75
当然だって?
この方の係累へ傷害を負わすために、存在するかもわからない欠陥の情報を得る目的で。あえて僕がノヴァルに職を得たのだと。そこまで主張する必要があるのに――?
「本気で言っているのですか? 僕が、そんな……」
『それを『それを言いたいのはこちらだよ。よりにもよってノヴァルに……か? いったい、私たちが何をしたというのだ?』のだ?』
は、話が通じない!……という至極当然の印象とは別に、奇妙な違和感があった。
「……よりにもよって?」
――と、ほら。ハートさんの口からも、そのフレーズが疑問符付きで出る位なのだ。何が「よりにもよって」なのだろう?
とはいえ、どういう事か答えさせる問いを考えている余裕はなかった。直ちに、何か言い返えさねば……と、思って。
「僕が
なるべく上品に言いながら。
そういった危機一髪な心地は、しかし。次の反応で、いっぺんに吹き飛んでしまった。
『欠陥『欠陥の立証など。わたしの立場で、できるわけないだろう? そんなことは、止めさせるだけだ。』けだ。』
――は?……止めさせる?
意外な抗議に、驚いて固まっていると。シートベルト警告のチャイムが鳴り。ハートさんの手が伸びてきて、
「思い出した。M州に、ノヴァルの自動車組立工場を誘致した件を。知っているだろう?」
「ええ……」
たしか――金融危機の影響で、立ち上げが止まっていたが。第二を立ち上げた直後ぐらいに、キャレッタの生産を開始した――と聞いていた。
「……それが?」
「あれの実現には、この方も尽力されていた。」
へっ?と、目を丸くする僕を置いたまま。ハートさんは携帯を解放して。左側の席へと戻っていった後、左手を口髭の横に添えて。こう囁かれた。
「それだけだよ。」
「はあ……。」
ノヴァルの工場誘致へ尽力された方――か。
つまり。うーん、あちらにしてみれば……ノヴァルを訴えたり、評判を落とすことができない立場を、まんまと僕に利用されてしまった……ということなのか。うへぇ……
『だ『だんまりか。申し開きもないのか?』?』
明快に僕を敵視する――声の正体は、相変わらず不明のまま……なのだが。以前のように、連邦警察だと思い込んで。クルーザ氏の影におびえていた頃の、暗い靄のような恐怖は……意外にも。随分と薄れ、小さくなっていた――ので。落ち着いて、真正面から。まともな反応を返すことができた。
「今。ノヴァルのため、貴方がM工場の誘致に尽力されていた……と、伺っていたのです。」
『『ふぅん。』』
「正直。そういった方と、争いたくはないですね。」
『『……。』』
そうしてまた、あの空気……呆れたような、こちらを馬鹿にするような気配を漂わせてきた。この方にしてみれば、僕が……自分たちをこんな目に合わせた動機――恨みか何か――を仄めかすこともせず、しらを切りとおした(と思い込んでいる)以上。何があっても、決して許さないと――強調しておきたいのだろう。フゥーッ。あぁもう、知らんわ。そんなの! 大体、どう考えても……これ以上。僕の方で付き合ってあげる筋合いなどない。だから、こう言い放って差し上げた。
「それより……お伺いしたいのですが。その事故の件で。ロー・ファームへ抗議しに来られたことはありませんか? 二連発の猟銃をお持ちになって……」
短い唸り声の後。風を切るような音がして、通話が切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。