6A
「あれ、珍しいね。風邪かい?」
フラフラと居間に出ていった僕は。ひとりで寛いでいた
「クビになったんで。」
と、言ってみたら。案の定、食いついて。
「……マジかい?」
オーバーに驚いてみせ、皆に伝えてもいいってことかい……?という目で、冷蔵庫に向かう僕を追い続けたので。この手のジョークは「言わないタイプ」で通してきている僕は、ちょっと気がとがめた。ロッドは住宅関係の技師ではあるものの……常勤ではないので、シェアハウスに居ることが多く。年齢を感じさせない気さくさで、住人たちの「ハブ」として機能しているから。大げさに言ってから、訂正してみせれば……ほどほどに伝わるだろう、と。
「いいや。でも、そうなるかも。」
「……ってことは、あそこは閉まるのかい。」
「ご明察。昨日閉鎖したよ。」
「あんら、まあ……」
淡い水色の瞳が揺れながら、好奇心と同情との間を行ったり来たりした後で。あれ?辻褄が合わないなー、という感じに落ち着いて。僕は、共有の牛乳をグラスに注ぎ。その分だけ、コインを集金ボックスへ投げ込みながら。さぁ来るぞ?……と。覚悟した通りに、ロッドの突っ込みが。
「んん~? たしか、まだ裁判……あるよね?」
「良く知ってるね。」
「だって、ほら。先々月だっけ、シーフード倉庫ので……大騒ぎになったばかりじゃない? 突如暴走するやつ。」
そうだっけ? ノヴァル車で……?
「シーフード倉庫?」
「東のモールまで運転するとき、すぐ手前にさ……」
「ああ、あそこ。」
冷凍トラック達の右往左往を見下ろすように。ブルーグレーと白に塗り分けられた「箱」型の建屋がそびえ立ち。その天辺に、
「ちっちゃいノヴァル車が、トラックの荷台に突っ込んで。」
「……フル加速で?」
「わからないけど、積荷もやっちゃって……追い詰められたドライバーが、『意図せざる加速だ!!』って。」
「じゃあ、無事だったんだ。」
とりあえず、グラスの牛乳を飲み干して。駐車場内で、極低速からのUAか。典型的なパターンだな……と思いながら、心がざわつくのを感じた。あのモールの近くだとすると、昨日行ったバレンデルの支社(?)のあたりじゃないか。まさか……
「当事者だと、却って……そういう話はしないって?」
「僕の業務じゃないからね。扱ってた事件も一つじゃないし。」
「つまり、ハブられてたんだ?」
「……。」
肯定も否定もせず。空になったグラスを洗い、自室に戻ってパソコンを起動し。
(まあ、そうだろうな……)
と、思いつつ。ロッドのいう衝突事故の裁判を調べにかかった。ここに係属する事件の
(フォーク・ロジスティックス v. バリフォード・トラン、およびノヴァル自動車
『いっぽう被告トランは、2010年式ノヴァル・キャリス※1を運転して駐車場から出ようとした際、アクセルペダルを軽く踏んでいるだけであったのに、突然エンジンが唸り始め、車両が突進したので、ブレーキペダルを踏んだが、減速しきれずに、駐車中の原告トラックに衝突した……と主張している。』
ロッドに聞いて、予想していた通りの事故で。バレンデルは当事者ではなかった。事故が起きたパーキングも、昨日行った事務所ではないようで。胸をなでおろしたのだが、それも……次の脚注が目に入るまでのことだった。
『※1 この車両は訴外パンナクス・リース社(以下「PL」という)の所有であり、訴外バレンデル・シーフード社(以下「BS」という)は同社とリース契約を締結し、社有車として運用していた。原告は本訴状の修正にて、BS、PL、およびノヴァルO州販売を、すべて被告から外した。なお、被告トランはBSの従業員であったが、本事故の発生前に退職していた。』
(……バレンデル・シーフード社!!)
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