3
寮の部屋を出た水木は一階に下りると、談話スペースに立ち寄らず、寮事務室の前を通り
手中のスマートフォンを操作し、少し前に届いたメールを確認する。
届いたのは五分前。
内容は、命令形の呼び出し。
向かう先は、女子寮と高校敷地の
女子寮と高校をつなぐ門扉はひとつ。女子寮の周りを、人の身長くらいの高さの植木が囲い、内外の目を
この時間はまだ学生たちは寮にいて、道を通る人の姿はない。
開放してある門を通りすぎ、近くにある大木の幹に寄りかかる男性に、水木は歩み寄る。
シャープな
やや薄い唇を固く閉ざし、
「遅くなり、申し訳ありません」
口早に謝罪する水木に対し、男は
八瀬高校の制服に身を包んだ彼は、少年というよりは青年のような外見。
「で、様子はどうだ?」
素っ気ない口調で、男性――
「まだ、緊張というか……警戒していますね。本能で、ここがどういう場所か勘づいているのか、全身の毛を
水木は
思い浮かぶのは、先程の寮内での枝折とのやりとり。
「
「程々にしておけよ」
柊は内心
「取って
きつく細めた双眸を水木に向けて、柊は告げる。
「
「……」
無言で水木の顔を
彼の意思を受け取った水木は、深く一礼をしてから女子寮へと引き返す。
◇ ◇ ◇
女子寮へ続く道を歩きながら、水木は思い返していた。
九鬼柊の祖父が運営する、私立八瀬高等学校。
ここの理事長室に呼び出されたのは、三月の初め。
集まった
「四月からここに入学する」
「ここ?」
不審げな声を発したのは、水木の隣に立つ男子。
「八瀬高校。何があっても
語調は、厳命。
重々しい空気が室内を満たす。それを発するのは、理事長机に
理由を聞ける
抜き身の
机上の紙を
黒く長い髪を三つ編みにして、
笑えば愛らしいだろうに。水木は
◇ ◇ ◇
四月に入り、寮の部屋に姿を見せた少女。
写真同様に、
新しい環境。
親元を離れての一人での生活。
自由な環境。
不安もあるが、期待に心が浮き立つ気持ちもあるはずなのに――
目の前に立つ枝折には、明るさはなく、
明らかに、同い年の少女たちとは違う
何が、少女の心を重くしているのか。
――まぁ、いいか。
水木の目に女子寮の戸が映る。
ひと
寮のドアを開けて中に入ると、階段を下りてくる枝折の姿を見つけた。
水木は、がらりと表情を
「枝折ちゃん、ご飯食べに行こう」
水木が声をかけると、驚いたように目線を上げた枝折は小さく
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