第28話



「う、」

「お、目を覚ましたか」

 白い天井にソルミレンがみえる。ソラが目を覚ましたのは学園の病室だった。ベッドの隣に備え付けられた椅子にソルミレンは腰掛けてソラを見下ろしていた。

「おっと、まだ起き上がるなよ。せっかく繋がった骨がまたパックリ逝きたくなかったらな」

「先輩……どうしてここに……」

「妹と後輩がピンチだと聞いたからな。レオとミハード引き連れてレスキューにいったら、死にかけのお前と目に涙浮かべた女の子たちがいた、その後なんやかんやして緊急のお前を学園に連れて帰ってきた。掻い摘んで説明するとこんな感じ」

「そう、だったんですか。スイマセン、なんだか迷惑かけたみたいですね」

「謝んなよ、私は謝られるより感謝の言葉が聞きたい」

「先輩――ありがとうございます」

「ん、よろしい。それと、こいつらにも起きた時にでも言っておいてやれ」

 ソルミレンがアゴで向かい側を示す。そちらに首を向けると、ルナとエレンがベッドにうつ伏せに凭れ掛かっている形で眠っていた。

「この間からイリアと合わせて三人でずっと看病していたんだ、一途な奴らだよ、本当に。それに、どっちかというと謝らなければいけないのは私の方だ、そもそも私がお前らにあんな事頼まなければお前が怪我することもなかったのに」

「いえ、危険があることは最初から分かっていた事です。俺が気を抜いていたからこんなことになっただけです」

「それでも私が考えていたよりもはるかに危険度が高いモンスターが出てきたのも事実。アイセタールの群れに20メートル級のドラゴン、しかも新種ときた。よく誰も死ななかったのが不思議なくらいだ。それに――」

「それに?」

「――いや、これはまた今度話そう、今はその怪我を治してくれ」

 ソルミレンは目を伏せ、席を立つ。

「しばらくは事務の仕事はしなくてもいいことになっている。しっかり休養してくれ」

「はい」

 ソルミレンはそのまま病室の扉を開けると、一度だけソラの顔を見詰め、フッとやさしい微笑みを見せて扉を閉めた。

「……」

 ソラにはソルミレンが何を言いたいかなんとなく理解していた。

「白雪、いるか?」

 きっといる、そんな確信にも似た何かを思って口を開く。

「……ここに」

 さっきまでソルミレンが座っていた椅子の上に闇が生じた。その中から銀髪の小さな忍者が現れた。

「先輩との話、聞いてたか?」

 こくんと、一度だけ頷く。きっとカーテンの裏か天井か、ベッドの下かにいて話を聞いていたのだろう。

「先輩が言いかけたこと、なんだと思う?」

「……きっと、」

 白雪は一度言葉を切り、数泊開けてもう一度口を開く。

「『ガルミラ』のことにござろう」

「続けて」

「某はソラ殿が眠っていた数日、情報を集め、総合しておった。そして、その結果、ある答えにたどり着いた」

「うん、その答えは?」

「今回の騒動の黒幕は、『ガルミラ』」

「それって確か、白雪達忍者に学園の秘密を調べるよう頼んできたところの?」

「うむ、それにござるよ。あそこの人達は普通にあらぬ存在、某が言えたことではあるまいがの。それに……」

「まだ何かあるのか」

「うむ。実は、学園の方も不穏なことになっておるようじゃ、これがソラ殿に吉と出るか凶になるかは某には分からぬ。しかし、今のソラ殿ではこの運命の流れに逆らうだけの力は持っておらぬ。某やレイナ殿も協力する故、ゆめゆめ諦めないよう」

「なんのことを言っているのか全然わからんが、俺は諦めないぜ」

「……それを聞いて安心したにござるよ。それでその、ソラ殿、某もここ数日動きづめだったものでそろそろちとキツイ……」

「あ、悪い。お前もゆっくり休んでおいてくれ」

「うむ、承知した。ソラ殿も、その頭を早く完治させてくりゃれ」

 そういうと、白雪は闇を出し、その中に消えていった。

「……」

 頭蓋骨骨折、それがソラの今回の怪我だった。

 老木での異変にいち早く気が付いた白雪が、イリアを連れてきてくれなければ、そしてイリアがセレンから学んだより強力な回復魔法を『セット』していなければ、そして、レイナ達が老木にたどり着くのが少しでも遅くなってちゃんとした設備のある学園にあと少しでも遅れていたら、脳に後遺症が起こっていただろうというのが保健医の診断だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る