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まあ、でも確かに。
嘗てはノヴァル車専門の整備工場であった施設で、現在は「意図せざる加速集団訴訟」に応じるノヴァル側
実際。ここを立ち上げようとする場面では、ノヴァルやその代理人たちと紐付きのない、もっと隠密度の高い場所が必要では?――という議論もあったのだ。
しかし、ノヴァル・ホンゴクの恐れる「
それでも、この出張所の性格が。何かしら敵対的な……怪しげな者を呼び寄せるということも、ありそうではある。僕があの人物を再び見かけたとき、そう思ってもよかった……のだが。
あるいは、最初のときロージーが追い払ったのは、実はロージー自身がマークされているからなのでは?——と思うことも、できたはずなのだ。
でも、そう思ってはいけない気がしていた。
何故なら。
今から十数年も前……ここから二つ隣の州で。僕が通っていたハイスクールで、ちっぽけな銃乱射事件が起きて。学校側のシステムの一部をいじらせてもらっていた僕は……結果的にせよ、捜査当局の注意を引くような状況になってしまったので。そしてその執心が、だいぶ弱くなっていたものの……未だに持続しているように感じていたので。
そう、あのとき僕が増設した監視カメラが。そのときちゃんと機能していれば、もっと早い時点で、適切に警察を誘導できたはずだ。
しかも、その乱射をやらかしたのは。よりにもよって……その少し前まで、割とよく
ハイスクールでは、どこもだいたいそうだと思うのだが、その学校でも。チーム・プレイが前提のスポーツ競技で、どういったポジションになるか?——で、本人の
どういった競技でもからきしで、勉強もそんなにできない……という事実から。ゴーティと僕とは当時、同じ「等級」に属しており、班分け等もそれを反映して、顔を合わせることも多く。寮内や校内において「安全保障上」必要となる情報を交換するところから、つきあいが深くなっていったのだ。
今はどうか知らないが、当時はどの「等級」の生徒でも、ビデオゲームはやるものだった。ゴーティもやっていたが、ニックのように「ゲーム浸り」と言うほどでもなく、僕のように飽きてコンピュータ自体のほうに関心が向かうこともなく、中途半端だった印象がある。
彼が講堂の上からほんとうに「敵」を撃ち始めたとき、特に喧嘩もなかったのに、1ヶ月ほど口を聞いていなかったことに気づいて驚いた。
後日、ニックが言うには——
『奴さ、全然ダメだったよな?……
(いや)さすがに、ビデオゲームの射撃成績が悪かったのが動機だった……とかいうのはないと思っているが。何にせよ、ゴーティが「実力行使」に及んでしまった本当の原因は、当事者が撃ち殺されているのと、生き残った者の口が(肝心の所で)堅いのとで、決して明らかになることはないだろう——と話していた記憶がある。
正直な話。その日風邪で休んでいた僕には、翌日に電話で呼び出されて、面談室で捜査員などに囲まれたことのほうが余程のショックであった。何でも、警備システムそのものが奇妙な再起動を繰り返して、それでゴーティの場所への誘導が遅れたそうで、僕が予めシステムへ細工したのでは?……と疑われたのだ。
その根拠として、彼らが挙げたのは——
① 僕が、警備システムのマニュアルを参考に、講堂に監視カメラを増設したこと
② 僕が、セキュリティ関連のwebサイトを閲覧していたこと
③ 僕が、ゴーティと仲が良かったこと
——という程度のことであったので、そりゃあ。僕としては——
①は事実だが、元々拡張できるように設計されているものをマニュアルどおりに拡張したにすぎず、それも1年近く前のことで、警備主任が今の方へ替わってからは、触ってもいない
②も事実だが、当時ニックと運営していたwebサイトをデータベース連携にしようという話があり、その際の問題を調べていたにすぎない
③も事実だが、その何が悪いの?
——と、主張するしかなかった。
この時点でゴーティ自身とうに遺体となっており、ゴーティの親権者とともに「攻撃」の
実際、「訴訟になるぞ」という話もされた記憶があり、ゴーティのことをどう思えばいいのか?より、濡れ衣を着せられたことの怒りより。これから一体どうなってしまうのか、このまま疑いが晴れなかったら?——ということで、心底震え上がっていたのだ。
そういうのを。根本からまとめてふっとばしてくれたのは、しかしまったく意外な同学年生だった。
ファラ=ド・リィ。
どちらかといえば地味な感じの……小柄な少女で、学校も休みがちだった記憶がある。なのに、彼女は校内でも寮内でも。「等級」を越えた尊敬を受けており、実際。クラスのちがう僕達とも、それなりにつきあいがあった。もっとも、僕は彼女と同郷で……どちらの家もナマズ養殖業を営んでおり、その意味ではお互いを知っていたのだが。
穏やかな口調で、控えめな身振りで。どの「等級」の誰とでも話に入れる彼女は……確かに際だった印象があったが、この日から僕にも。ファラが、皆から深い敬意を持って扱われている理由が、心の底から判るようになった。
さて、そのように面談室で軟禁されていた僕だが、捜査員と学校側に「重要なことを申し上げたい」という警備員が現れたのは、その日の夕方……僕が軟禁されてから実に5時間後のことだった。
この警備員は、僕がシステムを弄った後に来られた方で。しかし、一年足らずで隣州へ異動となり、既に引っ越していたのだが、わざわざ元の職場まで馳せ参じて頂けて。僕が増設した監視カメラは「数ヶ月も前から使えなくなっていた」と「証言」してくれたのだ。
この状況を発見した彼は、警備主任にすぐ報告をしていた。が……どうやら、この主任自身が、そのカメラを——何か事情があってのことだろうが——ご自分の判断で回線から外して、付け直したりしていて、保守業者にも知らせなかったらしいのだ。実際、前の主任が僕に相談していたことも快く思っていなかったようで。
で、カメラがおかしいと気づいた彼は、やりっぱなしになってることをファラへ愚痴っていて、それで彼女は……その警備主任を飛び越えて、業者か僕へ知らせたものか迷っていたらしい。
そうしているうちにゴーティが乱射事件を起こして、僕が呼び出されて。監視カメラのことで疑いがかかっていることが耳に入り。異動した警備員のことを思いだして、すぐ探し出して事情を伝え、その気にさせてくれた……というわけなのだ。
その後はあっという間であった。すぐに、警備主任へ提出されていた報告書が発見され。システムのエラー・ログからも、乱射事件より随分前からカメラがうまく機能していなかったことが確認されて。再起動を繰り返していたのも、警備システムが(僕の知らないところで)不調であったためだろう……ということになって。もう、僕を帰していいのでは?という話にもなった。
しかし警察の一部には、僕を疑う捜査員もまだ残っており、学校側も……その疑いを「利用」することを諦めようとしなかった。
こうした災厄を。ひとまず終わりにしたのは、またしてもファラ……彼女が持ってきた「報せ」であった。
僕の父が突然死した、という。
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