第27話
ニカの案内で、里を15分ほど歩いた。
「ここです」
そうニカが示した場所は、里の中心にある巨大な老木だった。
「ここが、村長が住んでらっしゃる老木『ガジュエト霊木』です」
「へー、やっぱりこの木、霊木だったんだ。そりゃあこんなにおっきいし、何万年も生きていそうだものね」
「記録では、神話時代からこの場に立っているみたいですが、霊木の精霊の姿を見た物がいなくて、確実な裏付けは出来ていませんね」
「神話時代――あの、おとぎ話の?」
「あくまで記録上では、だろ? 大昔の記録は後世の子孫たちに自分らのことを大きく見せるためいくらか盛った嘘記録を残している可能性が高い。そうだろ?」
「何よソラくん、いいじゃないの、そっちの方がロマンチックだし」
「わるかったよ、ちょっとムキになっただけだ」
軽く謝罪をルナに入れて、ソラは『ガジュエト』の中に入った。
「あ、ソラくん待って!」
「待つのはアナタもです、あなた達は私が居ないと『ガジュエト』の中で迷子になるでしょう!?」
ニカはあわてて二人の後を追いかけた。
「…………う、そだろ」
『ガジュエト』の中は広い迷路のような構造だった。超巨大な老木に血管のように穴があり、それを通路や部屋にしているみたいで、ニカの案内がなければソラ達は迷子になっていただろう。が、今のソラ達にはどうでもいい些末な問題だった。
「あぁ、見られてしまったか……」
ハスキーの効いた渋い声、長身でザンバラに切られた髪はくすんだ藍をしている。世の中に疲れたといわんばかりにクマがある目には、世の中の大抵のことは自分には無関係だろと物語っているみたいだ。
ニカに案内されて『ガジュエト』最上部にいるらしいエルフ族の里長に会いに来たのだが、そこには藍髪の長身の男と、おそらく里の村長だろうと想像できる老齢のエルフが血塗れで倒れていた。
「里長!」
ニカが我を忘れたように叫ぶが、里長は完全に沈黙している。もしかしたら、もう手遅れな状態なのかもしれない。
「見られてしまっては、仕方がない」
ゾクッ!
ソラは言い知れぬ恐怖を感じた。体中を細い針で刺されたような感覚を感じ、無意識のうちに腰のナイフ『月下魔滅』を突き出していた。
キィン! 甲高い音と、何かしらの衝撃の余波をソラ達は肌で感じた。
「ナニ、防いだ?」
少しだけ驚愕を表した藍髪の男の様子を見てソラは確信した。
(こいつ、やっぱり何か魔法をこっちに飛ばしたんだ!)
村長を狭い部屋の中で返り血も浴びずに倒しているこの男はおそらくソラ達以上の実力を持っている。倒すなら一瞬で、それは今だ!
「『ヴォンドルガ』!」
ソラの体内の魔力が消費され、それに見合った現実の法則を無視する不可思議な現象が起きる。ソラの体内時間だけ加速される。
ソラは高速化して、男に突っ込んだ。
「くらえ!」
『月下魔滅』で斬りつける、が、
(まさか、この距離で反応しただと!?)
男は杖で『月下魔滅』を受け止めた。
「ソラくん!」
通常の感覚での一瞬遅れて、ルナが杖を抜き出す。
「『ジェイド・グライ』!」
ルナの杖から15センチの暗黒球が飛び出される。それに伴い、ニカも杖を取り出す。
「『ディオ・スプレイション』!」
ニカの杖からは光が紐状に収束されて、まるで鞭のようになった。ニカは光の鞭を振るった。
「ム、」
男は短く唸ると、ソラを蹴り上げた。
「うっ!」
ソラは男に蹴り上げられ、ちょうどニカが振るい伸び狙ってきた光の鞭に絡まる。のみならず、ソラが絡まったせいで当初の軌道をそれた鞭の先はルナが放ったジェイド・グライとぶつかる軌道になった。
「ぐッ!」
ソラは身をよじって『月下魔滅』の刃の部分を何とか暗黒球に当てて打消し、直撃を回避する。
「ソラくん!?」「ソラさん!!」
二人が心配し、ニカが光の鞭を解除する。
「お前、そのナイフ……まさか」
男は思案するように顎に手を当てるしぐさをする。ソラはこの間に体勢を立て直す。
(くそ、なんだこいつは、俺ら三人の攻撃を軽くいなしただけじゃなく、同士討ちまでさせようとしたぞ! しかも俺の加速状態のスピードについてこれたということはレイナか白雪レベルの反応速度を持ってるぞ!)
「お前、もしかして風斬の関係者か?」
「な、お前、なんでそのことを――あ」
気付いた時にはもう遅かった。もう少し気転を効かせて何を言っているのかわからないふりをしておけばよかったと後になってから後悔した。
「そうか、やっぱりそうだったのか。なら――」
男は心底面倒くさそうに眉をよせる。
「――奪っておかないとな」
「だらっしゃ――――ッ!」
ひときわ気合の入った掛け声とともに、レイナはドラゴンの足ごと地面を飛び上がらせて出てきた。完全にレイナを倒したと思い込んでいたドラゴンは、突如足元から飛び出してきたレイナのせいで、その巨体のバランスを崩す。
「はあ、はあ、クソが……危うく死ぬかと思っちまったじぇねーかボケ!」
「ああ、よかったレイナちゃん。僕もレイナちゃんに身体強化の魔法を掛け損なっていたのかと思っていたよ。いやー、肝が冷えるってこういうことを言うんだろうね」
「お前ちょっと黙っとけ、てか、そもそもお前がいなければこんな危ないことにならなかったんだからな」
言いながら周囲を見渡し、自分の武器の槍を探す。
「でも僕がいなかったらさすがのレイナちゃんでも5分かそこらで死んでいたと思うよ?」
「どっちにしろお前の魔力が切れたら状況は同じだろうが」
槍を拾って、レイナは言う。
「うんそうだね。でも、もうすぐ来ると思うよ?」
「アァ?」
怪訝そうな声を出したその時、ドラゴンの巨体が宙を舞った。
「うげ、アイツ倒れたままで無理やり羽ばたいて体勢を立て直しやがった」
「あの羽にも相当な筋肉があるみたいだね」
「冷静に観察してる場合か! みろ、アイツの口元を、ブレス吐くつもりだぜ」
「火系っぽいね、自然型か物理型かわからないけど」
自然型は火や水を出すタイプで、物理型は燃え盛る岩や氷などを出すタイプである。レイナ達は見ていないからわからないが、このドラゴンは物理型のブレスを吐くドラゴンで、ソルミレン達はドラゴンから吐き出された岩石を見ている。
「さて、レイナちゃん。そろそろ逃げないと本当にドラゴンに殺されちゃうよ?」
「ハッ、竜騎士がドラゴンに殺されるとか、シャレにならねーぜ」
火が漏れ出す口元を大きく開き、いよいよブレスを吐く体制のドラゴン。
「来るぞ!」
ゴッ! 燃える岩がドラゴンの口から放たれた。そして、その岩はドラゴンに跳ね返された。
「――アイツは、レオ先生?」
「ああ、やっぱりレオ先生か。後はアスレイン先生とミハード先生かな?」
レオが二人の前に現れて爆武のハンマーで燃える岩を打ち返したのだ。レオの登場で、多少なりとも驚いているレイナとは裏腹に、セレンはこうなることを予想していたようだ。
「ミハード先生は正解。でも、アスレイン先生は外れね」
後ろの林から姿を現したのは、ソルミレンとミハードだ。
「セレン、それにレイナ。言いたいことは山のようにあるけど今はいいや。ミハード、あのドラゴン何とかできる?」
「あ、あの、頑張ってはみますけど、できなくても怒らないでください」
「いいからさっさとする!」
「は、はい!」
ミハードは両手を前に突き出す。
「精霊よ、私の声を聞け。あのドラゴンを止めるだけの強風を吹かせておくれ!」
「バッ、よりによってそれかよッ! お前ら、何かに掴まれ!」
ソルミレンは近くの木にいそいそと抱き付く。
「レイナちゃん! 槍を地面に刺して!」
バカみたいな突風が、ミハードを中心にして噴いた。それこそ、火山の噴火のような勢いだった。
「グギギ……!」
レイナはセレンの助言を信じ、槍を深く地面に刺してそれに捕まっているが、それでもかなりの強風に身を流されそうになる。
(アレは?)
レイナは強風の中、平然と立っているミハードの隣に薄く靄みたいなものが居ることに気が付いた。
(アレが、精霊か?)
ドラゴンは突然の突風に飛行を阻害され、空中でバランスを崩し地面に激突する。
「よし、落ちた! レオ、やったってー!」
「おう!」
レオは強風の中、風に煽られることなくドラゴンに向かって走ってゆく。対するドラゴンは、接近するレオにブレスを吐くらしく、鎌首をもたげて地上を走るレオを睨みつける。
「これで――」
レオは走りながらハンマーを振り上げ、脚力を活かし跳び上がる。
「――しばらく寝てなァ!」
ちょうどドラゴンの頭部まで跳びあがったレオは、そのまま力任せにハンマーを振るう。
「させねーよ」
ドラゴンの頭部にピンポイントに当たるはずだったレオのハンマーは、何者かの介入のせいでレオの手から離れて後方の茂みにはじかれた。
レオと、いつの間にかドラゴンの頭部に乗っていた介入者の視線が合う。
介入者はエルフであった。しかも、ただのエルフではない、肌は浅黒く、反面して髪は白く線の細い整った顔。胸元を見なければ男と言われても納得できてしまうような中性的な印象をうける顔つきだった。
エルフの両手にはクーゼ系の槍が一本ずつ握られていた。きっとどちらかの槍でレオからハンマーをはじいたのだろう。
「ダークエルフか!?」
「だからなんなのさ」
レオの跳躍による推進も勢いをなくし、後は落下するだけだ。
ダークエルフもレオを追うようにドラゴンの頭部から飛び降りる。
空中では動きが制限される。防御か受け身か、しかし今のレオには防御するための武器がない。
「これはチトやばいかもな」
落下しながらレオはそう呟きを漏らした。
「レオ! 避けるのよ!」
異常に気が付いたソルミレンが叫ぶが、
(それができればやってるっつの)
空中では動きが制限される。ゆえに、空を飛べる魔法か背中に翼でも生えていなければ空中での行動は難しい。そもそもこの世界に空を飛ぶ魔法はない。
(まあ、死にはせんと思うが……)
しかし、このレオの危機に面白おかしく首を突っ込んでくる奴がいた。
「……レイナちゃん? ちょっと、何してるのかな?」
地面に突っ伏したセレンが問うが、レイナは返事を返さずに地面に刺している槍を抜いた。
支えを失ったレイナは強風にさらされる。さらされつつ風に乗る、強風に背中を押されながら跳躍する。
「んな……!」
驚いたのはダークエルフの少女だ。レオの落下を待つだけの簡単なお仕事だと思っていたのだが、まさかこんな強風の中、しかもドラゴンが近くにいるというのにこんな無茶をするやつがいるとは想像もしていなかったようで、数メートルの跳躍をみせたレイナと交差した瞬間、武器を構えるのが一瞬遅れた。
つう……、と交差した時に浅く斬られた左腕から血が滲み出てくる。
「っつう」
じんわりと熱を持つ傷口、レオとダークエルフの少女に着地のタイミングが迫る。
まずはレオが着地し、即座に地を蹴りダークエルフの少女との落下地点をずらす。一瞬遅れてダークエルフの少女も着地した。
「ヘヘ、油断大敵ってやつだ」
レイナはドラゴンの頭部に座っていた。さっきまでダークエルフの少女がいた所だ。
「ミハード、風はダメだ! なんか別のことしとけ!」
状況の変化にソルミレンはミハードに修正した指示を出す。
「は、はい!」
ドラゴンは頭部に乗っているレイナを振り落とそうと頭を振る。
「うおっ!? コイツ、抵抗するな! 大人しく乗られとけよ!」
「クソが、よくもワタシの血を……!」
ダークエルフの少女がレイナを睨みつけている。
と、その時、空気中に薄白い球場の塊が展開された。
「く、空気の爆弾です、下手に動けば爆発します!」
これで確かにドラゴンは下手に飛べなくなった。が、
「ばっきゃろミハード! これじゃ味方の動きまで阻害すんだろぉが!」
「ふぁあああん! どうしろっていうんですかぁ~」
ソルミレンにボロクソ言われ続けたミハードは、目じりに涙を堪えつつ精一杯の勢いで逆切れをした。
「アァ?」
「ご、ごめんなさい! でも、もうしばらくは何もできません!」
「仕方ねえ、レオとレイナに期待するしかないか」
ダークエルフの少女は小さく口を開き、呪文を唱える。
「『ヴォン・フェノン・ラシュ』」
ダークエルフの少女が持っている2本の槍に、渦巻きが生じた。
「レイナちゃん、気を付けて! 今の呪文は武器の強化、今までとは威力が大違いだよ!」
「知っとるわ! 魔力枯れた役立たずはひたすらジッとしと――うわ!」
ダークエルフの少女がやっぱり身長の何倍も跳躍してドラゴンの上に乗り、レイナに斬りかかる。レイナは槍で受け止めず、一撃、二撃と刃を避ける。
「跳躍で跳べるのはキサマだけだと思うなよ!」
右手で斬りおろし、左の突きからの斬り上げ、右足を一歩踏み込んでから回転による遠心力を付けての横掃い斬り、
「いいねぇ、そういうの好きだよアタシは」
それらを全部ギリギリの所で避けて、レイナはニヤリと微笑む。
「『ガシェン・ゴル』」
レイナの槍が淡く、一瞬だけ光った。
「装甲値強化? たったそれだけでワタシに勝てるとでも!?」
二本槍を同時に、振り下ろしと突きをレイナにかます。が、レイナは槍を縦気味に持って右に振り払うことで、二本とも防ぐ。だけでなく、槍をどけたことでがら空きになった腹に左拳を叩き入れた。
「ごはッ!?」
「視野が狭いぞ? 武器を持っているからと何故殴られないと言い切れる?」
ちょっと小バカにしたように余裕綽々っぽく言う。
「ぐ、クソが!」
まるでタイミングを読んだかのように、ドラゴンが思いっきり首を振る。
「のわッ!?」
ちょっと調子に乗っていたレイナはこのことに対応できず、ドラゴンから零れ落ちる。ダークエルフの少女はしてやったという顔でニヤリと微笑み、
「思考が貧弱だな! ドラゴンがワタシの思い通りに動かないとでも思っていたのか!?」
「フツー思いつかねーだろーが!」
落下しながら言い返す。しかし、運の悪いことにレイナの落下先にミハード(が使役している精霊)が展開した空気爆弾があった。
「レイナ! 俺のハンマーを踏め!」
いつの間にかハンマーを拾っていたレオは、やっぱり跳びあがる。レイナほどの跳躍は無いものの、あの大きなハンマーを持っての跳躍だ。これだけでもレオの強靭な力が窺えるだろう。
「ワリィな先生!」
レオはタイミングを合わせてハンマーを振り上げた。レイナも、タイミングを合わせて振り上がるハンマーを足場にジャンプした。
「っしゃあ! 戻ってきたぞ!」
ボン! という音(おそらく、レイナの代わりにレオが空気爆弾に当たったのだろう)を背後に、レイナは再びドラゴンの上に飛び乗った。
「いいね、ワタシもそうゆーの、好きだよ」
ダークエルフの少女は二本槍をより強く握りしめた。
「名前教えろよ、アタシが初めて好敵手と認めてやるんだ」
レイナは八重歯を見せてニヤリと笑う。
「カノユースハルマード、カノでもユースでもハルマードでも。できればカノと呼んでほしいが、好きによべ。ワタシだけ教えるのも癪だ、キサマの名前も聞かせてもらおうか」
「ヴィム=ファイブ・レイナ、学園唯一の竜騎士」
「ヴィム=ファイブ・レイナ、憶えたぞ、レイナ、次に会うときは必ず倒してやる」
「あ? 次ってなんだ」
「時間切れなんだよ、こっちだってワタシ一人の都合では動けないからな」
「てめ! なんか逃げる気だな」
レイナはカノに向かってダッシュを掛けるが、
「じゃあな、好敵手」
「んお!?」
レイナはまた落ちていた。
というのも、今度はドラゴン自体が消え去ったのだ。
「テレポートか、アイツ自身はいいとして、20メートル級の中型ドラゴンは物量的に不可能だろう。他に協力者がいたか、マジックアイテムか」
流石に二度目ということもあり、今回は無事着地することができた。
「ミハード先生、脅威は去りましたのでとりあえず空気爆弾を解除してください」
危機は去ったと判断してセレンはミハードにお願いする。
「おう、セレン。お前結局最後隠れっぱなしで役に立たなかったな、足引っ張られるよりましだけど」
槍に掛けている強化魔法を解いて、レイナはなんとなしに呟く。
「レイナちゃん、逃げられてイライラしてるのは分かるけど僕に当たらないでね」
「それよりアンタら、私達をエルフの里に案内して、早急によ!」
ソルミレンがレイナとセレンにするどい声を飛ばした。
藍髪の男はゆらぁりと揺れた。
「!」
藍髪の男はソラの目の前にいて、その杖を突きだしていた。ソラがヴォン・ドルガの恩恵下でなければ『月下魔滅』で受け止めることはできなかっただろう。
鍔迫り合いなどなかった。藍髪の男はすばやく身を引くと、別の角度から杖を振り下ろす。しかし加速状態のソラも棒立ちではなかった。相手の方が早くとも、ソラには血の滲むような努力がある。魔法の適性が低いソラはそれでも今日まで十分に戦ってこれた。下手には下手なりの戦い方がある、今は亡き兄が教えてくれたこの言葉を胸にいくつもの困難を打ち勝ってきたソラには諦めることなどない。
一度鍔迫り合いをしたとき蹴りを食らっているソラには、相手の思考パターンがある程度読めている。『鍔迫り合いをしたら、相手も蹴りをするだろう』そう藍髪の男は思っているはずだ、だから後に来る蹴りを避ける意味で相手は一度引いた、そして、宙に蹴りをスカしているソラに杖を叩き付けるつもりだったのだろう。
(読めてんだよ!)
ソラは背を低くかがめて、短い鞭のような杖の一撃をかわす。相手の驚いた表情を見てニヤリとし、下からの一線を振り上げた。
「ぬぐぅうう!」
藍髪の男は上半身を後ろに逸らす。
(これだけだと思うなよ、何のためにしゃがんだと思う?)
下からの一線の時、しゃがんで曲げていた足を伸ばした。体が浮くような勢いで。つまるところ、跳び膝蹴りをした。
(上と下の二点攻撃、相手がこっちのことを格下だと思ってくれるからできたこと。さあ、ヒットするか!?)
結論から言えばソラの二点攻撃は成功した。しかし、攻撃は藍髪の男まで届かなかった。
横からソラの頭を鷲掴みにし、吊し上げた者がいたからだ。
「フォルキシオン、撤退だ。計画が失敗した」
ソイツの手はソラの頭を完全に掴みとり、その手のひらに似合う大きさの太い二の腕、大柄な胴、強靭な太い脚。朱い髪は短く切りそろえていている。
「あ、ぐうう」
きっと無意識なのだろう巨漢の男はソラの頭を握りつぶしている。
「ん? なんだこれ?」
この時、この巨漢は初めてソラを意識した。
「ソラくん!」
ルナが叫ぶ。今度は攻撃を飛ばす余裕は心にない。
「その人を放せ!」
ニカが改めてディオ・スプレイションを唱え直し、光の鞭を撓らせる。
「…………んん?」
巨漢は避けようともせずに、光の鞭が当たった場所を不思議そうに見ている。
「うそ! 光の鞭を素で受けて何ともないの!?」
「フォルキシオン、こいつらはなんだ?」
藍髪の、フォルキシオンと呼ばれた男は面倒臭そうにそっぽを向く。
「知らん。エルフの里長を殺したあと部屋に飛び込んできたんだ。もしかしたら、トリセイン学園の生徒かもしれんな。それとお前が掴んでるソイツ、風斬の関係者の可能性が強い、そのナイフ、『月下魔滅』の可能性があるぞ」
「そうか、それもボスに報告せねばな」
巨漢はソラをルナ達にポイと投げ捨てた。
「ナイフ回収しなくてもいいのかよ」
「それは全てボスが決めること。ナイフの捜索は計画に含まれているが、回収は含まれていない」
「頭硬いな。まあ、いいか、どうでも」
「……これが里長か」
巨漢はソラに未練も見せず、息絶えている村長を拾い上げて、首を――ゴギ、ブチィ!――折って、引き千切った。
「ボスに見せるまでが任務だ」
「――っ!」
ニカが声にならない悲鳴を上げる。
「いろいろ計画がずれた、早く館に戻ろう」
「ああ、そうかい」
「『ポルデウス・ルネ・ティーナ』」
二人のいる空間が一瞬歪んだ。そう、認知できた時にはもう二人と村長の首は消えていた。
「なんで……何が、どうして……?」
今更ながらニカは力が抜けたように崩れて座る。
「ソラくん! ソラくん!」
ルナは目に涙を浮かべて、倒れたソラの体をゆする。
「目を覚ましてよ、ソラくん。ソラくん!!」
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