23
「
あのとき。
「最終……ですか?」
「何段階かあるフェイル・セーフのなかで、『最後の防衛線』という意味だ。」
「なるほど……?」
このとき
(ビルが持ち主を探してるという車かな?)
「どの車に誰が乗ってきたのか」チェックせずにはいられないのは、如何にもビルらしい話で。
確か……僕の「無線LAN監視デバイス」でも、あの車の到着は検知できていなかった。とはいってもそれは、ドライバーが無線LANを切っていたか、そもそもWifi機器が無かったかの……どちらかに過ぎないのだが。
白いボディ。長めのボンネットと、
「この最終フェイルセーフだが、昨年に有効性を確認するテストをした。」
「えっ。実際の
「そうだ。とはいえ、ノヴァルも協力して、エンジンECMのスロットル制御システムに手を加えた。そうしないと人工的に
「人工的に?……そんなことして、危なくないんですか?」
「シャシー・ダイナモという、ローラー台の上で行うから大丈夫だ。」
なるほど。
――いや、「なるほど」じゃない。ぱっと聞いて、それだけで消化できる内容ではなかった。
でも、
「要はだ。UAが起こってしまったときに、ブレーキを踏んでみて、『最終フェイルセーフ』が作動するか?という試験だ。」
「で、どうだったんですか?」
「百発百中、常に作動した。」
ほっ……と胸をなで下ろす僕だった。
でも、そうなら何故。この話を持ち出したのだろう?
「それなら、よかったじゃないですか。」
「そうだ。ただし――」
「……ただし?」
やっぱり、何かあるんだ。
「―――色々試して、妙なことが判った。」
「妙なこと?」
思わず
「ブレーキを軽く踏みながら
「!!」
すぐ目の前の図に。ロージーが描いたとおぼしき、手書きの図へと目が行った。
「モニターCPU」の中の「エコー・チェック」。人工的に起こした
つまり、右側のメインCPU側で異常が発生して、メインCPU側で把握しているブレーキのON/OFFの状態が更新されなくなり、左側のモニターCPUからやってきた(ほやほやの)ブレーキ状態と「一致」しなくなることは、「エコー・チェック」で検知できているのだ。設計の意図どおりに。
では何故「ブレーキを軽く踏んでいると」検知できない……のか? メインCPU側で、ブレーキのON/OFFの状態が更新されないのは同じ筈だ。
ON/OFFの状態が……
「あっ。」
「何だね?」
今にして思えば。このとき初めて、BBLさんの声に「驚き」のようなものが混じっていたかもしれない。
「これ……たぶん、仕様どおりの動作ですよ。」
「どういうことかね?」
「ブレーキを踏むと、このブレーキスイッチがOFFからONに切り替わりますよね。」
「そう。だからメインCPU側のほうでOFFのまま更新されないと、エコーチェックで検知される。」
「でも、ブレーキを踏んだ状態で”おかしく”なるんだったら、メインCPU側はONのままだし、モニターCPUからくるほうもONじゃないですか。エコーチェックで比較してても、ON同士だったら検知されないですよね……。」
と、一気にまくしてたてた僕……を観察しているBBL弁護士の顔には。『やはり、そう見えるのか』という表情が浮かんでいた。
「ごめんなさい、僕の言ってること……おかしかったでしょうか?」
「いや、それでかまわない。実際にそうだとして――の話に行かせてもらおう。」
あれ、いいのかな。
「先ほどは『人工的に
「はあ。」
さっき、しまっちゃった方の図が欲しいんですけど。
「これを止めた後、スロットル開度はどうなる?」
「ブレーキの話と同じだとすると、止める直前の開度のまま……固定されるのでは?」
「その通り。」
でも、そんな重要な『機能』を止めたら、ほかのフェイルセーフが動くんじゃ? そっちも改造して反応しないようにしてあったのかな。
「次に、アクセルとブレーキを同時には踏まない、としてみよう。」
「ええ。」
「アクセルから足をどけると、どうなるかね。」
「エンジンの回転数が下がっていって、アイドル回転数というのになるんでしたっけ……?」
「その通り。それでブレーキを踏んで、
「アイドル回転数で固定される?」
「そうだろう。」
ん?
「その状態で、フェイルセーフが動作しないまま、ブレーキを踏み込むと……どうなる?」
『
微妙に違和感を覚えつつ、望まれていそうな回答をした。
「エンジンがアイドル回転数に落ちているなら、ふつうにブレーキを踏むのと変わらないと思います。」
「
「ですが……」
BBL氏が『身構え』たのが判った。
「この試験ですが、実際に『異常』が起きる場合と同じである……と、言ってよいのでしょうか?」
BBL氏がしまい込んだ方の図では、アクセルの踏み込み量から変換して出力されたスロットル角は、そのままスロットル・モーターの制御には行っていなかったような気がするのだ。
「クルーズ・コントロール」や、「アイドル制御」や、「車両安定化制御」などからも矢印が延びてきて、それらと『合流』していたような記憶がある。
だからもし、そっちのほうが――
「あくまで、この試験に限定した話だ。」
「成る程、それでしたら。」
……と、僕が揚げた白旗にかまわずに、BBL氏の弁舌が続いていた。
「付け加えておくと、この試験はそもそも
なるほど。でも何故そんな力説をするのだろう?……という思いは、フロント・ウインドウの向こうに現れた訪問者に遮られた。
「
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