第25話 後悔。そして旅立ち

【前回のあらすじ】

 ダリア遺跡へと遺産の一部を求め旅だった鏡太パーティー。そこにはマンイーターや巨大石像といったモンスターが潜んでいた。難関を突破した鏡太達はボス部屋へとたどり着く。部屋へ入ると巨大な大蜘蛛が待ち構えていた。全く攻撃が通用しない大蜘蛛に次々と仲間が倒される。そんな絶望の最中、皆を助けたのが日頃から天然のセラ。1人だけ無事な彼女は惨劇によるショックで人格変貌をきたしていた。そして禁呪を使用し大蜘蛛を倒す。だがその直後セラは倒れる。セラとノヴァの安否が心配される中、傷を癒やした鏡太達はダリア遺跡より遺産を回収。遺跡を跡にする。

 


 ダリア遺跡の帰り道、皆、無言だった。疲れのせいもあったが、壮絶そうぜつな戦闘。それによる仲間を失いそうになった恐怖を体験し、言葉が出なかった。

 ほとんど何も話せずネクロへ帰還きかん。セラさんとノヴァさんは病院へ搬送。皆は帰途についた。


【黒井家・鏡太の部屋】 

 チッチッチッ。惨劇から一夜明けた翌朝、目を覚ます鏡太。

「もう朝か。学校行く準備しなくちゃ」

 鏡太はパジャマを脱ぎ制服へと着替える。

「鏡ちゃん起きなさ~い。あら起きてたのね。珍しいわ。雪でも降るかしら?」

「母さんおはよう。今日も良い天気だね。いつも起こしてくれてありがとう」

「どうしたの鏡ちゃん!頭でも打ったの?」

「やだな~いつもどおりだよ。お腹減った。御飯準備できてる?」

「できてるわよ」(なんかいつもと違うわね?)

「ねえ~ん。鏡ちゃん母さん綺麗?」

「綺麗だよ。自慢の母さんだよ」

「いやー!アンタだれ?中に宇宙人入ってるのよね?出てきなさい!」

 鏡太の肩をにぎって揺する陽子。

「やだな~鏡太だよ。忘れたの母さん。じゃ顔洗ってくるね」

「そんな真面目な子に産んだ覚えはないわ!私の鏡ちゃんがえじで~」


【朝食中の鏡太】

「お兄ちゃんお味噌汁にキラキラ入ってるよ」

「ああ。そうだな。恵、気にしたらだめだぞ」

「お母さーん。お兄ちゃん脳みそ腐ってるよ~。何かおかしいよ」

「そ、そうね。今度新しいのに入れ替えておくわ。マルコメでいいかしら?」

「恵。急いで食べないと遅刻するぞ。ごちそうさま。じゃ行ってくる」

「おかしい」

 陽子と恵はいつもと違う鏡太に首をかしげる。


【通学中の鏡太】

 鏡太に声をかけてくる圭介。

「おはっよ鏡。今日は朝から姉貴に殴られなくてすんだぜ。珍しいよ」

「そうなんだ。それは良かったよね」

「なんだ~元気ねえな。なんかあったのか?姉貴も何かいつもと違うし」

「まさか鏡!姉貴と何かあったのか?」

「何もないよ。学校遅れるよ、速く行こう」

 そういうと鏡太は走りだす。

「なんだよアイツ。今日はノリが悪いな~。まてよ鏡~」


【学校・校舎内】 

 休憩時間中の鏡太は廊下でアリサと出会う。

「あ、アリサ。え~と、その遺跡では、ごめん・・・」

「気にしてませわ。あれは不可抗力ですから誰にも責任はありませんわ」

「でも僕が誘わなければ」

「クヨクヨして貴方らしくなくってよ。貴方が行くのであれば遺跡でもどこでも

 行くから元気出しなさい!」

「ああ、アリサありがとう」


【放課後・下校中の鏡太】

 フラフラと歩く鏡太に岬が声をかけてきた。

「鏡君。一緒に帰ろ。次の遺跡はどこ行くの?また力貸すからね」

「岬さんごめん。しばらくは遺跡は行かないと思う」

「ああ。まだみんな回復してないからね。私はいつでもOKだから呼んでよ」

「そういうことじゃないんだ。正直、岬さんが怪物に食べられそうな時、仲間を失いそうになるのが怖かったんだ。今の僕では皆を守れない」

「鏡君らしくないよ。パーティーはみんなで助け合うものでしょ。どんな結果になろうと私は鏡君について行くからね。元気だしなよ」

「ありがとう岬さん」


【ネクロ総合病院】 

 学校帰りに病院を訪れる鏡太。ノヴァの病室。

「鏡太ー。入院退屈なのよ。速く冒険に行きたいのよ」

「ノヴァさん、まだ寝てないとダメですよ。不死じゃないんだし」

「だって退屈なのよ~。鏡太もとなりに入院するのよ」

「ここ女性部屋だから、そうはいきませんよ」


「鏡太~あのね・・・私。楽しかったのよ。冒険あんなでも楽しかったのよ」

「だからまた行くのよ。元気出すのよ」

「の、ノヴァさん・・・うん・・・うん」

 鏡太はノヴァの優しさにふれ、涙が止まらなかった。


 セラの病室。かたわらにたたずむ鏡太。

「セラさんすみません。危険だとわかってたはずなに、引き返さず進んだ結果がこれです。誰も守れなかった。セラさんの助けがなければ全滅していました」

 悔しくて涙をながす鏡太。

「でも代償が大きすぎます。まだお礼もいっていません。目を覚ましてください」

 突然、鏡太の手を握り返し目を開けるセラ。


「大丈夫ですよ鏡太さん。後悔せず前へ進んでください。セラはもうしばらく眠

 りにつきますが、元気を出してください」

「セラさん!セラさん!ありがとう・・・」

 別人格のセラは一瞬おきて、また深い眠りについた。


【森林公園・憩いの広場】

 公園のベンチに座ってこれからの事を考えている鏡太。

 みんなは僕の事を気遣いはげましてくれる。気持ちは嬉しい。

 でも遺跡みたいな事にみんなを巻き込むのが怖い。次へ進む勇気がでない。

 ただの探究心たんきゅうしんから始まった冒険。

 ここで僕があきらめたら皆を危険にさらすこともないんじゃ・・・。


 自責の念に捕らわれ下を向いているとき、鏡太の横に座る人影。


ルビー:何してんのよ。落ち込んでるわね。

 鏡太:ルビー。考えてたんだ。冒険やめようかって。

    そうすれば、ルビーや皆を危険にさらすこともない。

    いつもどうり笑ってバカやって過ごすことが出来るんじゃなかって。


ルビー:私はどちらでもいいわよ。

    冒険してもしなくてもアンタと一緒にいられたらね。

    でも貴方は後悔しないの?それでいいの?

    やめれば楽かもしれない。でも一度決めたことを簡単にやめてたら、

    この先、苦難に出会った時、貴方はきっと楽な道へと逃げると思う。

    男なんでしょ。一度の失敗が何よ。今度は守れるだけの力をつけたらいい    だけじゃない。私が好きになったのはクヨクヨしてる貴方じゃないんだ     からね!あっ・・・。


 思いっきり好きと言ったルビーは顔を赤く染め下を向く。それを聞いた鏡太も下を向く。沈黙の後、鏡太は決心を口にする。

「確かにそうだね。自分に出来ることを精一杯やってから決めることだ。やれる事をしないで逃げていたよ。ごめん。でも今のままではダメだ。僕はもっと力をつける。そして今度こそルビーを守る!」

「鏡太・・・」「ルビー・・・」

 二人はお互い向き合い見つめ合う。


「よう鏡!こんなとこで何してるんだ?」

「い、いやその、な、なんでも」

 キスしそうな時に現れた圭介に驚き、あわてて離れる鏡太とルビー。

「アンタねーーー!死ね死ね死ねーーー!もういっかい呪いだわーーー!」

「ヒエーーー!鏡太。助けてくれ!俺が何したってんだよ」

 アツアツな所を邪魔され激怒したルビーに追い掛け回される圭介。


「アハハ。でも、ありがとうルビー。おかげで吹っ切れた!まずは力を付ける」

「そして冒険再開だ!」


【黒井家・リビング】

 鏡太は強くなる手がかりがないかとテレビをつけてみている。

「う~ん。これといって何もないな。これは時代劇か。刀ね~」

「僕も剣はあるけど、はっきり言って使えるレベルじゃないよね」

 そこへ現れる陽子。テレビを見て話してくる。

「鏡ちゃん時代劇とかみてるの?珍しいわね」

「なんとなくね。ねえ母さん念動力て強くするにはどうすればいいかな?」

「そうね~ランチャーでも喰らえば1ランクは上がるかもね」

「死んでるよ!まあ精神的ダメージで強くなるとは思うけど。母さんの知り合いに念動力が強い人ていないの?」

 方向性は間違ってはいないけどと思う鏡太。

「あら。鏡ちゃん忘れてるのかしら?御影みかげおばあちゃんよ」

「おばあちゃん?あれ死んでたんじゃ?」

「や~ね~。生きてるわよ。おばあちゃんなら何かアドバイスできるかもね」

「どこにいるの?」

「レイスの郊外にいるわよ。近代機器持ってないから連絡しようがないのよね」

「そうなんだ。レイスか遠いな。いっても一日じゃ無理があるね」

「もうすぐ夏休みに入るでしょ。そのとき行ったら?」

「う~ん。手がかりも無いし、そうしてみようかな」

「お婆ちゃん家の地図は書いてあげるわよ。大まかしか、わからないけどね」


 夏休みに旅へ出ることをみんなに伝えた。予想通りついて行きたいと言ってたけど遊びではないので断った。力を付けるまでは冒険をしないことも伝えた。

 みんなも納得し各々おのおのも力を付ける決意をする。

 そして夏。お婆ちゃん家へ行く日が来た。

「それじゃ、母さん行ってくるよ」

「はい地図ね。あと忘れ物はな~い?忘れ物~」

「ないよ。準備はOK!いつでも行けるよ」

「もう忘れ物あるじゃない。わ・た・し」

「いってきまーーーす!」

「鏡ちゃんが私を捨てて、婆専ばばせんになったわ!(えーん)」


 こうして力を付ける為にレイスへ旅立った鏡太。新たな試練が待ち構えている。











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