SEE YOU じゃあな。
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それから、交わす言葉も殆ど無しに。トグラさんとハバリ氏が、慌ただしく立ち去った後は。
「本当にいいのか?」
いつものボスの口調だった……それすらも、僕から明瞭な同意を引き出すための「
「いいんです。……ただ、」
「ただ?」
「聞いてもいいでしょうか。結局、
「長いこと部品調達の仕事をしていた……と、聞いたよな。」
「ええ。でも……それを言ったのは、確かボスでは。」
静かに苦笑いが返ってきた。
「実際は、修理用部品の……ロジスティクスの方が長いそうだが。俺が知っているのは、それぐらいさ。」
沈黙を恐れず、無駄な解説は一切しない。その点でボスは徹底していた……昔から。でも、いま聞かないと多分。二度と、チャンスは来ないだろう。だから僕は、ボスが話したくなるような何かを、頭の奥から引っ張り出そうとして。
「部品調達?……を担当していたから、ECMプログラマーとも……お知り合いだった?」
「よく聞いてたな。」
「トグラさんの言っていた、ソースコード漏洩の件は。僕も、お聞きしたことがあります。」
「ジェンから?」
「ええ。タイツォータさんも言ってました……結構、有名な話なんですね。」
有名、と言うところを強調してみて。それで……どうやら、ボスも観念したようだった。スゥッ……と息を吸って、
「あれは漏洩したものではなかった。」
「……どういうことです?」
「ノヴァルのコード保管センターが、移転したのを知っているな。」
「ええ。」
「なぜ移転したか、聞いてるか?」
バイエル氏が、同僚とともに原告の
「確か、原告側の証人が大勢出入りして、セキュリティに不安が出てきたから……だと。」
「実は、その前に決まっていた。」
「移転が?……その、漏洩騒ぎのせいで?」
「うむ。それでそのとき、『棚卸』をしたらしい。」
「保管されているコードの……?」
ボスが軽く頷いたのを見て。僕は記憶を巡り、ノヴァルが最初にスロットル電制を導入した2002年式から2010年式位まで、様々な年式のコードがあった筈だ……と思い出していた。
「ノヴァルへ
「え?じゃあ……」
流出したのは、
僕はちょっと考えて、こう言った。
「少なくとも製品版じゃなかった、ということですよね? つまり……」
「うむ。」
街道の向い側で。パーキングに入れようと後退中の車がいるらしく、ボスの顔が非常に明るく照らし出された。眩しさに目を細め、光跡が逸れた後で。ボスはこう続けた。
「当然、『初期の開発者が怪しい』となった。それで、ノヴァルOBのタノン=モウド氏も、マークの対象になったらしい。」
「OBというと、もうノヴァルには籍がない?」
「本社に居たのは一瞬だけ。関連会社も十年以上前に辞めていて、どこにいるかも判らなかった。ところが……」
その瞬間、パキッ……と。
入り口のほうから、何かが折れるような音がやってきて。ボスの続きを遮った。夜の街の響きからは、明らかに「浮き上がって」いたが。そんなに大きなものではなかったので、思わず耳を澄まして……も、本当にそれっきり。続きはなかったが、何かが動いている空気……というか雰囲気があって。思わず、ボスと顔を見合わせた。この夜更けに、来客だろうか?
「あのー。誰か、いらっしゃいました?」
返ってくる答えはなく。不測の事態に身構えながら、様子を窺っていると。居室側から入口へ向けて、ゆっくりと。ゆっくりと、倒れていく影が見えた。その、板のような薄っぺらさは……明らかに、人間ではなく……ええと、要するに。圧し折れた「販促君」の「上半身」でしかない。
「あーもう、驚かせないで……って、えぇ!?」
急いで駆け寄った僕の声は。下半身側と合わさって「二つ折り」になった有様を見て、途中から裏返ってしまった。
「どうした?」
「この販促パネル、スチレンの裏に
「合板?……その大きさを自立させるんだ、それぐらいは」
「幅10インチ、厚さ半インチの合板が、真っ二つですよ!!……壁の側も大穴が開いてます。いったい何をしたら、こんな……?」
「壁じゃなくて、目隠しのボードを貼ったところじゃないか?」
「そうですけど……」
ボスもやってきて、僕の肩を手で軽くたたいた。
「安心しろ。ハバリ氏が、そこにぶつけられたわけじゃない。」
「じゃあ、何がどうなって、ここまで……?」
「出ていくときに、蹴っ飛ばしていったんだよ……ドアもな。ヒールもなかったし、鉄板でも入ってたんだろう。」
「え?」
「靴だよ。」
何で、じゃなくて。誰が?……という問いが、口から出ることはなかった。もう明らかに、一人しかいないからだ。でも、そのような……激しい怒りに身を任せて。あの長い脚で、器物にあたる彼女など。思い描くこともできなくて。
「お前も、今日は大変だったな……ファーレルさんには報告済みだから、安心しろ。」
そして。ボスにも、もう。
それ以上、僕に説明する気はないようだった。
「後は任せる。ヘッドクォータからは、今日を最後に……と撤収の指令が出ているんだ。」
その通り……ダリル・ライカン、ウィリアム・ブリックランド、ジェナダイン・キャナリー。そして、ローザ・ユーグランディーナといったD&Dの
「預かった鍵束だ。じゃあな、マットロウ=サン。」
その最後の一人であるライカン氏が、至極あっさりと別れを告げて。ご自分のパストーラで走り去った……後の。
とはいえ……まあ。
(こうしていても、仕方がないか)
取りあえず、この入口だけどうにか塞ぐとかして、ガレージの側から出ていくことに決めたのだが。どうにも無惨としか言いようがない有様の「販促君」……を片付けるとき、裏側の合板がぶつかって開いた「壁穴」の奥に。
(ん?)
妙な
「これ……
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