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そして……
「バーキン」と名乗るこの方の。要領を得ない長広舌から、なんとか聞き出せた情報とは。先程まで僕のシェヴラに引っ付いてた(今は影も形もない)チャコール・グレーのセダンが、実は「誰か」に追跡されていて。その「誰か」もまた、
いや。そうはいっても、あのとき……僕のシェヴラはかなりの速度になって、前走車をどんどん追い抜かなきゃいけなくなっていたし。介入してきた彼のワゴン車も、そうしたなかの一台であったはずなのだ。だとすると、僕よりも相当「前」を走っていたことになるじゃないか……?と一瞬、不思議に思ったが。しかしすぐに、自分が一度「ハイウェイを降りて上がり直した」ことを思い出した。
あのとき。例のセダンが僕の「離脱」に対応できず、再び上がってくるまで時間を潰していたなら。それを追跡していた「誰か」も、その「誰か」を追跡していたバーキン氏も、同じように前走車として待ち構えていたというのは。とくに不自然なことではないように思えた。
そういった「多重尾行」の状況が、さきほどのシェヴラの異常……
「どうだ。もう運転できそうか?」
「はぁ……!?」
思わず、冗談じゃないという感じの声が出てしまった。この車で、再びエンジンに火を入れて、ハンドルを握る? 絶対に嫌だ、想像したくもない……という、強い怯えの一方で。すぐに同じ症状が出るという予想は、実際的でないとも分かっていた。
コンピュータのメモリの中で、
だから、バーキン氏が「そう簡単に起きないだろ」という感覚で運転を勧めるのは不合理というわけではない……わけではないのだが、足の裏に残る「機械に裏切られた」という感触は非常に重く、恐ろしいものだから。判ってほしいというか、そう簡単に言って欲しくなかった。
実際、バーキン氏の物言いは妙にあっけらかんとしてて。こちらを慮っているようにみえても、本当のところは謎であり。
「まあ、そうだよな……でも、そうすると。
「!!」
やっぱりこの人、僕らの生業を把握している!……どう考えても、そう理解せざるを得ない一言だ。だとすれば、「追っている」と言っていたのは……?
「あ、貴方は一体……」
「君じゃないのか?」
「え?」
バーキン氏の指さすほう……シェヴラの車内から「チロチロチロ・チロチロチロ」と。
『俺だ。そっちはどうだ?』
ボスの声。ぐっと現実に引き戻される気持ちになるが、何と報告すればいいのか? すぐ外をバーキン氏がワゴン車へ向かって走って行く。こちらへ首を突っ込もうとしないのは助かるが、それでも僕の頭は全然まとまらない。
「は。はい、ちょっとトラブルで……」
『ああ……んん、やはりそうか。』
「へ?」
思ってもみない反応に、変な声が出た……が。それで終わりではなかった。
『いいかな?マットロウ=サン、決して無理はしないように。』
「?……?」
『車はそのままでいいから、こっち戻ってこれるか?』
「戻る?……そ、そうですね」
『とにかく無事で良かった、また連絡する。』
「え、ボス?そちらは……もしもし?」
『ツー・ツー・…』
僕は。茫然と、切れた携帯を眺めながら。いったい、何が起きているのか……と。
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