決戦

 薄明。学院世界の皆が疲労している中、奇襲をかけるには絶好のタイミングで空から大きな影と沢山の影が見て取れた、サンドゥの世界である浮遊島、軍勢である鳥人と運ばれる獣人や竜人、それは空を埋め尽く勢いのものだ。

 報告を待つことなく学院世界側は対応始めた。各所の人員を散らし避難させると。学院の屋上でマーシーが錫杖を鳴らすとスポットライトのように学院を照らす。

 ――お前達の狙うべき獲物がここにいるぞ。

 はたから見れば自殺行為しかないその行為に軍勢は学院の屋上を目指す。

 そしてサンドゥ側も学院が重要施設と言う事は理解しているらしく戦力は学院を中心として投入されている。

 そして、学院の屋上を取り囲む。学院の屋上にはオルド、アレンド、トラッパー、マーシーの最大戦力のみがそこにはいた。

 「……来ちまったか」

 「そうだな」

 「……」

 「さあ、くいつぶしてやるわよ」

 オルドは敵を見据え、アレンドは伏せて対物ライフルのの照準を向ける。トラッパーはどこからかダーツを取り出し。マーシーが錫杖を鳴らした。

 マーシーは確かに加護の力が働いていることを確認しさらに別の力が流れ込んでくることを感じる。

 それはこの世界にいる人々の「信仰」の力だ。神に力を与えようとする思いが伝わってくる。その力を「加護」としてさらにオルド達へと伝える。神の基本的な能力だ。

 今回の作戦も至って単純なものだ。

 ――加護と信仰の力を以てオルドをはじめとした中核戦力に力を注ぎ、正面からサンドゥの大軍勢とやりあう。

 一見すれば無謀とも思うが。特にオルドの力は普通の駒のそれを凌駕する。そこに信仰の力を加えればその力は計り知れない。

 同時に、オルドには負担が大きいのも事実。その事に自然と表情が曇らせればオルドは笑って。

 オルドが負ければ全てが崩壊する、そんな賭けだ。

 「マーシー、気にすんな。いいじゃねえか、自称勇者が本当の勇者になれる瞬間だぜ? こんな機会はそうそうない」

 「おいおい、オルド一人の見せ場じゃねえよ。 なあ、トラッパー?」

 アレンドの言葉にトラッパーは頷き、曲芸めいた動きでダーツを放っていく、その全てがサンドゥの軍勢の首を狙ったものだ。深々とは刺さってはいないが落ちていく。どうやら毒が塗ってあるようだ。道化の面に合わない狡猾な手。

 それに続くように。アレンドが対物ライフルでサンドゥの兵を落としていくある程度近づいてくれば背に担ったアサルトライフルによる掃射で兵士を撃ち貫き近づいた兵士を銃剣で突き刺し薙ぎ払う。さらに咥えたナイフを以て確実に止めを刺していく、流れるような動作でアレンドは敵を仕留めていく。

 「二人ともやる気満々だな。なら俺も――」

 オルドは流れてくる力を感じるのは世界の力だ。それはマーシーを通して伝わると共に、イメージを作る。

 ――今ならどんなことでも出来る気がする。

 自分の能力は剣士であることをベースに炎属性得手とし、セブンススターの力を得ることで地水風の力をもある程度操る事を可能とし必殺技がある。

 オルドはセブンススターを地面へと突き刺すと魔法陣が組み上がる周囲の力を集中するためのものだ。

  思い浮かべるのは星。それら全てを撃ち抜くイメージ。オルドの左腕の刻印が淡い光を発する。

 「これが自称勇者オルドの最強の魔法だ」

 剣が光を帯びると鞘が呼応するかのように形を変えて黄金の弓へと変わる。左手に光の矢が作られる。そして正面へと狙いをつける。

 「行けよ。――流星落とし!!」

 放たれた光の矢は空へとのびて爆ぜると流星のように上空から降り注ぎサンドゥの軍勢を大きく削る。そしてそれを補うようにさらに軍勢を投入される。

 「どうやら、サンドゥは後先考えないでもう、ここを落とすことしか考えてないようね」

 「予定通りだな、と。……下に降りた連中は任せろ」

 振り向きざまにアレンドは兵士を撃ち落とす。雨どいを伝って下へと降りていく。

 「では私は、街へ穢されたくないので」

 恭しくトラッパーは一礼して屋上から低い校舎へと跳び移りさらに体育館の屋根、電柱と跳び移っていった。

 「気を使われたなこりゃあ」

 ――オルドが存分に力を振るえる環境が出来たのだ。

 「背中は預けたぜ? 我らが神様」

 「ええ、あなたは正面からくる敵をひたすらなぎ倒して」

「おうよ!」

 オルドは光り輝く、剣を振るってサンドゥの軍勢をなぎ倒していく。

 僅か四人に集中した戦力で互角ともいえる戦いを繰り広げる。銃声が響き、トラップによる轟音が響き、光り輝く剣が振るわれ、錫杖の音が響くたびに何百という兵士が仕留められる。その事でサンドゥの軍勢は怯むこともないが、攻撃の手をゆるめることや負傷で動きを止める一団が出始める。そこへ各地に散らばった学院世界住民が各個撃破を狙っていく。

 たった四人による圧倒の結果……そして戦いの舞台は屋上から校庭へと移っていた。


 「くっ、何をやっている、こんな小さな世界落とすのにどれだけ時間がかかっている!!」

 業を煮やしてサンドゥがやってくる。背には純白の羽、端正な顔つきも相まってまさに神と言った出で立ちをしている。

 「堕ちろ!」

 サンドゥの能力で鳥人をミサイルかのようにオルド達に叩き込むがその全てをことごとく外していき学院の屋上へと刺さる。

 「大人しく下がりなさいサンドゥ。これ以上は恥を上塗るだけよ」

 「貴様らごときにっ!! 精鋭部隊、マーシー達を押さえろ!! 残りは私に続け!!」

 プライドを傷つけられて激昂しているサンドルは宝剣を片手にオルドへと斬りかかる。多少は剣の心得はあるがオルドに対しては問題にはならない、その程度の相手なら力任せに押しきれる。

 むしろ厄介なのは一斉にかかってくる敵だ、オルドの敵ではないとはいえ数がいればそれだけ攻めの手は減り、注意は逸らされてしまう。サンドゥの剣を捌きながら蹴りやセブンススターの薙ぎ払いで敵を弾き、サンドゥの剣と二、三合打ち合えばサンドゥの胴を真っ二つにするが、先日、アレンドが顔面を吹き飛ばした時と同じく再生されてしまう。

 「無駄だ!! 私は不死の力を得たとそういっただろうが、だからこうしてここにいる!!」

 サンドゥは再び剣を振り上げて向かってくるとつばぜり合いになる。おたがいに蹴りを繰り出し距離が離される。

 「オルド! 落ちついて、完全なる不死は神であっても不可能よ!」

 「黙れ!!」

 宝剣から雷が発せられマーシーの足元へと刺さりマーシーは後退を余儀なくされる。 

  (不可能、といわれてもな)

 オルドはサンドゥの刺突を避けながら思考を巡らせる。

 「所詮は妄想で出来た人形でしかない貴様が、神を殺すことなどできはしない!!」

 「ちょっとお前は黙れ」

 オルドはサンドゥに蹴りを叩きこんで屋上から弾き飛ばし、敵の群れに炎弾を叩きこみながらマーシーの傍へと立った。

 「不完全な不死を倒す手ってどういうのがあるんだよ?」

 「殺した状態を長時間保つ、消滅させる、不死の力の素を断つ、あとは使用限界まで使いきらせる……ぐらいね、すぐ思いつくのは」

 オルドは即座に判断。力の素を断つことは不可能と言うよりそれはないとした。自分が観戦するルーラーの立場だとしてそんな勝つのが確定している力など、興醒めもいいところだろう。そうなると残るは二つの手段、消滅させるか、殺した状態を保つこと。

 「話しは聞かせてもらったよ」

 いつ間にか背後にトラッパーがいる。

 「……軍勢の足留めできるか? あの馬鹿神と一対一にさえできればなんとかできるかもしれない」

 「任されたよ」

 トラッパーはどこからともなくナイフを取り出し投ぜられる、さらに取り出すのは。

 「おもちゃ……?」

 オルドは訝しげに見ているそれは鈍い黒の輝きを放つヨーヨーと呼ばれる玩具だ。掌の収まるそれを片手一つずつ飛ばす弧を描いて手へと収まると。獣人達が二つに裂かれる。

 「とんでもねえな、おい」

 仕込まれているのはヨーヨーの糸部分、その部分がするどい鋼線になっているらしくそれが敵を斬り裂いているようだ。さらにブーツにも鉄がしこんであるのか重い音が響き。道化の面がオルドへと向き、話しかける。

 「さあ、今のうちに」

 「ああ、頼んだぜ!!」

 これならば、とオルドはサンドゥを見据える。

 「……さあ、来いよ?」

 「無意味と絶望しかないという事を教えてやる」

 「はっ。死ぬたびに恥を上塗りしてるって気付けよ」

 再び鍔迫り合いになればサンドゥの足払いオルドが受けて態勢が崩れる。そこへと宝剣振りかぶり、オルドの首を取らんとする。

 ここでオルドは一つのイメージを一瞬で作る。

 「ここだ!!」

 前に倒れながらも貫き手に氷を纏わせ短槍が作り上げられる。そこからサンドゥの心臓を狙って貫く。

 「か、はぁ」

 「ちっ!!」

 舌を打って。オルドはそのまま振り下ろされる剣をオルドはかろうじてさけて距離を取る。

 手ごたえがなかった。

 間違いなく心臓を抉った筈だがそれがない。まるで肉で出来た人形かのようなそんな感覚を得た。

 (まさか……サンドゥの奴も)

 一つの考えがオルドの頭をよぎった。

 100年もの平和からの戦争、閉じてきた世界が戦いを起こす。それだけで神からしてみれば良い見せもの、だが、そこにオルドという妄想で出来た勇者に不死身の神との戦いが入るとなればそれはさぞかし、見ている者を楽しませるだろう。

 ――俺と同じ、道具にされてしまったってわけか。全てはルーラー達を楽しませる演出でしかない。

 知ったこっちゃない、とオルドは考えを切り捨てる、確信はない、そうだとしてもルーラーを憎んでもサンドゥに同情したところで何かが変わるわけでもない。やらなければやられる。

 向かってくるサンドゥの宝剣を受け止める。

 「お前、ルーラーの見せ者にされているのに気付いているか?」

 「くっくっ……ああ、知っているとも。だが、ルーラー様からの命令に一人のただの神である私に力が与えられるのだ。この力さえあれば他の神々と戦える――そうすればルーラーの座までいける」

 「ルーラーになってまでどうしたいんだ?」

 「決まっている! この地獄のゲームから抜けだし私を嘲笑った神々を見下す立場へと上がって私の力を示すのだ!」

 オルドはサンドゥから振るわれるもはや剣術とも呼べない振りまわされるだけの剣を避ける。

 「そのために我が身を化物に変えることなどなんだというのだ!」

 「ああ、そうかい」

 これでオルドは確信が持てた。

 サンドゥの神としてのプライドを利用してルーラーは自らが楽しむための舞台を作っていたのだと。そして、サンドゥは自らが玩具にされていてもなお、ルーラーとしての座を欲しいとあがいているのだ。


 

 オルドの思いが大きく膨れ上がるのをマーシーは感じとる。サンドゥとやりあっている。

 (何かあったのかしら?)

 疑問を感じながらもマーシーは錫杖を振るって目の前の獣人を屠っていく。

 マーシーの仕込み錫杖による攻撃が決まるたびに血によってその切れ味が落ちていくことになり向かってくる相手に対して決定打にならないそのため徐々にその数を増していっている。オルドがサンドゥの注意を引いているために"人形遣い"の能力は使われていないのが幸いだが、やはり、量を叩くには相性が悪いには違いない。

 「無理すんなって言ってんだろうに」

 重い銃声が響き砂塵が舞う。そこから姿を現すのは銀の逆十字の入ったコートをひるがえしてアレンドがやってくる。アサルトライフルを背中に担い、両手にはサブマシンガンを持っている。

 「一気に撃ち払わせてもらうぜ。雑魚ども、用意した弾丸もそろそろ尽きるんでな」

 両腕から暴風のように放たれる4.6mmの弾丸は獣人、竜人の頭や首を撃ち抜いていく。弾を使い切ればサブマシンガンを投げ捨て。オルドとの戦いで使った自動拳銃とリボルバー式の拳銃を構える。

 トラッパーの曲技が直感と華やかさによるものならば、アレンドのそれは攻撃の隙間をしっかり見て縫うように動く無駄の無い綺麗な動き対照的な堅実な動きだ。群がる敵をかいくぐりテンポよく銃声が響き渡る。

 「ったくさすがにしんどいな」

 アレンドは弾を撃ちつくすと懐へと銃をしまい背に担ったライフルの銃剣で戦いを続行。そこへとマーシーが駆け寄る。

 「なんでだろうな、絶望的な状況だが。負ける気が全然しないな」

 「自称勇者なのは確かだけど、その実力はここにいる誰よりも上だからね」

 「我らが勇者様が倒れた時が最後。でもって勝った時は」

 「最高のお酒を用意してあげるわ」

 「――そん時はウィスキーととびっきりの美女を所望するぜ。ちんちくりんな神様の晩酌じゃなくてな」

 「後で覚えてなさいよ、アレンド」

 戦いは終局へと向かっている。三人はそう、感じながらオルドが決着をつけるのを待つ。

 

 

   

 オルドは幾度となく幾度となくサンドゥの攻撃を捌く。もはやサンドゥは理性の無い目の前の目標を殺すだけの人形。ルーラーに利用されているだけの自分と同じ人形。

 (いや、俺は違う)

 サンドゥの四肢を斬り裂き、首を刎ね、生命を幾度となく断つと叫びを上げて、理性を失くして斬りかかってくる。ルーラーの座を得たいがために向けられるがむしゃらに振るわれる剣はただ、ただルーラーになりたいという意志のみだ。

 「すぐ、楽にしてやるよ」

 思うところがないわけではない。だが、やらなければやれるのは自分。何よりも子どもの様な神様にクールなガンマン、怪しいが優しい道化の仮面の男、気のいいと世界の人々。そして小さくも美しい世界がある。

 それを守るのが自称勇者たる自分の役目であり、選んだ道だ。

 「我が世界の下僕どもよ我に力を、もっと力を寄越せぇぇぇぇ!!」

 血走った目、獣じみた声をあげてサンドゥは信仰による力を集めようとする。その事でさらに一撃は重みを増した。

 「ったく。勇者ってのは大変だな!!」

 言いながら声をあげてサンドゥの宝剣を叩き折り、返す刃で胴体を再び真っ二つにする。それだけならばサンドゥは再生する事は知っている。

 オルドがイメージするのは先ほどの流星を落としだ。

 「悪いがお前の夢を潰させてもらうぜ!! それでこの下らない舞台は終わりだ!!」

 その力を剣に収束させてこの場で放つ。それだけの力を至近距離で叩きつければ再生する体一つ残さず蒸発させることだろう、無論、オルドもただでは済まない。だが、オルドは決して躊躇わない。その先には自らの守るべき世界がある。

 「爆ぜろ、流星!!」

 極大の光を纏った剣をサンドゥを正面から振りおろし地面を焼き、周囲を光の柱に包みこむ消滅させて空へと柱は登る。と校庭一面に光の雨が降り注ぐ。

 そこまで見て、オルドは己を焼く感覚に意識を手放した。


 

まばゆいばかりの光の柱がオルド達の戦っている方角から発せられるのをマーシーは目にする、その光に全員が動きを止める。

 「オルド!!」

 叫ぶが返す声はない。そうして光が収まる、そこにはサンドゥの姿はなく。オルドの両膝をついて意識を失っていた。

 ――決着がついたのだ。

 そこで天から響く声がある。

 『神、サンドゥは死亡。よってこのゲーム、マーシーの勝利とする』

 ルーラーからの勝利宣言がなされると獣人、竜人達が一斉に自らの世界へと撤退を始める中、マーシーがオルドへと駆けよる。

 「……オルド、生きてる?」

 返事はないが。浅く呼吸はしている。生きている。その事に安堵の吐息をマーシーはついた。

 「ありがとう、あなたは、今この時、勇者になったわ」

 聞こえてはいないだろうが礼の言葉を言った。戦いを終えるかのように学院の正午のチャイムが響き渡った。

 ――学院世界がサンドゥの世界を打ち勝ったのだ。

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