D
結局。僕は、その件の見積もり作業に入って。タイツォータ
それで、初めて打ち合わせに臨んだのは――なぜかその事務所ではなく。アルファリーダ側で用意した、
そこでまず、
電子メールのサーバや外部向けのwebサーバ等は、既に同所のネットワーク設備にはないこと。従ってセキュリティ対策は、所内のPC等からインターネット上のサーバ類へと安全にアクセスさせることに集中できていること……など、要するに「現在の体制で充分ですよ」という趣旨のようだった。
要は、「他の専門業者の目から見ても充分」というコメントが必要なだけかな?……と、思ってアルの方を見ると、何やらブランドル氏とアイコンタクトしている。この二人が知り合いなのは間違いなく、タイツォータ氏に
僕は、ホワイトボードの見取り図に2つある「UTM」と書かれた四角形を指しながら、こう切り出した。ちなみに「UTM」とは、インターネットへ繋がる「データの出入り口」で、門番の役割をする機器である。
「危険なwebサイトには、所内のPCから接続できないように制限をされているのでしたね。ここですか?」
「そうです、危険なwebサイトのアドレス・リストを使って、UTMで遮断する方式です。リストの更新は……」
――と、お定まりの説明を自信満々で続けるベイツ氏に、タイツォータ氏はやや険しい表情で、ブランドル氏は補足すべきか迷っている様子だ。
(ん?)
僕の何かが、ひっかかりを感じた。
今までで何か、欠落していることがある?……と。記憶を漁っていて、所員の利用するPC類の情報が出てきていないことに気づく。もし、PC類の仕様や設定が統一されておらず、
当時、大手企業でも
ほんとうに
当然、アルにも分かっていたようで――
「そうしますと。タイツォータさんとしては、外のwebサイトへの接続を。もっと制限したい……と?」
「はい。現在は全て一律に同じ基準で制限しているのですが…特定のチームには、さらに厳しくさせたいのです。」
「特定のPCから……ということで?」
「そうなのですが、チームと言いましても……居室や部門が違う者を入れざるを得ない事情がありまして。」
「PCの側が、うまく揃えられない状況と。」
「はい。」
――と、ベイツ氏を刺激しないよう、認識を共有したのはさすがだった。
「さらに厳しくする、となると……利用可能なwebサイトを限定することも考えられます……私たちは”ホワイトリスト”と呼んでおりますが。」
「実は、それをお願いしたいのです。」
えっ、どうやって?
……と思って、ホワイトボードの見取り図を眺めた。インターネットの入り口に描かれた2つの「UTM」の下には「コアL3」と書かれた四角形も2つあって、さらにその下に、PCや所内サーバ等を示す丸印が多数並んでいる。「UTM」のメーカーや形式が不明だが、下の方の丸印……接続元ごとに2種類の制限を。
「一部だけ、ですか……。PCの全部を、ホワイトリストで制限するわけにもいかないのですね?」
―――と、アルが尋ねるなか、ベイツ氏は目を閉じていた。
「はい。やはり無理、なのでしょうか?」
―――との、タイツォータ氏の口振りには。明らかに、同所のネットワーク環境を大きくは変えられない……という事情が窺えた。
もはや、どのように回答しても「地雷」を踏みかねない状況。
アルとしてもこれ以外の選択肢はなかっただろう。
「いったん、持ち帰らせてください。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。