12
中庭を横切って校舎中央の昇降口から中に入り、三階を目指して階段を上がる。
廊下には談笑する学生が
「九鬼くんと一緒にいるの、誰?」
「あんな子が何で一緒に……」
楽しげな会話の
何で……。
それは、枝折が
「気にすることないよ」
「そうよ」
枝折の横に並んだ水木が、棗の言葉に同意する。
春の日差しめいた
「……」
気にしないでいられたら、どんなに楽だろう。
何度もそう思った。気にしないと思うほど、聞きたくないことが耳に入ってきた。
「大丈夫よ」
少し前を歩く後ろ姿は、周りの目に全く関心を示さず、
……どうして、あんなに堂々としているんだろう。
鬼だと告げた水木たちが従う
近寄りがたい、
『私には権限がない。九鬼に聞いて』
自分がどうしたいか。彼らとどう接したらいいのか。
東端の教室に入る柊の後に続いて、七組のクラスに
柊に熱のこもった視線を向ける女子生徒たちは、その後ろにいる枝折を見た瞬間、
きりきりと
「おはよー」
枝折の背後から投げられた棗の明るい声に、クラスメイトたちの意識が引きつけられると、水木は硬直したままの枝折の腕を不意に
枝折の席に押しつけるように座らせながら、水木がそっと耳打ちする。
「気にしない」
左肩をそっと叩くと、水木は自分の席に向かった。
「おはよう、引目矢さん」
「おはよう……
親しげな笑顔で声をかけたのは、枝折の真後ろの席に座る生徒。名前の順で枝折の次だった細谷
ピンク色の薄い唇に、クルミのような丸く大きな瞳。毛先がふんわりとカールした長い髪は、手入れの行き届いた
小柄な容姿で、
「引目矢さんって、九鬼くんと仲いいの?」
「私は、よく知らないけど、同室の水木さんが――」
親しいと続けようとした枝折を、別の声が
「引目矢さんって、滋堂さんとルームメイトなんだ。そっかそっか~」
隣から話しかけられて、枝折は目を向ける。
誰だっただろう――と悩む枝折に、
「ソゴウ。漢数字の十に、さんずいの
そう自己紹介するのは、活発げな表情の女子生徒。
明るい髪をショートボブにした、つり目がちのキツネのような
周りの同級生より頭ひとつ高い
「ちょっと、希子。引目矢さんが喋ってるのに」
「悪かったって」
非難めいた口調の優美に謝って、
「引目矢さんって、珍しい
そのまま枝折に話を振る。
「十河さんも、珍しいと思う」
「希子って、呼んで。私も、枝折ちゃんって呼ぶから」
「うん……」
「じゃあ、私は優美って呼んで。仲よくしてね、枝折ちゃん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「枝折ちゃん、かった~い」
二人にお辞儀をした枝折に、彼女たちは親しみ深い笑顔を見せた。
◇ ◇ ◇
自分の席に座り、枝折を
昨日、理事長室で見た枝折の表情が気になっていた。
葵が
多少の不安を持ちつつも、新しい環境に期待する明るい表情の同級生たちの中で、枝折だけが感情のない瞳をしていた。
何の期待もしていない目。
常に警戒を解かない少女は、ぴんと張り詰めた空気を
気がかりだ。
何故、九鬼はあの娘を護るように、命令を下したのか。
護らなければならない理由とは――
「時間だ、始めるぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます