20
ちりちりと肌に沁みる、ひんやりとした空気で、水木の力なのだと枝折は悟った。
真冬の水のような気に
……どうして、忘れていたんだろう。
小さい頃からずっと視えていたのに、視えていないことに気づいていなかった。目の前にある危険にばかり警戒していて、心にゆとりがなかった。
……どうして、私にだけ見えるの?
枝折は真っ青な顔を俯けて、自問する。視えなくなればいい。何度も何度も、そう願った。
物心がつく頃から、それら――
幼い時は、
もう、嫌だ――
――じゃあ、しんじゃえば……?
枝折の心に、あどけない声が差し込んだ。
ケタケタケタケタ――
「どうした? 大丈夫か?」
「
「何、コレ?」
大きな音を聞きつけて、集まってきた教師や学生たちに混じって、騒ぎ立てる優美の声がした。
枝折は顔を持ち上げる。
枝折から少し離れた場所で座り込んだままの優美は、すぐ近くで粉々に
「チョット、何なの?!」
パニックになっている優美に白衣の女性が近づく。優美に声をかけながら立ち上がらせたのは、保健医である木蓮だ。
木蓮に連れられて歩く優美の後ろ姿を見て、枝折は
「――っ」
鼻を刺すきな臭さに、枝折は
水に
……よくない、もの。
ぞくぞくとした悪寒が枝折の肌を
どこから来るのか。
感情のない瞳で割れた窓ガラスを眺めていた希子は、
「大丈夫か?」
素っ気ない声が降ってきたすぐ後、力強く腕を引っ張られて、枝折の身体がよろめく。
「……っ」
肩が抜けるんじゃないかと思うほどの力に、顔をしかめた枝折を引き締まった身体が受け止める。
ざわつく周囲から女子たちの悲鳴が聞こえて、枝折は慌てて自分の身体を離そうとするが、がっちりと押さえられているのか、ぴくりとも動かなかった。
「目をつけられやすいな」
背中を支える手からは、体温を感じない。
「――どうして……?」
枝折は、ずっと頭の中で繰り返していた言葉を口にした。
「覚えて、いないか」
「……え?!」
柊の
「いや――いい。行くぞ」
柊が宣言すると、突風がどこからともなく押し寄せる。
目が開けられない枝折は、ふわりと身体が浮く感覚に驚いて、近くにあるものにしがみついた。
ふっと、微かに笑う気配。
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