第12話〔ドラクエ〕

松尾耕司の人生はファミコンと共にあった。中学生のとき、人一

倍力自慢の彼は村相撲に出場して優勝した。それは優勝の賞品が

ファミコンだったからだ。それをたまたま巡業にきていた大相撲

の親方が見ていた。

「この子は将来有望です。きっと横綱になれますよ。」

耕司は上京して相撲取りになった。


天性の力と運動神経で耕司は驚くほどの早さで番付を掛けあがった。

しかし、充分の成績で横綱に推薦されたときにも、審議会で物言

いはあった。

「あの大関は風格に欠ける。聞くところによると、部屋に帰って

も稽古もせずにファミコンにこってるそうじゃないか。最近は

32ビットパソコンまで買い込んでパソコン大関と言われている。

横綱には心技体が必要だ。」

「稽古しないで勝てるのは天才だからですよ。」

「パソコン横綱というのもナウくて人気出ますよ。」


耕司は横綱になった。しかしなってからの成績はぱっとしなかっ

た。ドラクエが発売され、熱中して本場所の間も徹夜が続いたか

らだ。ドラクエ1がクリア出来ると成績は上がった。しかし、ド

ラクエ2が発売されるとまた徹夜が続き八勝七敗になってしまう。


ある場所の優勝決定戦の前夜ドラクエ3が発売された。耕司はそれ

を徹夜して買ったが、運悪く親方に見つかった。

「横綱!この大事な時に何をしている。」

「うっせーなー!ぼかぼか!」

思わず親方を殴り、相撲界を破門されてしまった。


その後耕司はプロレスにいった。力はあった。しかし、いつも睡眠

不足で眠そうな顔をしていたので迫力がなかった。ドラクエ4が発

売されたからである。プロレスも安住の地ではなかった。


今、耕司はギョーザの岷々でアルバイトしながら次の冒険のプラン

を練っている。仕事が終わると急いでマンションに帰る。ドラクエ

は卒業した。今こっているのはハビタットだ。他のアバタとちがっ

て彼は昼も夜も深夜も出っぱなしだ。課金の多さでは彼の右に出る

ものはいなくて課金王と呼ばれている。

「はろはろ★こんばんわ★みんみんだよっ!」

きょうもハビタットの一日が始まる。それがハビタットを血で染め

る惨劇の一夜の始まりとは、さすがのみんみんも知らない。

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