12
どうしたのか。ボスも、ビルも――午後1時を過ぎて、かなり経つのに戻ってこない。食事の後、皆と雑談して粘っていたタイツォータ氏も、諦めて
「午後、何か入ってる……とは。言ってなかったよね、ボス。」
「陪審員の候補と会う予定があったような……スロットル固着ケースの。」
「それって、今日からだった? ……だとすると、戻ってこないかもよ。」
ジェンの声は、
「……でも、入ってないのよね。」
「でしょう? そうだったら、タイツォータさん知らないわけないわよ。」
「じゃあ、違うわね。」
「このパターンだと、集中力が上がってきたあたりで…ちょうど戻ってきそうなのよねぇ。」
「何か……MOTTAINAI?」
「そうそう。」
ジェンのぼやきに、ホンゴクの言葉で応じるロージー…は、もう元の画面に集中している。しかし、それは午前中に表示していた文書であったようだ。
何故なら。
「あれっ……インターネットおかしくない?」
ジェンが、ちょっと驚いてる声で。
「そう? こっちは別に。」
視線は移しても、集中は切れないロージー。
「新しいリンクをクリックしてみて。……ほら!」
「んん……本当ね。」
ロージーからの視線に促されるまでもなく、僕もチェックに入っていた。回線や通信機器類に異常はない。ホワイトリストにある他のwebサイトには接続できる。裁判所のwebサービスだけが死んでいるようだった。
とりあえず、
「どうやら、裁判所の方が落ちているようですね。まあ、一時的なものでしょう。」
「本当に、こちらの問題ではないの?」
(厳しいね、ロージーは)
決して、僕の言うことに信用がない……わけではなく。3年前の、
この建屋にも光回線終端装置があったと思しき収容器はあるのだが、数年前に営業所が廃止されたとき、光ケーブルが撤去されて「箱」だけが残されていた。
当時、未知の敵から
むしろ、ベンチャー企業などが「とりあえず」入れる類の、どこにでもあるモバイル回線で行きなさい――というのだ。
「小さい事業所向けの、LTE通信ができるルーターですが……もちろん、二台で冗長化できる機種……ありますよ。」
インターネットとの出入口にあたる設備は、先のタイツォータ「第一」にてUTMがそうであったように、同じものを二つ用意しておくのが常套であった。
『一台やられても
と。(頭の中で)(ビデオゲーム・マニア当時のままの)リックが喚いてるけど、確かに。「冗長化」とはそういうことだ。実際、LTEルーターが二台必要なのは、ファーレル技師も認めていた。ただし――
「二台はいいけど、うち一台は予備機ということ。で、良いだろ?……っていうんだな、
「ファーレルさんも、そう思うんですか?」
「……いいや。でも、どう説得する?」
ファーレル氏は。僕と「同じ意見だよ」という風に振る舞っていたが、いったんノヴァルに戻れば。今度は「向こう」の意見へ迎合するのであろうと……。そこはもう、想像に難くなかった。
オチを先に言うと。現在、二台のLTEルーターには両方とも
このようにせず、一台のルーターだけで済まそうとすれば、「異常感知」の対応は管理者である僕自身でやらなければならない。
まず、ルーターを再起動して「回線」側の異常かどうかを確認する。再起動しても直らなければ、ルーターを交換して
仕事であることが「いけない」のではなく。何か一つでもうまく行かなければ、最悪半日以上通信できない——ことも有り得るのを、どう評価するかである。
幸いにして、ノヴァルの訟務システム部は。「α協会」の顧客達のような「素人」ではないので、遠慮なく「専門用語」を繰り出して……主任たちの説得にかかった。
「それじゃ、
「それは違うんじゃ……だってさ、ルーターは二台あるわけで。そこは
「セットアップされてないんだから同じです。箱から出して繋いでみたら動かない……かも?じゃないですか!——だからここも
「いやいや、導入の時には繋いでみて初期不良チェックするでしょう……? 動く予備機があるのに『スポーフ』はないだろうと。」
「外した瞬間に壊れてるかもしれないじゃないですかー! 何年も使わない機械が、いざというときにきちんと動くと思います?」
「3ヶ月ごとにセットして、チェック入れるようにするとか。」
「その間、通信できなくなりますッ!」
僕とファーレル技師とで二時間ほど……こんな調子で「スポーフだ!」「スポーフじゃない!」って、ギャーギャーやり合ってるなかでロージーは。必要そうな工事項目やオフィス什器を黙々と調べてリストを整えていたので、もう……そのあたりから。彼女には頭が上がらない(?)感じなのだ、何となくだが……。
結局、「説得」のうえで一番の難所であった
あれほど心配していた通信障害は、今に至るまで一度も起きていない。
しかし、あのとき口論していた問題は。ロージー達にとって、思わぬ方向から降りかかってきた。よりにもよって――
「専門家としての貴方の見解を。お聞かせください。」
「ノヴァル・キャブラのエンジン・スロットル電子制御システムには、
――原告側の
お互いに用語の意味のすり合わせもなしに「スポーフ!」「スポーフ!」連呼してた僕たちとは違って。陪審員の皆様のために、論文を引用しながら分かりやすい解説を怠らず、証言の都度……短縮・省略したりはいっさいせず、丁寧に丁寧に。発音していたそうだ。
「
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