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その後もボスは帰ってこないし、裁判所のwebサイトは繋がらないし……で。この二人のモチベーションも下がりまくると思いきや、普通に集中できているようだ。もっとも……彼女等が
(何か技術書でも読もう)
そう思って、指定席から滑り降りようとして。気づいてしまった。
入口で案山子のように突っ立っている「パストーラ販促くん」の、スタイロフォームの「腕」の先、引っかけてある帽子……の陰から。パーキングに並ぶ二台のさらに向こうから。歩道の端に佇む影がひとつ、
口から驚きが、声に出そうになって……何とかこらえる。
お隣の敷地は、昔はノヴァル専売の
そして、その男は。「プリズモダール」のパーキングへ入る処の、高い看板の基部に寄りかかるようにして、車が出てくるのを待っている様子であった……が。鍛えられた体に纏う着古した感じのスーツは、いつ何処に行くにもそれで済ませてる印象が強すぎて。「プリズモダール」の店舗スタッフも、経営者やオーナーも、「プリズモダール」に通うジェンのような顧客達でも。身につけそうな類のものには見えなかった。
何より、その顔の感じに見覚えがあった。確か、半年ほど前の……午前中のまだ早い時刻に。今のと同じ所から、後ずさりしながら現れた男ではなかったか。豊かとはいえないグレーの髪、広い額、目の辺りがほどほどに厳めしく、薄い眉……いや、間違いない。
あのときも僕はこの指定席で、皆を待って外を眺めていたのだが。全然見覚えのない人物が後ろ向きにやってきて、何なの?と目を凝らすと。実はその方は、腕組みをしたロージーに。追い立てられて、後ずさりしていたのであった。
おそらく、こちらの建屋から見える位置に入ったので退散したのだと思うのだが……やりとりの様子は、
「それから、『ハートさんはご存じですよね? 貴方のことを伺ってもかまいませんか?』……って、すごかったよ。」
「やめてください。そんな風に言うと、ずいぶん勇ましく聞こえるじゃないですか。」
「自然に言えるから、すごいんじゃないか。」
ハートさん……というのは
その後、どういう経緯かわからないが……ジェンが。巧いことボスの非礼を詫びる役回りをこなしたらしく、今は寧ろ、当出張所の微妙な立ち位置から出てくる諸々の相談に乗ってもらえる有り難い存在になっていた。
少なくともこのあたりでは。とくに『厄介』な方面では、ハートさんを知らない者は居ないという話であり。それでロージーは名前を出して誰何したらしい。
「少なくとも、『ハートさんに知られると』支障があるようだったわ。」
「そうそう。『まだ健在ですか』とか言ってたけど。『健在ですか』じゃないよね。」
「ふうーむ。ハートさん、次に寄られたら聞いてみるわね。」
それでジェンは、ハート氏に聞いてみたのだろうか。最近、氏の姿を見ていない気がする。
そのときも僕は、気が気でなかった。今もまた……『彼』が現れたこと、こちらを伺っていることに動揺していて、それが表情などに現れて、ジェンに感知されているのでは?……と。
僕用のコンソールに集中している振りをしたが、『彼』の様子を見ないわけにも行かない。
なるべく「やる気」のない視線を、パーキングの向こうへ投げた。
居ない。
できるだけ自然に。目を画面へと戻して、3分後。8分後。12分後。17分後…………やはり、居ない。
しかし、錯覚だったとは思えない。
もう10年以上前、ハイスクールで。あの事件のあと、僕を『尋問』した中に居ただろうか……? その後カレッジで、僕のことを聞いて回っていたという人物と、同じなのだろうか?
僕の頭に居座りかえって出て行こうとしない思考は…
連邦警察にマークされてるかも――……などとは。
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