脚注11

〔大相撲〕

昭和天皇は子供のころから大相撲が大好きで、その長い在位中に天覧相撲は40回に及んだ。国技館正面入口脇にある記念碑には御製の歌が刻まれている。

〈ひさしくも みざりしすまひ(相撲) ひとびととてをたたきつつ みるがたのしさ〉


天皇は公平無私たるべしというお考えから、テレビタレントでもスポーツ選手でも、好みを聞かれて天皇が個人名をあげることは決してなかった

あるとき記者から「好きな力士は?」と聞かれて、天皇はウイットを交えてこう答えたという。

「職業上の秘密です」


1987年9月19日朝日新聞朝刊はスクープ記事を掲載した。

天皇の体調が今夏から悪く、侍医団が精密検査を行った結果、腸に疾患があることが明らかになった。場合によっては来週にも入院、手術の可能性がある、と。

 10月23日から史上初めての天皇の沖縄訪問が予定されていた。秋の国体が沖縄で開かれるのが表向きの理由だったが、本当のところは先の大戦のおびただしい死者に対する慰霊の旅だと思われていた。

検査の結果病気は十二指腸のがんであった。病名は厳重に秘匿され本人にも告知されなかった。沖縄訪問は中止となり、天皇は9月22日宮内庁病院の手術室に入った。

〈思はざる 病となりぬ 沖縄を たづねて果さむ つとめありしを〉


9月場所8日目に第41回目の天覧相撲が予定されていたが、取りやめになった。手術の後天皇はいったんは公務に復帰し1年と3カ月生きたが相撲を見る機会は二度と訪れなかった。


昭和天皇は1989年1月7日に崩御した。その年いっぱい国の内外で時代の終わりを象徴するような事件が相次いだ。

2月9日に"マンガの神様"手塚治虫が他界した。

4月27日に"経営の神様”松下幸之助が他界した。

6月4日に中国で民主化を求める学生らを戦車で制圧した天安門事件が勃発した。

6月24日に"歌の神様"美空ひばりが他界した。

11月9日に東西冷戦の象徴だったベルリンの壁が崩壊した。


昭和天皇が道連れにしたのだと多くの人々が囁いた。



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