第8話

「へえー、アタシが知らないところでそんな面白いことになっているとは」

 夜、ソラの部屋には当然のようにレイナが来ていた。

「面白いとか言うな。俺は自分のことだって鍛えないといけないのに……」

「そうだったな、結局昨日はおじゃんになったけど、本来なら鍛える時間だったな」

 ソラのお願い。それはレイナに鍛えてもらうことだ。

「まったく、で、お前の準備は出来てるのか?」

「モチ、バッチ」

「わかりづらいから略すな、もちろんバッチリってことで良いんだな」

「おう! じゃ、行こうか」

「ああ」



 闘技場は、昨日と同じく暗く、ソラとレイナ以外は誰もいなかった。

「アンタの戦闘力は昨日のデブとの戦いで大体わかった。それでアタシがまず思ったことなんだが、アンタは魔法使いとの戦闘経験がかなり浅い。そこでまずは、そこの経験値を獲得してもらう」

「つまり、いろんな魔法使いと戦うってことか?」

「まあ待て、人の話は最後まで聞くものだぜ? 確かに、多くの魔法使いと戦えるのならそうした方がいい、がしかし、アタシはそんなに多くの魔法使いは知らない」

「お前、友達少ないのか」

「ほっとけ。話を戻すぞ、――そこで、そのウン数人分の魔法使い役をアタシがしようと思う」

「ちょっと待て、そんなことできるのか!?」

 普通、魔法使いは自分が使える魔法は幾つと決められている。それは個人差や種族差によって異なる。例えば、ある魔法使いが憶えている魔法が8つあったとしよう、そこからその魔法使いが使える魔法は4つ、この4つは『穴』と呼ばれる。その魔法使いは憶えている8つの中から4つを選ぶ。これを、『セット』と呼ぶ。つまり、魔法使いが魔法を発動させるには前提としてその魔法を覚える、次に『穴』にその魔法を『セット』する、最後に『セット』した魔法の呪文を唱えてその分の魔力を消費する。この工程を得て、初めて魔法は発動されるのだ。

 しかし、魔法使いはこの『セット』を簡単には行えない。ひとつの魔法を『セット』するのに大体一時間、早い魔法使いでも二十分ほどの時間がかかる、それに『セット』のやり直しは単純にその倍の時間を使う。さらに言えば、得意魔法と苦手魔法でも『セット』にかける時間は違う。それに、憶えられる魔法にも上限もある。やっぱりそれも個人差や種族差があるのだが、ウン数人分の魔法を憶えるなんて話は、むちゃくちゃなものだ。

 ソラは、それらのことを指して、そんなことできるのかと、聞いた。

「まあ普通の奴だったらまず無理だろうな。でも、アタシは違う」

 胸を張って偉そうに語るレイナ。

「アタシは基本形の魔法だったら火水風土の四大元素系に光系、闇系、回復の白魔法と合計七属性の魔法は憶えている。『セット』できる『穴』の数だって三八と自分では多いと自負している。そして基本的ごくまれにしかにアタシは授業無いから『セット』する時間の問題も無い」

 よって、

「アタシはウン数人分の魔法使い役ができると思うぜ」

「お前……実はかなりスゲェ奴だったのかよ! 『穴』の数が三八って王家直属部隊の隊長クラスじゃないかよ!」

「いやいや、あれには負けるぜ。そもそもの魔力量が違う、アタシの方が先に魔力カラッポになるって」

「いや、それでもすごいって。なんでお前『黒の塔』の攻略とかに行ってないんだよ」

「アレはパーティー組まないと行かせてもらえないんだよ」

 レイナは面倒そうに答えた。あまり興味がないのか、それとも以前にも似たようなことを聞かれてうんざりしているのか。ソラには判断がつかなかった。

「まあ、そんなわけだから、今日は火の魔法を専門にする魔法使いの役をするぜ、アンタが拳なり蹴りなり、なんならナイフの一太刀入れられるまでこれは終わんない、オーケイ?」

「わかった。最初はお前強いのかと疑問だったけど、そんなことを考えている内は勝てそうにないみたいだ。最初から本気で行く!」

「来いよ、『ブレイム・ファイム』!」

人差し指をソラに向けて、呪文を放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る