エピローグ

 職員塔最上階にある学園長室に数人の人物が集まっていた。

 学園長のダリキシアは普段自分が業務をこなしているいつもの席に、その秘書を兼任しているアスレインはその一歩後ろにたたずんでいる。

 その目線の先、いつかソラとダリキシアが話し合っていた机を挟んだ対のソファーに数名の少年少女が座っていた。

「おう、レイナとセレンはどうした」

 その中の、我の通しが強そうな狼の耳をした男子生徒が声を上げる。

「多分来ないよー。個人的な呼びかけに応じなかったからまさかとは思っていたけれど、定例会議にすら参加しないとは、本当にあの二人は自由気ままとゆーか」

 次に口を開いたのは、背中に薄い透明な羽がある女子生徒だ。察するにおそらく妖精だろうと推測できる。

「自己中心的」

 便乗するように答えたのは、分厚く大きな本を読んでいたストレートの黒髪の長い女子生徒だ。初見の印象は、暗いという言葉が思いつく。

「これで、あいつの、身勝手な、行動、何度目なんだな?」

「ワシの覚えている限り、新学期始まって既に31回目じゃ」

 今喋った大岩のように大きな生徒は、お菓子を食べながら喋るのでセリフが途切れ途切れになる。返答した老人のような喋りの生徒は、パイプタバコをふかしながら答えた、身長から、おそらく小人だろうと推測できる。

「まあ、この結果もおりこみずみですけど」

 最後に、この集まりの中で最年少の、少し舌っ足らずな喋り方をした赤と青のオッドアイの少女がみんなの注目を集めた。

 この6人にレイナとセレンを合わせた8人が現在の特別執行部のメンバーだ。

「黎明、そろそろ定例会議を始めておくれ」

「はい、おじいさま」

 ダリキシアの掛け声に、オッドアイの少女が答える。

 特別執行部、レイナのような凶悪な戦闘力を持つもの、セレンのように特別な才能を持つものなど、学園の生徒の中で強力な力を持つ生徒ばかりを集めたダリキシア直属の組織である。

「まずはエルフの里をしゅうげきした集団、なおこれはドラゴンもふくむ、の目的について。これは学園のじゃくたいかが目的だとおもわれます」

「弱体化ァ? なんで学園が弱体化すんだよ、今回の被害はエルフの里なんだろ」

 狼の獣人が理解できないという表情を作る。

「学園の関連組織を削って間接的に学園にダメージを入れようとした」

「そうです。ところで、会議の途中ですので本を読むのをやめてください」

「絶望的に無理」

 黒髪の少女は視線を再び本に戻した。黎明は小さく溜息をついて、会議を進める。

「かんぜんではなかったけど、とりあえずにはれんちゅうの目的は達成されました。里長は死に、ミハード先生は里にかえり、こんごの、里とのゆうこうかんけいも不透明になっています」

「うにー、ミハード先生がいなくなったのは痛手だねぇ~」

 妖精の彼女が、羽をパタパタさせながら答える。

「フン、エルフの臭いがなくなって清々したワイ!」

 小人の生徒が悪態をつくと、

「それー、キーニャが聞いたら問答無用で攻撃されるよ」

 妖精の生徒が鋭い一言を放つ。

「ワシはそもそもエルフ族が嫌いなんじゃわい。まあ、ヤツだけは別じゃがの」

 フーと、煙を吹いた。

(……こいつー、ツンデレ?)

「えっと、はなしを戻してもいいですよね?」

「オウ、悪かったのう、続けてくれ」

「――いぜんからさがしていた風斬の子孫がこの学園にきているのにそれを利用しない手はないのですよ」

「あ? そんなのただのおとぎ話だろう」

 獣人の生徒が腕を組み眉をよせる。

「いいえ、遡れない過去はたしかにあります。カザキリ・ソラさんはその直系」

「非現実的」

 やっぱり本から顔を上げずに黒髪の少女は呟いた。

「いいですよ、もう信じなくて、わたくしはおじいさまの望みにいちばんそうように駒をうごかすだけですもの」

「そうすねんなよ、悪かったって。最終権限はお前にあるんだから」

「そうですか? では、けつぎをとります。カザキリ・ソラをゆうこうかつようすることに賛成ですか? 反対ですか?」

「「「「「反対」」」」」

「5対1!?」

 まさか全員から反対されるとは思ってもいなかったようで、黎明はショックを受けた。

「なんで! わたくしの眼がしんじられないんですかみんなわ!」

「そもそも、その、カザキリ・ソラに、価値を見出せないんだな」

 大柄な生徒は机に乗っていたお菓子を口にはこびながら言う。

「黎明の、その眼は、いままで何度も見てきたけど。パッとみCランクの人には期待がもてないんだな」

「そんなぁ、じゃあわたくしの本命のけつぎもだめぞうだよ」

「ホンメー? 何ソレおもしろそ~」

 羽を興奮気味にはばたかせる妖精の生徒。

「そうですよ、おもしろいですよ、ききます?」

「聞く聞く~」

「そのなも、カザキリ・ソラを、特別執行部に引き入れる作戦!」

 その時、この場の空気が確かに確実に凍った。

 特別執行部、学園の生徒の中で強力な力を持つ生徒ばかりを集めたダリキシア直属の組織である。これは、逆説的に言えばそれ相応の力がないと特別執行部には入れないということを示している。いくらソラがおとぎ話の勇者の直系の子孫だとしても、それに伴う実力がなければ特別執行部に加入させることはみんなが認めないだろう。

「黎明、本気か? 確かにソラとかいうやつはレアな奴かもしれねぇが、そいつは強い訳でも一芸があるわけでもないんだろ? そんなやつを入れてなんになるんだよ」

「つよくないなら、これからつよくすればいいのですよ。それに、ちゃんとありますよ、風斬としてのいちげいが」

 黎明の右の赤い目が光っているような気がした。

「カザキリ・ソラをつかうほんとうの目的、それは、ひとえに風斬の能力のため」

「黎明、お前の眼にいま何がみえる?」

「特別執行部のかつやくと勝利が」

「黎明、お前の目的は一体なんだ?」

「おじいさまの目的をじょうじゅさせること。そのためなら、特別執行部でもカザキリ・ソラでものろわれた両目でもなんでもつかいましょう」

「ま、俺らはもともとそのために集められたんだ。言われたことは何でもするさ」

「そうだねー、黎明のために、学園のために」

 妖精の生徒も獣人の生徒の後に続く。

「大体肯定的」

「学園のために」

「学園のために、のう」

 黒髪の女子生徒、大柄な男子生徒、小人の生徒もそれぞれ続いた。

「ええ、みんなを利用させていただきます」

 右の赤眼に続き、左の青眼も輝きだした。

「すべてはおじいさまのために」


 学園の特別執行部が動き出した。

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