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「あそこに盗聴器があったのか。どういったタイプの?」


――と、ハートさんの質問が始まってから、(しまった!)と思った。

 先ほどの通話がバンの車内にになったことを、無意識に。一昨日発見したアレ……目隠し板の裏側へ落っこちていた残骸と、結び付けていたために。暗にクルーザ氏へ、「盗聴はもう止めて!」と要求した感じになってしまった。あわわ……


「……ええと、それは。僕が?と、思っているだけなんです。」

「内装を剥がす作業をしていたのは昨日だったと思うが。確か、君は来ていなかったと……?」


 内装を剥がすときに発見した……と受け取られたようで、不思議そうに言われるのも無理はない。


「はい、その前日に……ですね。すでに内装が一部破損していまして、その中から怪しげな電子部品が――」


 仕方がなく……というか。自分から言い出したことなので、の見たままを正直にお話しした。一方で、ガラスドアの鉄枠に不審な点があったことは……頭からすっぽり抜け落ちていたのだが。ハートさんが次のように言ったことで、の記憶も蘇った。


「すると。電池もなく、誘導電流だけで……中継器もなしに?」


 これで、芋づる式に。パーキングに転がっていた、ボタン電池の感触まで思い出した。目隠し板の穴は「販促くん」で蓋をされた状態だったから、そこから外れたものとは思えない。となると、ドアの下にくっついていたほうが「中継器」だったのか……屋内のバグから受信して、屋外に送信するための……?


「見つかったのは、鉄筋コンクリートの屋内ですか……おそらく、どこかに中継器があるのでしょうが。あの方が関与しているとは考え難いですね。」

「そうだな、後に残るようなものは避けたいはず。」

「……。」


 そういわれれば。先ほどの狙撃者が、ずっと僕を盗聴していたとしてもおかしくない……のか。てっきり僕は――


「わたしどものクライアントも同様です。も、盗聴器を使ってはおりません。携帯セルラーを調べても、何も出てきませんよ。」


――うわ! やっぱり、そう思われてた……って、「盗聴器じゃない」ですと??


「ふむ、この背後は見ない方がよさそうだ。」

「余計なことを言いました……忘れて下さい。」


 しかし、僕は。シートバックの後方から上がっていた、放熱ファンらしき唸り声が――通話が切れた後は、クルーザ氏の操作で急に静かになったこと。そして、携帯電話の通信を傍受できるといわれている手法――中間者攻撃man in the middle――を、思い出してしまい。一体どんな装置が?……などと、後ろを振り返ったりしないように。『く・び・を・ま・わ・す・な……!』と、自分に言い聞かせ続けていた。


「そうすると、何処だろう。心当たりはあるのか?」


 なので、何だか……相変わらず、屈託なく尋ねてくるハートさんに申し訳ない気がして。そこで、また僕は——


「いえ……今のお話で無くなりました。たとえ……偽基地局fake cell towerを設けていたとしても、あそこでは。モバイルフォンの使用を一切禁じていたので、意味がなかったでしょう。皆さんを疑うようなことを言って、申し訳ありません……。」

偽基地局fake cell towerとは、申し上げていませんが。」


――と、クルーザ氏から。冷たく返されるほど、明らかに余計な事を言ってしまっていた。うう、ああ、もう!!……などと、頭の中でいた僕に比べて。さすがというか、ハートさんは(こういった)面倒をに受け止めず。微妙に脱臼させて、クルーザ氏の注意を……上手く(僕のことから)逸らせていった。


「そうだな。盗聴は気になるが、おそらくノヴァルさんの問題だろう。君がやってのけた、思う存分に本音を叫ばせてあげたこと……が、駄目になる訳じゃないよ。」

「ええ……はい。」

「そろそろ着きます。」


(あれ。そう言えば、どこへ向かっているので?)


 そう尋ねる前に、バンが横道へと入っていった。

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