第1話 [電脳戦争]

魚住俊一はまだ21才だったが、情報工学の知識に関しては、社内で

おそらく右にでるものはないだろう。彼は特殊な英才教育で、通

称「虎の穴」と呼ばれる企業内研修センターの第一回卒業生だっ

た。

国内最大のコンピューターメーカーである富痔痛は優秀な

人材を確保するため、全国の中学生の中から数理系に強い秀才

を年間30名づつ公募し、多額の奨学金と引換えに全寮制の研修

センターで6年間情報工学の知識をたたきこむ。卒業生は20才で

社内各部門に配属され、スーパーエリートとしてコンピューター

開発の最前線にたつのだった。


俊一はシステム開発部に配属され普通の人の三人分の業績をあげ

てきたと自負していた。だから総責任者である汎田部長に呼ばれ

たときも、なにか新しい開発関連の打合せだろうと思うばかりで

それが悪夢のような事件の幕開けだとは予想できなかった。


「魚住君、おりいって君に頼みたいことがある。これはわが富痔痛

の将来に関わる重大な問題だ。」

汎田部長の顔はいつもよりこわばってみえた。


「君も知ってのとおり、国内のパソコン市場の七割は無知電98シリ

ーズに占められている。わが富痔痛は残念ながら業界二位に甘ん

じてきた。シェア奪回のために無知電と競争することが、今までの

我々の基本スタンスだった。

しかし、時代は変わった。

ベルリンの壁が崩れ、湾岸戦争も終わった。

今や我々の正面の脅威はアメリカのYBMだ。」

ただならぬ話に発展しそうな予感に俊一は緊張した。


汎田部長は続けた。

「YBMパソコンは世界標準だ。無知電がいかに国内シェアを誇っ

ても世界の中ではお山の大将にすぎない。いままでわれわれが国内

でせこい競争にあけくれてこれたのは、MS-DOSの互換性の壁が、我

々を国際化の荒波から保護してくれたからだ。

だが壁が崩れる日が来た。知っての通り、DOS/VとWINDOWSでほとん

ど互換性の壁がなくなる。

発想の転換が必要だ。わかるな。」

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