F
もはや。各自業務に戻る流れでもなく、なし崩しに昼休憩へ突入していた。
漸く、紙袋の封印を解いて(何度も解けていたのは見なかったことにして)色々入ってそうなサンドイッチを引っ張り出すジェン。ロージーもタコス的な何かをつまんでいる……てと思ったら、もう無かった。ジェンのほうはまだ、指で少しずつちぎってるというのに。
(あんな少量で良く持つな……)
タイツォータ氏も、いつものように中華のテイクアウト・ディッシュを広げ始めたので、僕も買い置きの肉饅頭を解凍することにして、御付き合いでジャスミン茶を淹れて差し上げた。
「有難う……これ、まだあったんだ。」
「いっぱい買いましたからね。」
「もう、僕ぐらいしか飲まないかな……。色々用意しておくの、大変だったでしょう。みんな、好きなもの飲もうとするから。」
「最初は持ち出しだったんですが、すぐノヴァルで持ってくれることになりまして。」
「へぇ、そうなの。」
電子レンジの上がった音がしたので、奥へとりにいく。二つ載った皿を出している処へ、ロージーが尋ねている声が届いた。
「この報告、ここの立ち上げの話がありませんね。」
タイツォータさんが答えている声も響いてきた。
「そりゃあ……うちで立ち上げたんじゃないからね。というか、僕は反対だったの。」
「……そふなんですね?」
口に物が入ってる相槌はジェン――まだ冷たいな、これ。30秒追加しよう。
「うん。だって、あの……文書漏えいで皆さん大騒ぎのときだって、うちからはゼロだったのよ。彼の仕事のおかげでね?」
「それは伺いました。あの頃、
「わたし、ノヴァル宛で『こういうのあるけど幾ら出す?』……って言ってるメール、見たことあるわ。」
「トグラさんね。」「トグラさんに?」
ロージー&タイツォータさん、ハモったようだ。この”トグラさん”というのは「意図せざる加速」事故の訴訟のためにステイツ中を飛び回っているノヴァルの法務スタッフで、ホンゴクでは弁護士の資格を持っていると聞いた。
そういえば、ここ2か月ほど見かけない。
『俺は
トグラ氏の口癖を思い出しながら、蒸気でパンパンになったラップを外す。
実際、法務としてどれ位偉いのか良く分からない方で。訴訟の中でノヴァルとしての判断を代理人へ伝える役割というよりは、周辺的な面倒ごとを一手に引き受けている節があった。
「すごくしょうもない文書まで流れてて。値付けも適当だから、これはサイバー攻撃で漏えいしたんだろう……って見当つけて。それから各
皿を持って戻る僕の耳に、だんだん大きくなるロージーの声……ジェンより1オクターブも低い。
「うん。それで、うちからは出ていないのが判ったんだね。だから、ずっと任せてくれればいいのに……ってね。」
「でも、ここを立ち上げなさい……というのは、トグラさんの意向じゃなかったって言う話ですよ。」
……と、お喋りしていて「二口目」にいけないジェンの横を通り過ぎたとき。
「でもね、彼を『協会』から引き抜いていったのはトグラさんだよ?」
「この中を読んだのなら、不安になったんじゃないですか? 管理者の協力を得られないとか、管理状況が分らないようにされるとか、野良
「不安? 爆笑してたよ、彼。」
……何ですと?
ちょっと動揺しながら『指定席』へと皿を置いて尋ねた。
「ええと……トグラさんも読んでるんですか、この報告?」
「うん。ノヴァルへ提出したよ。目印で漏えい文書に該当がなかった……というだけじゃ安心できない、っていうからさ。」
「あー……。」
「笑い転げながら『この人は大丈夫だ~、絶対ホンゴク受けするだろ~』……とか、おっしゃってて。それで嫌な予感してたら、あっさり引き抜いちゃうんだからね。ノヴァルに……!」
「ノヴァルになったマットから、ここを借り受ける立場になってしまった……と。」
「そうそう。正直、面白くないの。」
なにか、凄く腑に落ちた気がした。
そう、今から3年ほど前のこと。車両価値の下落に怒る
悩んだ末、ノヴァルの従業員となったのだ。
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