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「切れた?」
「ええ。」
「最後のほうで、猟銃……とか言っていたが?」
ハートさんの疑問は、もっともだ————僕は、運転中のクルーザ氏が。無言のまま右手で、
『それより……お伺いしたいのですが。その事故の件で。ロー・ファームへ抗議しに来られたことはありませんか? 二連発の猟銃をお持ちになって……』
電話の向こうが言い立てる こと――「
「珍しいですね。」
突然、前席の沈黙が解け。ハートさんの関心も、クルーザ氏に向けられた。
「何がです?」
「どなたに対しても、最低限の礼儀は守られる方ですから。」
僕は目を剥いた。あれで礼儀を守っていた、と?
「それはつまり、無言で電話を切るような真似はしない……と?」
「ええ。寧ろ……妙な事を言ったりすれば、質問の嵐で返されるのが通常です。」
「ふぅむ、つまり……?」
え。なんだろう、この流れは。クルーザ氏の言いたいのは……まさか、図星だったと?
「あの方が身内の訴訟を止めさせた、という話は聞いていました。まさか……その相手がノヴァルだったとは思いませんでしたが。」
「礼儀正しく猟銃を下げて、ローヤーのところに?」
ハート氏がそう言った途端、奇妙な振動が発せられた。不調になった機械が出すように金属的なそれが――すぐ止んでから、クルーザ氏の笑い声だったのか……と、気付くのに5秒ほどかかった。
「失礼……すごくらしいな、と。」
「知っていたのか、君は?」
ハートさんの質問は……僕へ投げたもので、実にいいタイミングだった。
「僕たち……
「ああいった方ですから、いろいろ逸話はあります。」
「んん、そうだな……」
ふふっ、この二人……
「では、これからも付き纏われることになるのでしょうね。悲しいことですが……」
それで一瞬だけ。二人の探偵(?)の間で、探り合うような空気が生じたが。すぐ――
「いや、その心配はないだろう。曲がりなりにも、君と話すことが目的だったのだ。」
「ええ……それに。あの方に協力して、マットロウさんに手を出そうという者はいないでしょう。クライアントもそれをお望みですし。」
――断言してくれたので。僕は、少し気が緩んだのか。
「それでは、盗聴のほうも今日が最後ですね……事務所のバグは、僕が外しましたが。」
思わず。
そんなことを言ってしまっていた。
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