HAD NO INTEREST ゼロであった。

C

 4年前。ノヴァル車で多発する「意図せざる加速」事象が、いちばん世間を騒がせていた頃。僕の関心は、ほぼゼロであった。


 僕自身が自動車の仕組みメカニズムに疎かったのもあるが、そこまでの欠陥だと。見逃して首が締まるのはノヴァル自身なので、そんな基本的な過ちをするなど有り得ない……と感じていたのだ。


 また当時、うちのシェアハウスの車は20年物のトーボ・モーター製で、明らかに「対象車」ではない……のもあって、住人の話題に上ることもなく。このとき、アルが顧客の送迎に使っていたワゴンも。たしかファ・ブライトン製の、それもマニュアル車だったし。僕はといえば「オートマでないと!」の人なので、その仕事の話が初めて出たときもアルの運転だった。

 なので、アルの口から出た「意図せざる加速Unintended Acceleration」という言葉が、何だか新鮮に聞こえたぐらいで。


「……ていうの、いま騒ぎになってるだろ? ついこの間もTVでナントカ教授というのが、キャブラの実車をスタジオに持ち込んでさ。ちょっとだけ弄って『意図せざる加速』事象を再現してみせたとか、いやはインチキで、どの車でもなるような改造をしたんだ、とか……」

「あの。」

「おっと、……そうか。お前のとこ、TV無いんだったな。」

「共有の居間には大画面でかいのが有りますけど、僕の方に見る習慣がなくて……。ええと、騒ぎになっているのは知っています。それが?」

「うわー、この車大丈夫かなー? 怖いなぁー。」

「ぜんぜん怖そうじゃない……。」

「別に起きても、クラッチ切ればいいから。オートマのは怖いよね。」


 アルは本当、こういう口振りでのが上手いんだ。


「それは……いま、仕様を詰めてる仕事のことですか?」

「うん。ただ、というか、導入より運用のほうが主になるね。」

「?……そんなの、協会うちでは受けないでしょ?」

「そう……なんだが、ここんとこの不況、殆ど恐慌のレベルだし。早めに唾をつけておきたいお客様なんだ。」

「★あつっ」


 後ろからとしたもので舐められた。シートバックに巨大な縞猫がよじ登っていて、ヘッドレストの横から顔を出している。左手で適当にいなして、後席へお引き取り願った。


「……な、ポインタに何か。あげたくなってきたろ?」

「要するに、ITの設備が古くてお悩みなんですね。その、弁護士事務所ですか?……は。」

「ミャーァ。」

「察しがいいな。『意図せざる加速』事故で起きた訴訟の代理人だ。とはいえ、原告側じゃないぞ……?」

「え、じゃあ……ノヴァル側ですか?そんな超大企業、ますます協会うちらしくな……★あっつ!」

「ミャ~。」

「戻して戻して、しちゃうから。」

「ポインタ~、もうすぐだから。」

「ぐるごるrr」

「その、タイツォータ氏はノヴァルの代理人だけど……顧問弁護士リーガル・アドバイザーとかではないからな。実質、訴訟対応を指揮するのはダイク&ドレイクという大手ロー・ファームらしい。」

「重要な訴訟をやってるんなら、システムの刷新とかできないでしょう?」

「うん、まあそうだろうな。……ポインタはどうした?」


 縞々stripyのほうを振り返ると。右に並んだ車から、大きな犬が顔を出してきていたので。幸い、ポインタの目はそっちへ釘づけであった。後席の上で、右の窓の方に行こうかどうしようか……と悩んでる様子。


「でも訴訟というのは、公判さえ始まれば早いものだし。無事終わったらそこで考えてもらえば……とね。」

「そうはいっても、今の時点で何を?」

「んん。レイは聞いたことあるかな。重要な企業秘密のが起こりやすいのはどこで?……という話。」

「え、従業員ですよね? パソコンの、USBポートとかじゃないですか?」


 ばしん、という音がして。一瞬、車内が暗くなって戻った。

 右の窓へ飛びついたものの、すぐ滑り落ちたのを隠そうと?……澄まし顔しているポインタと目が合って。思わず笑ってしまう。

 そのためか、アルの答える声が。ちょっと冷たく感じられた。


「いや、法律事務所ロー・ファーム……なんだと。」 

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