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「切れた?」

「ええ。」

「最後のほうで、猟銃……とか言っていたが?」


 ハートさんの疑問は、だ————僕は、運転中のクルーザ氏が。無言のまま右手で、空調エアコンパネルの下に集合する……謎のスイッチ群を操作するのを見ながら。背後で唸るファンの音が、急に静かになるのを聴きながら————いったい、何と答えたものか迷っていた。


『それより……お伺いしたいのですが。その事故の件で。ロー・ファームへ抗議しに来られたことはありませんか? をお持ちになって……』


 電話の向こうが言い立てる ――「意図せざる加速事故U.A. Incident」に遭った親類が人身傷害personal injuryでノヴァルを訴えようとしたので、という――が、頭の中で突然。「猟銃事件」と繋がって、深く考える間もなく口に出たのだと。一から説明するのに何分かかるだろうか? うーむ…………と、そのとき。


「珍しいですね。」


 突然、前席の沈黙が解け。ハートさんの関心も、クルーザ氏に向けられた。


「何がです?」

「どなたに対しても、最低限の礼儀は守られる方ですから。」


 僕は目を剥いた。で礼儀を守っていた、と?


「それはつまり、無言で電話を切るような真似はしない……と?」

「ええ。寧ろ……妙な事を言ったりすれば、質問の嵐で返されるのが通常です。」

「ふぅむ、つまり……?」


 え。なんだろう、この流れは。クルーザ氏の言いたいのは……まさか、と?


「あの方が身内の訴訟を止めさせた、という話は聞いていました。まさか……その相手がノヴァルだったとは思いませんでしたが。」

「礼儀正しく猟銃を下げて、ローヤーのところに?」


 ハート氏がそう言った途端、奇妙な振動が発せられた。不調になった機械が出すように金属的なが――すぐ止んでから、クルーザ氏の笑い声だったのか……と、気付くのに5秒ほどかかった。


「失礼……すごくな、と。」

「知っていたのか、君は?」


 ハートさんの質問は……僕へ投げたもので、実にタイミングだった。


「僕たち……事務所D&Dにとって、都市伝説みたいになってる話です。あぁ、もちろん。誰が何処で?とかは……全然不明のまま、流布していたので。」

「ああいった方ですから、逸話はあります。」

「んん、そうだな……」


 ふふっ、この二人……身内ロージーが撃退したと言ったら、どんな反応が出るだろうか? 発砲されたのに、丸腰で立ち回ったのですよ!……って。まあ僕が見たわけじゃないし、そんな無茶振りはしないから。実際に窺えないのは残念だけど……ともあれ。僕が、電話の向こうから色々引っ張り出して。クルーザ氏が喋りだしたことで――相変わらず顔は見えないとはいえ。車内の空気は、打ち解けた、和やかなものになっていた。多分それで……僕の口からも、率直な一言が漏れてきて。


「では、これからも付き纏われることになるのでしょうね。悲しいことですが……」


 それで一瞬だけ。二人の探偵(?)の間で、探り合うような空気が生じたが。すぐ――


「いや、その心配はないだろう。曲がりなりにも、君と話すことが目的だったのだ。」

「ええ……それに。あの方に協力して、マットロウさんに手を出そうという者はいないでしょう。クライアントもそれをお望みですし。」


――断言してくれたので。僕は、少し気が緩んだのか。


「それでは、のほうも今日が最後ですね……事務所のバグは、僕が外しましたが。」


 思わず。

 を言ってしまっていた。

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