22
「……いっこうに直りませんね。」
「これはもう、『仕事しなくていい』ってことですかね……!」
半年前のことで追憶にふけっていた僕も、このように不穏な会話を耳にしては中断せざるを得ない。
「直らないって、裁判所のサイトが……ですか?」
「
やれやれ。つい先程、「これは長引くわよ」って言ったのはジェンだったよね?……と思ったけど、もちろん口には出さない。
「
「そっちは、まかせるわ。」
『エーリォも舌を巻いてたぞ。すごいな彼女、この州に居着くつもりじゃないか?』ってボスに言われるほど。
「殆ど紙で貰ってるでしょう、移してるんじゃないの?」
「うーん。
そろそろ介入しないとまずいかな……半分は僕の仕業だし。
ちょっと覚悟を決めて、口を挟んだ。
「さっき僕のほうで、裁判所のドメイン全体に繋げないようにしましたから。」
「何それ……どういうこと?」
「どの範囲までやられたか分かりませんから。大事をとって切りました。」
感染したコンピュータが、Webサイト自体を――利用者への攻撃の為に「
「なるほど。……でも、一言あっても良かったんじゃない?」
うわ、きた。
とにかく頭を低くせねば……と、覚悟して。
「ごめんなさい。でも、本当にすぐやらないと僕が
「『お前が常駐してる意味がないだろぉ?』って。」
「そうです。て言うか、巧いですね……主任の口真似。」
ジェン、何か考えてる目をしている。
ちょっと、やな予感……ロージーは判例法に没頭して、蚊帳の外に脱出してるし。
「でも、切っちゃったら。サイトがいつ直ったのか……直ってても判らないんじゃないの?」
「それはそうですが、こうするのが規則なんです。」
「こまるわー」
本当に困るのなら、ロージーが援護射撃をしてる筈では?……と思って当人のほうを窺うと。耳の前で細い束になって下りる髪を、PCディスプレイでキラキラと照らしながら。
僕は、それで何か。
「ピン」ときてしまった。
おそらく、ジェンは……仕事と全く関係のない、全く別の
「
「なな、何も言ってませーん!!」
「は?……復旧を確認しないのって違うわよね、って言おうとしたのよ。」
ヒイィ……びっくりした、心を読まれたかと。ジェンって、時々こういうのあるんだよな。
「主任にメッセージを打ちますから、それで復旧の連絡を貰います。」
「あのひと、飛び回ってること多くない?」
「ですが……」
「だからよ。」
言いながら。こちらに寄ってきて、思いっきり右手を差し出すジェン。
「何です?」
「わたしのファブレットを出して。外でアクセスするわ。」
「え。そこまでして?」
「良いから出しなさい。」
僕が渋々、金庫を開けて。出してあげた8インチ画面のファブレットを。こっちを見ずに引ったくったジェンは、勢いよく扉から出て行って。自分の
ああ、久々だな……これやるジェン。
風圧に煽られた「販促くん」が揺れ続けるなか、僕は。
ポータブルの「無線LAN監視デバイス」を出して、ジェンのファブレットが
スマートフォンを少し厚くした感じの、ちょっと武骨な見た目のデバイスは。WiFi・APを偽装したもので、利用者側で接続先を探している電波の強度も、かなり精緻に表示してくれるから。
みんなには悪いけど、
今。こういった利用があったことも、当然……記録することになるのだ。
それも。ボスやビルのスマートフォンや、ジェンの巨大ファブレットだけ……ではなくて。無線LANが常時動いてるカー・ナビゲーション・システムも、である。
つまり、ボスの「パストーラ」も、ビルの「マンファリ」も、タイツォータさんの「キロ・ワット」も。ここに近づいてくれば、判るのだ。
すぐ横のガレージにいる「シェヴラテイン」も、始動すれば感知できる。
わからないのは、ロージーのことだけ。
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