脚注5
〔親指シフト〕
親指シフト とは「親指と他の指の同時打鍵により一つのキーを3通りに活用する」という考え方で高速の仮名入力を可能にしたキーボードで ワープロ専用機OASYSシリーズに始まる。
はときいん
みおのよっ
親指シフトに熟練すれば1分間200字の速度で文字通り「しゃべるように書く」ことができた。
1980年に発売されたOASYSシリーズはワープロ専用機として2001年の生産終了までに累計420万台が販売された人気商品であった。
ワープロ専用機は、当初は企業向けの事務機器として登場し、価格も個人では購入困難な200万 円~300万円の価格帯だったが、それでも急速に普及したのは日本語の入力環境の特性による。
欧米では機械式のタイプライターが個人用の文書作成機器として昔から存在したが、日本語タイプライターは実用に耐えるものではなかった。書類作成は官庁でも企業でも手書きに頼らざるを得なかったが、人に読める字を書ける書き手は実は少ない。
解読するだけで時間のかかる悪筆の手描き書類の山は情報伝達を阻害し、日本のビジネスシーンの致命的な弱点と考えられていた。かな漢字変換による日本語ワープロの実用化は、たとえ高級車並みの価格だったとしても革命的なイノベーションとして歓迎された。
その後専用機は高機能化とともに低価格化が進み、持ち運びもできる小型のラップトップも開発された。お手軽になった専用機は年賀状の作成など家庭用文書作成装置として個人にも普及するに至る。
富士通「OASYS」、東芝「Rupo」、シャープ「書院」、NEC「文豪」などがシェアを争い、最盛期の1991年には、全機種合わせて年間約270万台を販売、パソコンの出荷数と遜色がないほどだった。
パソコンの優位性はその汎用性にある。新たなソフトウェアをインストールすれば1台の機器が何通りにも使える。パコン用ワープロとしては「一太郎」や「松」がシェアを伸ばしていた。しかし当時のパソコンの非力なスペックでは、専用機に比較して優位とは言えなかった。キーボードで入力した文字が仮名から漢字に変換されるのに一瞬ではあるが「考え中」のタイムラグがあり、専用機と比較するとストレスになった。当時の一般ユーザーのニーズで大きなものはワープロ機能であって汎用性は必ずしも望まれていなかった。
しかしパソコンのスペックが上がれば入力のストレスは専用機と遜色なくなり、パソコンの普及が進むにつれ、専用機の出荷台数は急激に減少した。95年には182万台程度だったものが、2000年には全機種で約17万台にまで落ち込んだ。
80年代のパソコンのキラーコンテンツが日本語清書機能だったとすると、90年代後半のキラーコンテンツはインターネット・ブラウザーにシフトした。ブラウザーを欠くワープロ専用機に対し、パソコンは圧倒的な「汎用性」の優位を持つに至った。
パソコンは多くのソフトウェアをプリインストールして売られるようになった。インターネット・エクスプローラとワードとエクセルと年賀状作成ソフトとそれから・・・・・・。
それまで誰も見たこともなかったワープロソフト「ワード」が、パソコンを買えばはじめからおまけでついてくるのだった。 「OASYS」も「Rupo」も「書院」も「文豪」もなぎ倒された。各社のワープロ専用機からの撤退が同時横並びで始まった。
年度別ワープロ専用機出荷台数
1988年270万台
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◆ ◆182万台
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80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01
2001年2月OASYS専用機は生産終了し、その機能はワープロソフト「OASYS」と、独自キーボードである「親指シフトキーボード」に受け継がれ、ハードとしての専用機は姿を消すこととなった。
そしてさらに時代が進むと、専用機だけでなく国産のワープロソフトは「一太郎」も「松」も「OASYS」も「ワード」になぎ倒されていくのである。
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