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     ◆   ◆   ◆



 静寂せいじゃくに、自分の荒い呼吸が響き渡る。

 光の届かない漆黒しっこくの中、死に物狂いで走る。


 ……苦しい。


 ずる、り……ずるり…ずるり。


 背後から絶え間なく追いかけてくる音。

 速度を早める重い音に、心が追いつめられていく。


 ……コワイ。


 闇の中、自分を捕らえようとする存在。

 ねっとりとした空気がまとわりつく。鳥肌が立つ。

 いずる音が唐突にやんだことを不可解に思っていると、走るスピードが落ちた。

 静まり返ったままの状況が気にかかり、立ち止まって後ろを見る。

 振り返った瞳に、三日月が映り込んだ。


≪……ミツ、ケ、タ≫


 三日月の形にわらう口が、嬉しげに更に細くなる。



     ◆   ◆   ◆     

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