第5話 [おるがんシフト]

魚住俊一はキーボードの前に座った。これからオラクルとしての一

日が始まるのだ。キーボードは富痔痛独自のおるがんシフトキーボ

ードだ。これを開発したのはあの汎田部長であり、俊一はそれだけ

でも汎田部長を神のように尊敬していた。


コンピューターにとって最も大事なマン・マシン・インターフェース

はキーボードである。不幸なことに、JISキーボードは深い考えもな

く安直に英文タイプライターとカナタイプのキー配列を重ね合わせ

て作られた。カナタイプは日本語の文字の出現頻度を研究せずに

作られたもので、仮名は四段に配列され、濁音半濁音は一文字入力

するのに二回打鍵しなければならなかった。そのためブラインド

タッチがしにくくスピードもあがらない。だから普通のユーザー

はローマ字入力を強いられていた。


「日本語の特性を充分考えた、ブラインドタッチのできるキーボー

ドを作りたい」

というのが開発者汎田部長の考えだった。そのため仮名はちょう

どオルガンの鍵盤のように横一列に配列された。ひとつのキーに

文字は四個割り振られた。この四文字を選択するのは右足左足の

ペダル操作による。すなわちこのキーボードで入力している姿は

オルガンを演奏している姿に似ていた。こうすることで一分間

200字の高速入力が可能となった。このキーボードのファンは、

両手両足をフルにつかって入力するリズム感に快感すら感じる

と言い、いつしか「おるがん教」とか「汎田教」と呼ばれるに到った。


しかしそのおるがんシフトにも弱点はあった。両手両足を使う

入力は障害者には出来ない。また片手でコーヒーを飲みながら

片手で一本指入力する「ながら入力」にも不向きである。


しかし最も困るのはマウスの操作である。両手両足がふさがって

いる状態ではマウスが使えない。それではハビタットにこのキー

ボードは使えないのか?この難しい問題を、汎田部長は誰にも

思いつけないユニークな方法で解決した。


「お尻が空いている。お尻を使えばいい。」

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