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 だって?

 この方の係累へ傷害を負わすために、存在するかもわからない欠陥の情報を得る目的で。あえて僕がノヴァルに職を得たのだと。そこまで主張する必要があるのに――?


「本気で言っているのですか? 僕が、そんな……」

『それを『それを言いたいのはだよ。よりにもよってノヴァルに……か? いったい、私たちが何をしたというのだ?』のだ?』


 は、話が通じない!……という至極当然の印象とは別に、奇妙な違和感があった。


「……よりにもよって?」


 ――と、ほら。ハートさんの口からも、そのフレーズが疑問符付きで出る位なのだ。何が「よりにもよって」なのだろう?

 とはいえ、どういう事か答えさせる問いを考えている余裕はなかった。直ちに、言い返えさねば……と、思って。


「僕が利用exploitしたとおっしゃるなら。問題が起きたお車に、そのような欠陥があることを証明されてからでは如何ですか? ノヴァルも訴えられたらいいですよ。優秀な方々が沢山おられるのでしょう?」


 なるべく上品に言いながら。第二あそこを畳む直前に、ハバリさんを訴える選択をして自分に感謝していた。裁判を起こせば、訴状から何まで、間違いなくフォローされることになったに違いない。そこで僕は、ハバリさんが「シェヴラテインの欠陥を利用して暴走させた」のだ……と主張して、その方法や原理の仮説まで示すことになった筈だ。そんなことをしていれば、この方の疑念は……根拠を得た、完全な思い込みとなって。さらに手が付けられなくなっていた筈である。そう考えて冷や汗が出た。ひいぃ!危なかったぁ……と、心から思った。

 そういった危機一髪な心地は、しかし。次の反応で、いっぺんに吹き飛んでしまった。


『欠陥『欠陥の立証など。わたしの立場で、わけないだろう? そんなことは、止めさせるだけだ。』けだ。』


 ――は?……止めさせる?


 意外な抗議に、驚いて固まっていると。シートベルト警告のチャイムが鳴り。ハートさんの手が伸びてきて、携帯セルラーのマイクを塞いだ。 


「思い出した。M州に、ノヴァルの自動車組立工場を誘致した件を。知っているだろう?」

「ええ……」


 たしか――金融危機の影響で、立ち上げが止まっていたが。第二を立ち上げた直後ぐらいに、キャレッタの生産を開始した――と聞いていた。


「……それが?」

の実現には、この方も尽力されていた。」


 へっ?と、目を丸くする僕を置いたまま。ハートさんは携帯を解放して。左側の席へと戻っていった後、左手を口髭の横に添えて。こう囁かれた。


「それだけだよ。」

「はあ……。」


 ノヴァルの工場誘致へ尽力された方――か。

 つまり。うーん、あちらにしてみれば……ノヴァルを訴えたり、評判を落とすことができない立場を、まんまと僕に利用されてしまった……ということなのか。うへぇ……


『だ『だんまりか。申し開きもないのか?』?』


 明快に僕を敵視する――声の正体は、相変わらず不明のまま……なのだが。以前のように、連邦警察だと思い込んで。クルーザ氏の影におびえていた頃の、暗い靄のような恐怖は……意外にも。随分と薄れ、小さくなっていた――ので。落ち着いて、真正面から。な反応を返すことができた。


「今。ノヴァルのため、貴方がM工場の誘致に尽力されていた……と、伺っていたのです。」

『『ふぅん。』』

「正直。そういった方と、争いたくはないですね。」

『『……。』』


 そうしてまた、あの空気……呆れたような、こちらを馬鹿にするような気配を漂わせてきた。この方にしてみれば、僕が……自分たちをに合わせた動機――恨みか何か――を仄めかすこともせず、を切りとおした(と思い込んでいる)以上。何があっても、決して許さないと――強調しておきたいのだろう。フゥーッ。あぁもう、知らんわ。そんなの! 大体、どう考えても……これ以上。僕の方で付き合ってあげる筋合いなどない。だから、言い放って差し上げた。


「それより……お伺いしたいのですが。その事故の件で。ロー・ファームへ抗議しに来られたことはありませんか? をお持ちになって……」


 短い唸り声の後。風を切るような音がして、通話が切れた。

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