LET ME KNOW きかせて……

78

 だいぶ傾いた日差しの中、黄色く立ち枯れした雑草――といっても、人の背丈ぐらいもある奴ら――の間を縫うようにして。舗装のひび割れに揺すられながら、ノロノロ進むミニバン……が、目指しているのは何処だろう? もはや、車や人にも行き会わず、建物すらもまばらであり。カフェやレストランなど、到底あるとは思えなかった。

 だからであろう、運転するクルーザ氏が尋ねたのは。


「帰りはどうされるのですか、ハートさん。」

「適当に車を呼ぶよ。」


 それで僕が、(おっ? では……クルーザ氏のほうの、アジトか何か?)――とばかりにキョロキョロしていたからか。ハート氏も(おや?)という表情になって。


「もしかして、来るのは初めてだったか?」

「ええ。」


 何で、知ってるよね……という雰囲気なんだろうか。


「見えてきました、あれですか?」


 クルーザ氏の言う方向を眺めると、丘の裾を削り取って作ったような区画で。黒々とした山林を背に、全く同じ形状のフラットが四軒、いかにも適当な感じに並べられていた。ハートさんが頷いて、シートベルトを外しながら――


「この奥は……丘を抜ける道はないから、引き返してくれ。」

「わかりました。」


 ――と、クルーザ氏に伝えているうちに。四軒目……つまり一番奥のフラットが、車体左側の窓から見えるようになってきて。そのままミニバンが停止すると、直ちにハートさんはドアを押し開き、スライド用のモーターが唸り始めるのが聞こえてきた。

 その向こうに見える……建屋のエントランスは、若干上ったところにあるが。そこまでがというか――なさげな芝生になっており。いちおう雑草は抜いてるようだが、それ以上丁寧に手を入れている感じがなく。建物のほうも……古くはないが、新築という程でもなく。青っぽい灰色の屋根や、白い壁材にも――どこか規格品じみた安っぽさが漂っていた。


(いままでの三軒はともかく、は人っ気があるな。全く同じ郵便受けメールボックスに、骨組みだけのガーデンアーチ。何にも飾ってないし……鉢植えすらないけど)


 躊躇なく降車して、僕の座る側に回ってきたハートさんは……明らかにを、よく知っている様子だ。


「……で、どこなんです?」

「此処なんだが、知らなかったか?」


 そう言いながら。ハートさんが差し出すスマートフォンの画面はかなり小さく、表示されている地図が。どの辺りかを掴むのに数秒かかった。


「ああ。僕の住まいは、この丘の向こうですね……といっても、かなりあるようですが」

「ふむ。まあ最近はかもしれないな……」


 ——と。謎めいたことを言いながら、手招きしたので。僕もシートベルトを外し、ドアを開け、荒れた路面に降り立って。ハートさんに促されるまま、途中までスライドドアを戻すと。ミニバンは「右ドアの閉鎖が完了していません」と電子音声を発しながら、ゆっくり進み始め。行き止まりにある、来客用っぽい駐車スペースへ入れるのかな?……と、思ったが。ドアが完全に閉まった後は、すぐUターンして。速度を上げ、もと来たほうへと走り去ってしまい。すぐに静寂……と風の音が、交互にやってくるだけとなった。クルーザさん、一言もなしに——


「何だか、お化けが出そうだ。」


 振り向くと、ハートさんはもう。ガーデンアーチを潜って、エントランスに辿り着いており。とはいえ、ドアフォンを鳴らすまでには至らなかった……何故なら。


「あれっ。お車、返してしまわれました?」


――と、声をかけながら、建屋左側のテラスから。ひょっこり出てきたからだ……ある意味、た姿が。


「ジェン……!?」

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