インターミッション

翌日、学院の会議室へと主要なメンバーが集められる。円卓の正面にマーシー。そしてオルド、アレンド、トラッパー、商店街の組長、学院の校長や教頭というメンバーだ。

 重苦しい雰囲気。皆、マーシーの言葉を待っている。時計が九時を示し、チャイムが鳴り響く。そしてチャイムの音が止めばマーシーが口を開いた。

 「知っての通り。この世界はサンドゥとの戦いを二日前に控えているわ」

 中央の円卓にこの世界の立体が映し出される。

 「敵の戦略は分かりやすく人の形を持った動物。獣人や竜人と呼ばれる種族による力押し数任せ……単純ではあるけど理には叶ってるわ」

 話しつつ、マーシーが錫杖を鳴らすと立体模型に進行してくるポイントと思われる赤い光点が現れる。

 「幸か不幸かサンドゥの狙いは私とこの世界。むやみにやたりに世界に対して攻撃する事はないとは思うわ、各地を攻撃しつつ中央通りを通って真っ直ぐに突っ込んでくる筈」

 「そう簡単にいくものなのか?」

 禿頭の商店会会長の疑問の言葉にマーシーは視線をトラッパーへと向ける。

 「そこでトラッパーの罠による誘導をかけます。中央通り以外の罠を多く仕掛け、中央通りを通らざるを得ないようにします。商店街の人達はトラッパーと協力して学院へと敵を誘導してください。私も囮として中央通りで待ち構えれば敵も集中するでしょう」

 「罠だと分かっていても踏み込みざるを得ない状況にするわけだ」

 「だが、それでは中央通りを突破されれば学院に敵が集中するだろう? 凌ぎ切れるかどうか……また召喚する訳にはいかないのか?」

 壮年の教頭が不安そうに頭を抱えると。マーシーはごめんなさいと頭を下げて。

 「今から虚構世界への干渉しても召喚がうまくいくとは限らない上に戦争開始までに私が回復できないから無理、ね」

 「戦力がいまいち心もとないが……」

 「そこは我らが世界最強の三人の力でどうにかしてもらうわ」

 「重い肩書きだな、おい」

 言いながらアレンドは灰皿に煙草をおしつけて話を続ける。

 「だが、事実。圧倒的物量の前には如何に強いやつがいたとしても押し切られるぞ」

 「私が前に出ればサンドゥは前に出てくる筈、そこを皆で討ってもらうわ」

 「そうならなかった場合は?」

 「徹底的に煽る。所詮は獣を操るだけの神か、前に出る度胸すらないと。思いつく限り言っていいわ。それでダメなら諦めて皆で世界を滅ぶというわけね」

 「とんでもねえ作戦だな」

 商店街の組長や教頭の顔が蒼白になる中アレンドが笑いをこらえながら言うと了解だ、と手をあげた。

 そんな中、オルドは立ち上がり。

 「思ったんだが。こっちから殴りこみとか、かけられねえのか? 最大戦力でのりこんで神をぶっつぶす、それができれば被害は最小限にできるだろ」

 オルドの言葉にマーシーは首を横に振った。

 「向こうの世界へと渡ること自体は不可能ではないわ、ただそうなれば多くの兵を相手にする事になる。あちらの神の世界にいる以上数と地の利のあるあそこで戦うのは得策とは思えません」

 「忍びこむとか――」

 「それも難しいですね。私の能力じゃ小手先の隠蔽の力ではサンドゥを欺けるか微妙なところです」

 そうなると、学院世界で戦わざるを得ない。分かり切っていたその答えに空気が重くなる。

 「そう、構えるなよ。こっちには罠を仕掛けるプロのトラッパー、勇者オルド様がいるんだぜ?」

 アレンドに名を出されればオルドはとんと自らの胸を叩いて。

 「勇者の名に賭けてこの世界を絶対に救う、だから。皆やってやろうぜ? この世界、絶対に渡したくないんだろ?」

 会議室にオルドに問いかけの声が響く。

 「や、やってやるぞ。まだ店も妻もいるんだ、負けてたまるものか!」

 「そうだそうだ。子ども達もいる……私達がやらなくては!!」

 オルドの言葉に応じるように周りの大人達が声をあげた。

 「これが大まかな内容。各自、まだまだやることはたくさんあるけれど、がんばっていきましょう!!」

 

 

 数時間を経て、会議を終える。会議室にマーシーとオルドが残される。

 ――とりあえず戦いにはなる。

 会議の手応えからマーシーはそう感じるとやはりオルドが加わったことで勢いづいている。彼の持つカリスマ故のことかもしれないが。

 こちらと相手の戦力差は数の比率も質も見れば圧倒的に不利な事には変わりはない。

 戦いがはじまるその時まで、知恵を絞らなくてはいけない。

 「約37時間後には戦いが始まる」

 自然と今、マーシーは戦いに関しての緊張はない。やれるだけのことをやれなければ死ぬ。

 その前にオルド、彼の記憶について告げるか否か。

 ――彼には知る権利がある。

 だが、知ってしまえば戦えるだろうか。彼が抜ければ間違いなく戦いでは勝てない。

 「眉間にしわ寄ってんぜ。マーシー」

 「……ええ。ちょっと」

 告げられずにいる、考えて。

 「勇者である事に何故そこまでこだわるの?」

 「何故ってそりゃあな」

 オルドは宙を見て考えて。

 「そうあるように育てられたから、だな」

 育てられた彼はそう、認識しているのだろう。

 「だから、困っている人を助けるし、悪人を倒す。辛くない?」

 「そりゃあ面倒だなとは思うぜ? けどな。ほっとく方が気持ち悪いんだ」

 「気持ち悪い?」

 「困っている人を放っておけば、助ければどうにかなったのかなって考えもする。悪人放っておけば好き勝手やっててふざけんなって思うし何より―」

 ぐぐっとオルドは拳は握って。

 「これだけの力を振るえる機会を逃すのがもったいないだろうが」

 マーシーは肩を落とす。

 「いや、まあどっちも分かるけども勇者としてどうなのよ、それ」

 「結果的には困っている人は助かっているからいいだろ……今回の一件で街の一部が吹っ飛ぶかもしれないけども」

 問題ないだろうとオルドは胸を張る中、マーシーは表情に出さないように心中で戸惑う。

 ――真実を話しても大丈夫か。

 一見大丈夫なように見えるが駒の心中まではマーシーの力では見る事は出来ない。

 「街を吹っ飛ばすのは勘弁してね。直せないことはないけども疲れるんだから……私はこれから各所を周るけど。オルドはどうする?」

 「そうだな、とりあえずガキどもの相手でもするかな」

 「子どもの? なんでまた」

 「念のためな、今回戦いに参加しないとはいえ参加したいやつらもいるだろうからそいつらの憂さ晴らしでもしてやろうかと。放送室借りるぞ」

 やはり、そうなるのかとマーシーは心の中でため息をついた。

 少年少女とて鍛えてやれば十分に戦える。極力相手の情報が分かるまでは戦わない方向で行きたかったが敵の情報を得た今、それは難しいことがオルドにも分かったのだろう。

 「程々にね」

 わざわざ今、オルドの記憶について話して、不安を抱かせるようなこともないだろうとマーシーは判断して街へと歩を進めた。

 ――彼は都合の良い駒でいてもらわなければ困るのだから。

 そうマーシーは自らに言い聞かせていると昼休みを終える鐘が鳴り響いた。



日が沈みかけた校庭には赤の光が差している。 

「お―やる気満々だな」

 放送室で「放課後、勇者オルドに挑まんとする若者はいないか」と呼びかけをしたところ校庭に集まった面々を見る、小学生から高校生まで皆集まってきている。恰好も様々で制服の物や野球のユニフォームを着た者、剣道着、空手や柔道の稽古着で来るものと様々だ。ざわつく生徒達の話を聞こえる限りだと目的は興味本位、憂さ晴らし、これからの戦いに参加したいとモノ申したいと様々だ。

 「とりあえず……静かにしろ!」

 オルドが声を張ればしん、と静まり返り皆がオルドへと視線を向けて続く言葉を待っている。オルドは咳払いを一つして。

 「さっき、放送室で話した通りだ。俺と戦いたいやつ、そして今回の神との戦争に戦いたいやつらが校庭に集まっているな。ルールは簡単だ」

 オルドは腰からセブンスススターを地面に突き刺す。日の光に照らされて反射し虹色の光を発するそれに背を向けた。

 「十五分間で素手の俺相手に有効な一撃を入れられるかどうかだ。どんな手を使ってもいい。武器も好きな物を持ってきている筈だよな?」

 言葉を確認するように聞くと何人かがバットや竹刀、箒を掲げて生徒は答える。

 「出来たやつはそうだな。今回の戦いに参加できるかどうか直にマーシーに相談してやるでもって俺の下で戦ってもらう」

 生徒たちのざわつきが大きくなっていく。聞こえる声はどうする? という周囲に問いかける声やよし、と意気込む声、そこまでは――という戸惑いの声だ

 今回のサンドゥとの戦い、不安な要因は数だ。直接戦うにせよ仕掛けるにせよ、準備にせよ、それを補う戦力を少しでもこの中から見つける事が出来れば多少なりともその要因を取り除くことが出来る。加えて、学生たちに活気をつけさせることで世界全体の士気を高めるのがオルドの狙いだ。もっとも、暇つぶしと言う狙いの次のものではあるのだが。

 「別に当てられたからといって必ず戦争に参加してもらう訳じゃない。興味本位、好奇心、友達づきあいで来たやつもいるだろうからな……じゃあ。はじめ!」

 オルドの開始の言葉に一斉に生徒達が襲いかかってくる。

 覇気が最初は小さく徐々に大きくなっていく、最初に飛んでくるのは様々な球だ。野球、バスケット、サッカー部にテニス部による攻撃。そのほとんどは急所を狙っていない当てる事を目的としているのと人に対してぶつけるという行為そのものに慣れていないのだろうとオルドは判断して最小の動きで避けて、必要なものは拳で叩きつけて落としていく。

 その間に武器を持った生徒達が距離を詰めてくる。

 成程、と恭二は理解する。ここまでの準備時間で大まかな戦略を練ってきたのだろう。遠距離による一斉射撃からの近接は理にはかなっている。

 土煙をあげてやってくる生徒達はやる気に満ちている、我先にとオルドを討ちとらんとしている。

 ――勢いだけで勝てると思っている。

 まずは気勢を削いでどこまでやれるか見ようと判断すればオルドは向かってくる一人に狙いを定めて構える。

 「いっておくが――」

 正面からバットを振りかぶる野球部員に対して顔面に掌底を叩きつけて弾き飛ばすと一度背中からバウンドして二回三回と回転して止まると、辺りが騒然とする。

 「反撃しねえとはいってねえぞ?」

 にやりとオルドが笑う。

 生徒達は見て分かるほどの動揺や驚き、恐怖を顔に浮かべて音がなくなる。そんな中、投じられた野球ボールを首の動きだけでオルドは避けた。

 「思いっきりがいいな、甲斐!」

 「やらなきゃやられるぜ! みんな!! やれるだけやっちまおう!!」

 甲斐の声に押されるかのように再び生徒が動揺しつつも攻撃を再開する。陣形としては囲んでの武器による刺突だ。決して一人でかからず確実に抑える良い手だ、と感じながらオルドはバットによる突きを避けて脇に挟み野球部員ごと振りまわして薙ぎ払い投げ飛ばす。

 「おらぁ!! どうした!! 敵はこれぐらいのことはやってくるぞ!!」

 オルドが一喝すると怯む者も出るが攻撃の手は緩めない。小さな玉がとんでくるのをオルドは肩当てで受けつつ走り抜ける。

 「エアガンとかガスガンとかいうやつか」

 知識としては知っているがオルドは初見のそれをオルドは回避する。人によっては怪我をするし当たりどころによっては怯ませることぐらいなの事は出来るだろう。今回の戦争にも十分強化すれば牽制に使えるかもしれない。

 オルドは思考しつつ側転しながら地面に落ちているボールを拾うと投げ返してエアガンをもつ生徒群への反撃とする。

 「そらぁ、どうしたどうしたぁ!!」

 様々な武器で攻撃してくる生徒達をいなし、捌き、あるいは突き飛ばしながらオルドは戦える生徒を選定していく、十分もたつと立っている生徒は片手で数えられるくらいのものだ。そしてその全てを叩きつぶす。その強さを持って士気を砕いたつもりだったが。

 「残りは後衛だけか……やってくれるじゃねえか」

 前衛が全滅する。その事で生まれる状況は再び包囲射撃が出来る状態になるということだ。半円状に包囲を展開した生徒達は一斉に新たなボールやエアガン、ガスガンの攻撃に加え、弓道部の弓による射撃が加わる。疲弊させたからの波状攻撃、作戦の立て方としては立派なものだ。

 学生たちの士気は落ちない、ここまでは想定はしていたのだろう。あの勢いのある前衛はこのための囮。

 「だからといって、くらってやるわけにはいかねえがな」

 せーの、の声で最初より数倍の数を持つ一斉射撃が放たれる。

 回避して有効打をさけるがやはり限界はある。何発かを受けてオルドは顔をしかめる。そして畳みかけるように倒れ伏していた何人かが武器を片手に立ちあがり向かってくる、奇襲に次ぐ、奇襲。絶えず攻撃を続けていく作戦だ、さらにじりじりと倒れ伏しながらも近づいて気を窺う者達もいる。即座にオルドは大跳躍を選択。生徒達の包囲を飛び越えて後衛の生徒を叩きつぶしにかかる。

 「おい来たぞ!? どうすんだよ!?」

 「構うな味方ごと撃ってもいいから当てろ!!」

 「さがって態勢を直した方が――」

 「いいから撃て!! 来るぞ!!」

 突然の動きに後衛は戸惑っているそんな中でも容赦なくオルドは拳でたたきつぶしていく生徒達は同士討ちを恐れて反撃ができないでいる。そうして十四分が経つ頃には既に生徒の中で立っている者は一人だけになった。

 「しぶといな。甲斐」

 「それだけが取り柄なもんで」

 金属バットを杖代わりにはしているが確かに立っているかと思えばすっと普通に立ちあがり構えた。

 ――そう、これまでこの生徒を統率し果敢に攻め立てていたのは甲斐の声援と指揮によるものだ。

 勢いづけようとしつつ決して自分は前に出ずに冷静に戦い人を動かす、天性によるものか自身の考えかは分からないがくわせものだなとオルドは認識し拳を構えてむかっていく、正面から。

 左からの拳が来ると同時にそれを迎え打とうと鉄バットのスイング。ぶつかると同時、鉄バットがひしゃげて吹き飛ばされる。

 「一発で楽にしてやらぁ!!」

 オルドの左の拳は武器を弾くための一撃、右の拳こそが本命の一撃を見舞う。

 拳による一撃は甲斐の胴に突き刺さって甲斐は俯いて決着、かに見えた。

 「っ!!? この野郎……」

 地面へと甲斐を叩きつけるとオルドは腕を押さえる、そこには真新しい歯型がある。拳を受けながらも渾身の力で噛みついたのだ。

 「やってくれるじゃねえか」

 見下ろし倒れている甲斐の顔はやりきった満足の表情だ。

 ――この世界の子ども達は強い。

 「よく戦ったなお前ら!! ちゃんとマーシーには伝えてやっからしっかり休んで帰れよ」

 そう告げると腕をあげるもの、力を振り絞って声を出して返事をするものとそれぞれ反応を返し。戦士の選定を終えた。

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