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ここの居室は……街道を望める僕の席から。奥へ奥へと細長く、ボスの席まで伸びていて。やけに天井が高いこともあって、
出入口だったガラスドアは、僕の席の真横にあり。
だが。去り際のボスが指摘したように、その「壁」の下半分は。上半分に比べ、微妙に出っ張っていて。実のところ……その奥に「真の壁面」を隠している、同じ色の化粧ボードなのだ。本来それは、「L」の字の縦棒に沿って伸びるカウンター・テーブルへと。並べられた
で、ロージーが穿った(と思われる)その穴は。まさにその化粧ボードに開いていて、床に向かって亀裂を広げており。手前から化粧ボードの破片を拾い集めていたときに。「真の壁」との間、50ミリ隔てた空間の下に落っこちている欠片が、化粧ボードとは異なる「樹脂っぽい何か」であることに気付いたのだ。
(何だよ、これ……壁とボードの「間」にあったとしか思えないぞ?)
そこで、さらに亀裂を広げながら調べてみると。銅線でできたコイル状の物体や、ICチップのようなものが。滅茶苦茶に潰れた状態で見つかって。しかも、壁の側は。手指で探れる限り、配線などもないようだから。ポツ-ンと、単独潜伏していたことになる。これって、まさか……
「
……と。口に出た言葉に、背筋がゾッとした。
盗聴器だって? いったい誰が、何で? どうやって? いつから? ずうっと、ここにあったのか? 電源は……誘導コイルか何かで、横取りしていたのか? 盗聴していたとして、どこに送信していたというのか? 一体この発見をどうすれば?……といった思考で、ぐるぐるしていた頭に。突き刺さるように
「ピララララ! ピラリラ、ピラリラ、ピラリラ」
「うわぁ、ごめんなさい!!」
思わず謝ってしまったあと、我に返って。送信元を確認すると……いつも見慣れた番号で、少し脱力してしまった。
「はい。こちらはタイツォー……マットロウです。」
『ファーレルだ。ずいぶん酷い目に遭ったらしいな?』
「ええ、まあ……」
『労災みたいなもんだ。好きにしていいんだぞ? 誰も止めはしないからな。』
「はあ。」
すっごく軽い調子だけど。一体、どんな報告が行ってるのだろうか。
『で、そこのことだが。今日から工事を始めた……ということになってるから、少しぐらい傷んでても大丈夫だ。どうせもう、何にもないだろ? そのままにして、帰っちゃっていいぞ。』
「ありがとうございます。でも、ちょっと気になることが。」
『何だ?』
僕は、知ったばかりの「秘密」を抱え込みたくなかったので。渡りに船とばかりに、状況をありのままに説明した。
『なるほど。君は、それを
「ええ、その可能性が否定できない……と。」
少しの間、沈黙があったが。ファーレル主任の話し方は殆ど変わらなかった。
『
「え、でも。」
『いいから、言う通りにしろって。』
「……。」
この人、自分の責任になるからそう言うんじゃないの?……と思った瞬間。
『言っておくがな。俺の責任になるから、とか……そういうんじゃないぞ? ハバリ氏の特命プロジェクトも消滅して、今後の処遇をどうしたらいいのか――どこも考えたがらない状況なんだ。』
「僕の、ですか?」
『そうだよ。ある意味、被害者である君の立場は非常に強い……ノヴァルは、絶対に悪いようにはしない。しかし、今は。無駄に難問を重ねるような真似はしないでくれ。むろん、
「えぇ……?」
僕を安心させるつもりで言ったのかもしれないが。「番犬」としての存在意義を否定されたようで、結構ショックを受けてしまった。だが、それと同時に。ボスも、トグラさんも。ハバリ氏とやりとりした機微な部分を、主任たちに伝えてはいないのだな……とも想像できた。
『さあもう帰って、そこは俺たちに任せろ。』
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