢できない!」

 そう言うと朱音のそばへと駆け寄り怒声を浴びせる。

「お前ら離れろ!」

「なんだ~お前は?関係無いやつは引っ込んでろ!」

(3対1だ勝ち目はない。朱音ちゃんだけでも逃げてくれれば)

「この子に触るな!朱音ちゃん逃げるんだ!」

 鏡太は朱音に触れている男の手を払いのける。

「で、でも鏡君が・・・」

 朱音は決断を迷っている。一刻も速く朱音を逃がそうと鏡太は叫んだ。

「いいから早く!僕は大丈夫だから行くんだ!」

「う、うん!」

 走り去る朱音。その姿を見た3人組は行動にでた。

  

「チクショウ、女にげやがった!」「追いかけようぜ!」

 朱音を追いかけようとする3人組の行く手をはばむ鏡太。

「行かせない!朱音ちゃんを泣かしたお前たちを許さない!」

 鏡太の表情は怒りに震えている。朱音を取り逃がした3人組は鏡太を倒そうと

身構えた。

「お前~!俺達、人狼に勝てると思ってるのか?」

「勝てないでいいんだよ!」

「ほ~舐めるな!(ボスッボスッ)」

 3人組のパンチや蹴りが何度も鏡太を襲う。

『ウガッ』鏡太はうめき声をあげ、倒れては何度も起き上がる。

「ハァハァ。しぶといやつだな(ボコッ!)」

 人狼のパンチが鏡太のミゾオチに決まる『ゴホッゴホッ』と地面に転がる鏡太。意識が次第に遠ざかる。


 ピクリとも動かない鏡太を見ている3人組。

「チッ!のびやがった、行こうぜ・・・ぺっ」

 動かない鏡太に唾を吹きかけ、何処かへ消えた。


 鏡太はボコボコに殴られ気絶して道へ倒れている。しばらくすると雨がポツポツと降りだした。ピクリとも動かない鏡太。どれほどの時が過ぎたのか・・・。雨は次第に土砂降りになった。


混濁こんだくした意識の中、誰かのかすかな声が鏡太に聞こえてくる。


「鏡君・・・。目を開けて鏡君。・・・やだ。・・・死んじゃ、やだ鏡君」


 鏡太は泣きながら呼びかける朱音の声で意識を取り戻した。ゆっくりと目を開ける鏡太。

 その目に映ったのは、びしょ濡れになり鏡太に覆いかぶさる様に泣く朱音の姿。

(僕は気絶してたのか・・・)

「鏡君、死なないで・・・。鏡君・・・」

 鏡太は無事を知らせるように朱音につぶやく。

「大丈夫だよ・・・」

「うん。うん。うん・・・」

 鏡太の声を聞いた朱音は少しだけ落ち着きを取り戻し、何度もうなずく。 鏡太は逃げたはずの朱音がなぜココにいるのか疑問で聞いた。

「どうして戻ったの?」

「だって・・・。だって」

 涙を流し目をこする朱音。鏡太も朱音が自分を心配し戻ったのは理解出来ていたが、あの3人組がまだいたらと思うと朱音の行為を素直には喜べない。


 鏡太は飛び散ったBL本を眺めて言う。

「本ダメになったね」

「いいの。いいの・・・。鏡君が無事なだけで」

 泣いてはいるけど朱音の無事な姿を確認できた鏡太はホッとした。

 その途端、忘れていた痛みが鏡太を襲い激痛が走る。

「痛っ!かなりなぐられたな」

 そう言いながら起き上がろうとする鏡太。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「気にしないで、すぐ治るから」

 朱音は何度も謝り、鏡太のワキに手を差し伸べ肩を貸そうとしている。

「大丈夫、歩けるよ・・・」

 鏡太は朱音を助けた安堵感で意識が朦朧もうろうとし、今にも気絶しそうだった。だが再び倒れたら朱音を泣かすと思い強情に堪えていた。


 降りしきる雨の中、二人寄り添い歩いているとキーーー。と一台の車が止まる。

 バタンと車のドアを閉めて一人の女性が鏡太の方へ駆け寄る。


「黒井君、大丈夫?しっかりしなさい!」

「ああ・・先生・・どうして?」

「そんなことはいいの!さあ二人共、車に乗って!今病院に連れて行くからね」

 サクラ先生は鏡太と朱音を乗せて病院へ向け車を走らせる。

「あなたエライわ!頑張ったわね。逃げた琴川さんが学校に連絡したのよ。もう心配で飛ばしてきたわ」

 鏡太は朱音を見る。恥ずかしそうにうつむいてる朱音。

「ありがとう。朱音ちゃん」

 鏡太は薄れゆく意識の中で朱音にお礼をいった。


 病院のベッドの上で目覚めた鏡太。天井を見つめ口ずさむ。

「ここは・・・。病院なのか、僕また気絶してたんだ」


 鏡太は入ってきた担当医さんから病状を聞いた。放っておいても自己再生で治るが、万一の為に病院で治療したとのことだ。

 腕には点滴(再生促進剤さいせいそくしんざい)が射たれていた。


(ウイーン自動ドア音)

 病室にサクラが入ってきた。鏡太の顔をのぞき込み話しだす。

「目覚めたようね。先生、あなたバカだと思ってたけど見直したわ」

 死人に鞭打むちうつようなサクラの言葉。(ひどい言われようだよ)

「相手は人狼よ、一人相手でも勝てるはずないわ」

「ははは(苦笑)もう夢中で気がついたら寝てましたよ。それより朱音ちゃんは」

「家に無事送り届けたわ。貴方の家にも連絡しておいたから、後で家族の方も来るはずよ。あと明日は学校休みなさい」

「一日寝てたら大丈夫ですよ」

「人狼の爪には毒があるのよ、抜けきらないかもしれないから用心のため寝てなさい。それじゃ先生は帰るわね」

(毒があるんだ知らなかった)と思う鏡太は人狼の恐ろしさを噛みしめる。

「先生ありがとう」

 鏡太がお礼を言うとサクラは病室から出て行った。


「寝てるだけも退屈だ、圭介何してるだろう・・・アーー!」

 圭介の事を思い出した鏡太は、体中を触りポケットも調べる。

 だがどこにも圭介の姿は見当たらない。

喧嘩けんかの時に落としたんだ!僕はまだ出歩けないし。う~ん。そうだ!

ここは岬さんに頼んでみよう」

 腕時計から岬へ連絡を取る。プププ。岬が通話にでると立体映像フォログラムが映しだされる。

「あれ鏡君どうしたの?(鏡太は事情を説明)わかった今から探しに行くね」  

 岬はそう言うと通信を切った。

(岬さんなら探し当てるだろう)そう思い20分が経過した。


 岬の連絡を待つ鏡太。ピピッ!ピピッ!(岬さんからだ!)

「鏡君いたわよ!ゲーム店の自販機前の空き缶に座って泣いてたわ。確保したから鳥かごにでも入れとくね」

「岬さん。圭介が元の姿になるまでは絶対に外に出さないでね」

「わかったわ!それじゃ」

 プン通信切れ。同時に立体映像も消える。


鳥かご、それがいいかもしれない。圭介は小さい利点にまだ気がついていないし、絶対エッチな事やるからな~。と思う鏡太だった。


(ウイーン)自動ドアが開いた。

「鏡ちゃん、お母さんを置いていかないでー」

 陽子は涙を流しながら鏡太に抱きつく。

「母さんどこにもいかないよ。しょうがないな~」

 陽子の泣き顔がおかしくて笑いがこみ上げる鏡太。


(ウイーン)自動ドアが開いた。

「お兄ちゃん恵を置いていかないでー」

 恵も涙を流しながら鏡太に抱きつく。

「もう恵まで~。どこへもいかないよ、しょうがないな~」

 恵も可愛い所あるよな~。鏡太はヨシヨシと頭を撫でてやる。


「お兄ちゃんの嘘つき!恵、置いてバザー行ったじゃない!」(兄を心配してー)

 この妹は兄の心配より自分が遊ぶことだけを考えている。

「ごめんな恵、来週辺りにでも連れて行くよ」

「約束だよー」恵はご機嫌になった。

「母さん明日は先生が学校休んでいいって、朝起こさなくてもいいからね」

「私の楽しみが減ったわ。でも鏡ちゃんが1日入院だとお家がさびしいわ。恵ちゃんと一緒に病院に泊まろうかしら」

 アンタの楽しみってなんだよ!と心の中で叫ぶ鏡太。

「お兄ちゃんと泊まるー」

 恵はそう言うとベッドに上がろうとする。

 二人がそう言うだろうと思っていた鏡太は何とか追いだそうとする。

「やめてよね母さん。恵は明日学校でしょ、宿題はした?早く帰ってやりなよ」

「鏡ちゃんが何か冷たいわ(じーー)私を捨ててあの子を取るのね!バカー」

 自動ドアから出ていく陽子。        

         (あの態度どうやら一部始終きいてるよね)

「母さん!」

 鏡太の呼声で自動ドアから入ってくる陽子。

「な~に?だって~あの子がいいのよね?」

「ほんとにもう!あの子て誰ですか!」

「サクラ先生よ!」

「もうやめて!なんでそうなるの!ほらほら!もう僕は大丈夫だから家に帰ってよ」

 鏡太は陽子の背中を押し、恵と一緒に病室から追い出した。


「母さん泊まったら、おちおち寝てられないよ。叫んだら喉渇いたな」

 鏡太はロビーまでジュースを買いに行こうと病室をでた。

 ロビーまで行くと一人の女性が声をかけて来た。

「先程は有難う御座いました」

 女性の顔を見てピンときた鏡太。

「あ~公園の」

「はい、娘も病院で見てもらったので。ほら、ご挨拶して」

 母の後ろでモジモジしていた女の子が鏡太の前へ出てくる。

「お兄ちゃんありがとー」「んーと理恵ちゃんだったかな」「うん」

「元気になってよかったね」「うん」「今度から御池は気を付けようね」「うん」

「あら、あらこの子たら。うんばかりでごめんなさいね」「いえいえ」

「その傷どうなさったの?もしやあの時」「これは違います。少しワケありで」

「何かありましたら連絡ください」

 理恵ちゃんのお母さんは鏡太に連絡先の紙をわたす。

 そして『では、お大事に』と言うと親子は病院を出て行った。


 鏡太は親子と別れジュースを買って病室に戻った。病室のベッドへ腰掛けジュースを飲みながら考える。

 今日は色々あったな、他種族の女性とお知り合いにもなったし、最後は痛い目をみたけど朱音ちゃん助けられて良かったと思う。問題は圭介だよね。回復したら手を考えないといけないな。

 こうして鏡太の一日は終わる。


【とある少女の日記】

 ✖月✖日 天気は晴れ

 今日は大好きなBL本の発売日。急いでいると鏡君にぶつかったの。けど急いでいたので本を拾いすぐ退散。最前列に並べたから良かったの。

 初めて鏡君が話しかけてきて嬉しかったの。けど、お姉ちゃんと間違われて少しショックなの。

 憧れのカップル・パフェを二人で食べれて嬉しかったの。

 でも少し恥ずかしかったの。

 鏡君は私に気をかけて色々話をして楽しませてくれるの。でも私は上手く言葉にできないの。男子は嫌いって言ったけど鏡君だけは別なの。

 途中、悪いお兄さんと会って大切なBL本破かれたけど鏡君が助けてくれたの。

 すごく嬉しかったの。

 先生に連絡をして戻ったら鏡君が倒れていて凄く心配したの。けど命に別状がなくて本当によかったの。

 鏡君の事はずっと前から見ていたの。友達思いで、すごく優しい人なの。

 BLも好きだけど貴方の事も・・・。













・・

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