第4話

 翌日、ノックの音と「おはよーございまーす」の声で目が覚めた。

 目覚めて初めて、この部屋の隅々を見ることができた。基本的には学生部屋と似たような構造で、違いと言えば、生徒用よりもちょっとゴージャスな備品になっていることぐらいか。

 外に誰かが待っていることは、分かっているので、ベッドから抜け出すついでにドアを開ける。

「おー、寝起きは悪くはないみたいね」

 声からして女性だとは予想できていた。ブロンドの長い巻き髪、闇夜でもよくみえそうな碧の目、どんな声でも聞き逃すことはないだろう猫耳。

 猫耳。

 時折、ぴくぴくと動いていて、作り物では難しい動きを再現している。

「…………」

「おや、どうかした?」

「いえ、別に……」

 シノンでは、猫耳の人物、いわいる獣人族はいなかったので、ソラは獣人族を見るのは初めてだ。そして、獣耳とは、予想以上の破壊力を秘めていた。

(くおっ、なんだこの言い知れぬみりょくは! この人を抱きしめたい、甘やかしたい、撫でまわしたい!)

 昨日の自称天才の少女のせいで、やや寝不足の朝に猫耳はクリーンヒットだった。

「なんでだろう、今し方突然悪寒が走った……?」

 彼女はぶるっと身を震わせた。

 獣人族、最大の特徴は人間に動物の耳と尻尾が生えてきたような外見をしていることからわかるとおり、その耳と尻尾だ。知能は人と同じくらいあり、人間と共存するのも珍しくない。体の強さ、魔力指数は個体差があり、そのせいかドラゴンを少人数で狩れる者もいれば、人間との喧嘩ですら負ける、ひ弱な個体までいる。

「まあいいでしょう。改めて、おはよーございます。私はソルミレンと言います、そして! 今日からソラくん、君の先輩です!」



 ソラは荷車を曳いていた。一メートル四方の長方形のやつだ。その荷車一杯に、ネズミの死体が入っている。荷車一杯なので、その重さは意外とあり、それがすべて死体の重さなんだと思うと、少し気分が悪くなる。

「この死体、いったい何に使うんですか」

 沈んだ気分を、せめて忘れさせようと、となりで同じように荷車を曳いているソルミレンに話しかける。

「死霊魔術科の授業で使うのよ、厨房に持っていくとでも思った?」

 こちらも『嫌々仕事やっています』といいたげなうんざりした顔でソラの問いに答える。獣人族だからか、たとえネズミでも動物が死ぬのは嫌なのだろうか?

「まさか。でも、死霊魔法科といっても、入学してすぐですか? 最初は専門の知識をつけてからだと思っていたのですが」

「あー、そういえば君はもともと入学生だったのね。発想がないのか」

「どういう意味です?」

「あのね、今年の死霊魔法科が使うんじゃなくて、去年入学した死霊魔法科の生徒が使うのよ」

「ああ、なるほど」

 その発想はなかった。ソラはそう思った。

「私としては同胞けものが殺されて煮え切らない思いもあるけど、好物ねずみ乱獲ころされたことも問題なんだよなー」

「え?」

 猫の獣人族でもネズミを追いかけまわしたりするのだろうか。ソラは思い切って質問する。

「ソルミレンさんって、ネズミが好物なんですか?」

「ちょ、やめてよ、そんなドンびきしたような顔で聞かないでくれる? 私にも一応傷つく心があるんだからね!?」

(顔に出てたか)

 ソラは反省する。

「いや、いくら猫の獣人でもそんなことは聞いたことが無いんで」

「私はどうゆう訳か猫の本能を濃く受け継いだのよ」

 ソルミレンは心底嫌そうに言った。

「でも、妹はそうでもないのよね、なんで私だけ…………」

 ぶつぶつと呟きながら、そのままソルミレンは自分の世界に入っていく。

 ソラは、特にやることが無いので、周りを見渡し、改めて学園の広さに驚く。さっき、ネズミの死体を取りに行ったのが『無限倉庫』と呼ばれるところ。パッとみてみると、やや大きい小屋なのだが、その実態は魔法で空間を無限に広げられて、学園の教材をそこに詰め込んだ場所。普段は三重に鍵と、合言葉の魔法によるガードがされており、一般の生徒が使用することはできない。時間停止の魔法が掛けられているのか、倉庫の中には生ものがそのまま放置されていた。そこらへんはソラにはよくわからなかった。

 さらに五分ほど荷車を曳いていると、人の集団を見かけた。大多数の人が黒いフードつきのローブをまとっているのに対して、頭一個分大きい大人(多分教師だろうとソラは当たりをつけた)はロングコートを着ていた。生徒のうちの一人が、こちらに気付いたようだ。

「あ、お姉ちゃん!」

 生徒は立ち上がり、こちらに向けて手を大振りする。その生徒に続き、みんながこちらを一斉に見る。

「ああ、やっときましたか」

 ぼそっと、教師が呟くのがわかる程度にはソラ達は近づいていた。

「ゲルニア先生、持ってきましたよ」

 ソルミレンは荷車をゲルニアの前で停止させる。ソラもそれにならって、ソルミレンが持ってきた荷車の隣に停止させた。

「ご苦労だった。わざわざ手を煩わせて悪かったな」

「いえいえ、これも事務員の仕事ですから」

 ゲルニアの感情がこもっていない謝礼に、ソルミレンはへらへらと笑う。

「お姉ちゃん!」

 最初にソラ達に気が付いた人――ソルミレンの妹は、姉の方へと飛び出した勢いでフードがずれて素顔があらわになる。

 髪色は姉と同じく金髪の、しかし髪型は元気っ子をおもわせる短髪。やはり頭上にはネコミミが付いており、短髪と相俟って非常に可愛らしさを出している。瞳は黒っぽい茶色で、姉に笑いかける顔は、写真にとって永遠に残しておきたい物だと主張する人が出てきてもおかしくない。ようするに可愛いとソラは思った。

「おう、どうした妹よ」

「ポケットにいれてるネズミはちゃんと返してよね」

「うぇ! なんのことかしら」

「隠しても無駄、『うぇ!』って言った時点で認めているようなものじゃん」

 姉の扱いには慣れているのか、淡々ととぼけるソルミレンを論破する。

「うー、こんなにたくさんあるんだから少しぐらいもらってもいいじゃん」

 ソルミレンはしぶしぶといったふうに、ポケットからネズミの死体を三匹だして、荷車に入れる。

「お姉ちゃん、私が言っているのはそうゆうことじゃないって…………」

 呆れと諦めが入り混じった溜息をついた。

「それはそうとお姉ちゃん、そこの人はだれ? 新しい事務員さん?」

「ん、紹介するまでもないと思うけどな~」

「失礼ですね」

 言うべきことは言うのが、ソラの今日の目標だ。今、決めた。

「まあいいや、自己紹介して」

 先輩の許可をもらったので、ソラは一歩前に出て簡潔な自己紹介をする。

「臨時事務員のソラです、よろしく」

 ざわざわ、フードの連中が騒ぎだす。それもそうだろう、ソラは入学式に出たのに今はこうして臨時事務員をしているのだから。

(まあ、どう噂されているのかは知らないけど、俺は俺でやるだけだ)

 決意を新たにして、闘志を燃やす。

「私はスナプ・ルナ、よろしくね、ソラくん」

 右手を差し出され、条件反射で手を取る。

「ああ、よろしく」

 内心、ドキドキしているせいで、他の生徒達のざわめきがより一層強くなったのには気が付かなかった。

「キサマ! 落ちこぼれの分際でルナに触りやがって!」

 憤慨と同時に、ソラとルナの間にズイと大柄な少年が割り込むようにでてきた。

「ナレッドくん!?」

 割り込まれて驚いたというよりも、『なんでこの人がここにいるの?』という感じの驚き方だった。その反応だけで、この男はルナに相手にされていないとわかる。

(かわいそうに、お前はこの子の『重要な人』の中には入っていないみたいだよ)

「学園の情けでここにいることが許される落ちこぼれが、調子こいてんじゃねえぞ」

「ちょっと、ナレッドくん!」

 ルナが、ナレッドの暴言を止めようと呼びかけるが、ナレッドは暴言をやめる様子はない。ちなみに、他の生徒は唖然とし、ソルミレンはニヤニヤしてわざと止めず、ゲルニアは興味ないと言わんばかりに、タバコを取出し、火をつけているところだった。

「オラ、なにか言い返してみろよ! 落ちこぼれ風情が」

 ソルミレンの顔を窺い、あえて止めないところをみると、誘いに乗ってもいいということだろうとソラは判断して、言い返す。

「あまり喚かない方がいいとおもうぞ、小物がみえる」

「小物――だと!!」

 ナレッドの気の短さと、喧嘩っ早いのは死霊魔法科の全員が知っていることであった。だから、ナレッドに絡まれたら、『とりあえず刺激しない』がクラスの方針だった。だから、ナレッドは言い返されることに耐性がない、よってこの場合、

「ぶっ殺すぞコノヤロウ!!」

 お決まりのセリフとともに、杖を抜いた。

「ミゴシ・ナレッド決闘申請!」

「事務長スナプ・ソルミレン、許可します」

「死霊魔法科担任ジェイム・ゲルニア、許可する」

「ちょっとお姉ちゃん! 先生!?」

 あたふたしているのはルナだけだ。

「ただし、ソラくんに決闘の説明をする時間を要することを条件とする」

「わかった、それくらいならいいぜ」

 ナレッドは意地悪く笑う。

「さてと、ソラくん。この状況理解できてる?」

 ソルミレンはソラに向き直る。

「いえ、なんとなく俺があの小物と戦うぐらいにしか理解できません」

「そこが理解できてりゃほとんどオッケイ、だけど一応の説明はしておくね。決闘ってのは、この学園内で因縁のある者同士が自分の我を押し通すために作られた制度で、喧嘩なんかが起きた場合この決闘制度で白黒つけてもらうことになっているのよ」

「俺は別に因縁をぶつけなくてもいいんですけど」

「まあまあ、そういわずにさ」

 ソルミレンは声を潜めてソラにだけ聞こえるように言う。

「実をいうと、あのガキが去年から妹にちょっかいを出していて姉の私が見るに見かねているんだよ、ここは先輩の頼みだと思ってさ」

「完全に先輩の私怨じゃないですか」

「はい! じゃあそうゆうことで、ルールは相手を戦闘不能にするか説得させることで勝利、逆に戦闘不能になったりすれば負け。その場合、大概は相手の言うことを認める、言うことを聞くという方向に落ち着くから」

「ひとつ質問いいですか」

「なにかな?」

「この決闘、引き分けとかはあるんですか?」

「うーん、まあほとんどないけど、たまにあるよ。両方同時に戦闘不能になる事、その場合、決闘は中断、その後話し合いによって再度するかどうかが決まるけど、引き分けなんてほとんどないから」

「じゃあもう一つ、ルール違反とかは」

「基本的にはないけど、マナー的な問題で急所へ意識的に攻撃すること、かな。あと、当然のことだけど相手を殺さないこと」

「なるほど、大体わかりました」

「それじゃあヨロシク!」

 バンと背中を叩かれて、ナレッドの前に押し出される。

「神へのお祈りは済んだか?」

 ゲヘゲヘと品のない笑いを浮かべるナレッド。

「生憎、俺は無宗教だ」

「決闘始め!」

 ソルミレンの合図と同時に、ソラは動いた。

(図体がでかい奴は反応速度が数瞬間遅い!)

 シノンの村は首都外れの小さな村で、自給自足では賄えない。そこで近辺の村同士で交流がよく合ったのだが、その交流は何も物資や大人だけではない。交流が生まれるところを狙ってモンスターなどが襲ってくることもざらだ。それらを相手するために作られた警備隊に十四の頃から十六まで入っていたソラにとって、ただ図体がでかいだけの人間は恐れるに足りなかった。

 そして、魔法使いに対する戦闘経験も足りなかった。

「ぐはッ」

 横から、何かがぶつかった。

 ぞわぞわぞわ、ソレは小さいが、数にモノを言わせて体当たりをしてきた。

「チッ、ありかよ」

「基本的に決闘にルールはない、何をしてもいいんだよ!」

 ぞわぞわぞわ、それらはナレッドを守護するかのように取り囲んだ。

「そうかよ」

 立ち上がり、体当たりをされて、倒れた拍子についた汚れを払う。

「今日からお前の名前はチュー太郎だな」

 ソラは馬鹿にしたように言った。そう、ソラに体当たりをしてきたのはナレッドが操るネズミの死体だった。

「今の発言を取り消すためにこの後、もう一度決闘をする必要があるな」

「残念だけど、俺にその気はないよ」

「ハッ、ほざけ!」

 ナレッドは腰から杖を取り出した。本格的にネズミを操るようだ。

「待って!」

 決闘に割って入って、両者の間で両手をひろげて待ったを掛けたのはルナだ。

「ソラくん、もうやめて、お姉ちゃんに何を吹き込まれたのかしらないけど、ソラくんが傷つくのは嫌なの」

「いや、そうはいかない」

「いやー! ルナはホントに優しい奴だぜ」

 チュー太郎はルナの良行を、自分のことのように自慢するかのように周りにアピールする。

「ナレッドくんも! 人をいじめて何が楽しいの!? 最低だよ!!」

「な!」

 これに驚いたのはナレッドだ。

「ちょっと待てよ、俺はお前のために――」

「言い訳は聞きたくないわ、チュー太郎! あ……」

 思わず、といったふうに、口元を抑えたが、そんなことしてもナレッドの耳にはすでに聞こえている。

「ルナ……! キサマ!!」

「火に油注いだな」

 ソラの的確な言い分にルナは「ごめんなさい」と素直に謝る。

「落ちこぼれともどもぶっ殺してやる!」

「決闘以外での学園内での暴力行為は禁止だ」

 ぷかーとタバコをふかしていたゲルニアが釘を刺す。

「じゃあルナに決闘申請だ!」

「拒否だ、これ以上時間をかけると授業の時間が無くなる」

 教師らしい理由でゲルニアは決闘を拒否、当然のようにナレッドは激怒する。

「ふざけんなよ、先生だからっていい気になるなよ」

「だからお前は小物だというんだ」

 ソラが呆れたように言う。

 場の空気が固まった。死霊魔法科の生徒たちは『たのむからこれ以上ナレッドを刺激しないでくれ』と願うが、ソラにはそんなこと関係ない。これ以上、場を険悪にしたくなかったのと、ナレッドの目的を自分一人に絞らせたかったからこその発言だった。

「もういい、死ね」

 ネズミが飛びかかる。ソラとの間にルナがいながらも、ナレッドはかまわずにネズミを動かした。

「キャア!」

その瞬間、ソラは呪文を唱えた。

「『ヴォンドルガ!』」


「……………………?」

 ルナは、恐る恐る目を開けて、一瞬にして景色が変わっていることに気が付いた。ナレッドの目の前にいたはずなのに、4メートルほどの距離が生まれていた。

「無事、だよな?」

「――!?」

 そして、ルナは自分がお姫様抱っこされているのにも気が付いた。

「ソ、ソラくん!?」

「おお!」「あいつ、なかなかやるな」「ステキ」「ナレッドのやつルナになんてことを!」「おれらのアイドルになんてことを!」

 しかも、その場所が死霊魔法科の生徒の目の前だということにも、知りたくなかったと思う位に気が付いた。

「あ、あああ!」

 羞恥のせいで、顔を赤く染めるルナ。ソラはそんなルナにかまわず、「おろすぞ」とルナを地面に開放する。

「あ、ああの、ありがとう…………」

「どういたしまして」

 社交辞令意識で(変に意識しないようにという配慮)返事を返すと、ナレッドに向き直る。

「あれ?」

 ソラが向き直っていたころには、すべてが決していた。

「イデデデ、腕が折れる!」

 ゲルニアがナレッドを組伏していたからだ。

「決闘相手以外に暴力を加えた。よって、お前はお仕置きが必要だ」

 あくまでも、無関心は貫くらしく、淡々というゲルニア。

「これまでもいろいろ問題を起こしていたし、退学もあり得るな」

 その近くにソルミレンはニヤニヤしながら立っていた。思惑通りにいって嬉しいのかもしれない。

「どうやら、決闘は続けなくてもよさそうだな」

「う、うん…………」

 ルナは頭部の耳をぺたんと倒してから、返事をする。

「ソラくんお疲れ、それにしても君、魔法使えたんだね」

 ソルミレンがこちらに振り返り、近寄ってくる。その表情は、非常に愉快そうだった。どれだけナレッドのことが嫌いだったのだろうか。

「といっても、俺の魔力の絶対量はそこまで多くはないし、使える魔法もごく少数。あったら便利程度の魔法ですから、俺の本命はこれじゃなくあくまで近接戦ですよ」

「それでもウチの妹を守れる優秀な魔法よ、誇ってもいいわよ」

「はあ……」

「じゃあ、決闘はぐだっちゃったし、本来の仕事ネズミとどけも終わってることだし、次の仕事に行こうか」

「え、もう行っちゃうの」

 言って、ルナは「しまった」といいたげな顔をした。

「おや、おやおやおや、ルナちゃんはソラくんのことが気に入ったのかな?」

 にやにやと、意地悪な顔をしながらソルミレンは一歩、二歩と近づく。

「いや、そ、そんなこと…………」

「そうよねー、仕方がなかったとはいえみんなの前でお姫様抱っこされたものね、流石のお姉ちゃんもアレにはびっくりしたわよ」

「くは!」

 せっかく忘れようとしていたのにと、ソラは今更ながらずいぶんと大胆なことをしてしまったものだと後悔する。

「――お…………、お姉ちゃんのバカ―――!」

「ゲハ――!」

 先ほど不用意に近づいたのがいけなかった、ソルミレンはルナに思いっきり殴り飛ばされた。





「ねえねえ、聞いた?」

 よく晴れたお昼、王宮の形を模した校舎の屋上のひとつで昼寝をしていたレイナに、話しかけたのは同期で入学した、だがすでに卒業扱いの少し特殊な位置にいる人間。

「聞いてないし、聞く予定もない」

 寝返りを打って背を向け、あなたと喋る気はありませんオーラをだす。しかし、そいつはわざわざレイナの正面に立ち直り、「まあまあそう言わずに」とレイナの奇行に苦笑いを浮かべる。

「知らねえよ、アタシは寝たいんだよ! どうしてもって言うならお前が勝手にしゃべってろ!」

 仮にも友達にそう暴言を吐き、もう一度寝返りを打つ。

「はあ、じゃあ僕が勝手にしゃべるよ」

「勝手にしろ」

「昨日入った臨時事務員、どうやら今日の朝に死霊魔法科の生徒と揉めたらしいよ」

「臨時事務員?」

 言ってからレイナは昨夜のことを思い出す。

(ああ、昨日の奴か。すっかり忘れてたわ)

 仮にもお願いされた立場だから顔と名前くらい覚えておこうとレイナは務める。

「それで?」

「決闘したらしい」

「マジか、それで?」

「先生の割り込みで決着はつかずに終わったよ。でも死霊魔法科の子が操ったネズミの死体の攻撃に巻き込まれそうだったスナプ・ルナを助けたらしいよ」

「ふーん、スナプ・ルナのクラスってことは、大方仕掛けたのはあのデブだろう」

「うん、ミゴシ・ナレッドくんが決闘を申し込んだんだって」

「なあセレン、この情報秘匿にできるか?」

 セレンと呼ばれた少年は困った笑みを浮かべる。

「それは無理だと思うよ、僕の耳に届いた時点でなら可能だっただろうけど、今や学園中に広がっているよ。何か思う所でもあったの?」

「イヤ、無理なら別にどうでもいいや」

「そう」

 そしてレイナは、再び昼寝をするのだった。

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