B
素直に白状すれば。タイツォータさんと初めてお会いしたときのこと、僕の記憶に殆どない。
「
しかし、タイツォータ氏のほうでは強く印象に残っていた様で。ミーティングの準備作業をしていた僕に、試写中のスライド内容について質問を投げかけてみたら。
もっとも。僕についての印象を更新するような事件がさらに色々あったので、顎鬚といってもささやかなものだし、多分すぐに慣れて頂けたものと(滝汗)。実際、どうにも特徴のない顔なので。何処かに尖ったところでもないとお客様を不安にするのでは……と、信じ込んでいるし、説明もしているのだけど……。
とはいえ。今でも氏に相対すると、視線を顎鬚に感じてしまう。
「D&Dが撤収したら、君はどうするの?」
「いえ、新しい事件が来てるようですから。」
「それももう……ウチに任せてもいい頃だと思うよ。君からも話してあげて?」
「私からですか?……ボスに?」
「エーリォさん、マットを困らせないで下さい。」
――と。珍しく、ジェンが助け舟を出してくれた。
一方、ロージーはといえば、タイツォータさんが持ってきた裁判所の書類を、ボス席の脇にある
書類は再び封をして、奥の倉庫で施錠保管することになる。その後は……妙な話だが、タイツォータさんは正規の
―――なので、毎日1~2時間はここで過ごされていた。
「今回の裁判所のは、
「そうそう。これで、被害者の医療情報をこっちでもとれるようになるからね。忙しくなるよ?」
おそらく、ロージーやジェンには分かりきったことの筈なのに。このように解説してみせるのは、僕に向けてのものなのだろうか? この1月頃だったか、ボスが僕だけを呼んで話をしたあのことに関係が……? タイツォータさんも関わっているのだとすると、ロージーやジェンが知るのも時間の問題かもしれない。
小っぽけな「秘密」なのかもしれないが、今の僕にとっては困惑の種だった。
4年前、タイツォータ弁護士が行った「
それは、氏の事務所――今では「第一」の方だが―――で、コンピュータ・ネットワーク・システムの守りを強化することだった。
古くからD&Dと提携関係のあったタイツォータ事務所が、D&Dと共にブックホルド事件の
『これは……ノヴァル側にとって、極めて重要な
このように、タイツォータさんは「わからない」ことを「わからない」と素直に表明される方で、それを聞いている側も何故かスッと腹に落ちるというか、信頼感とか威厳のようなものがいささかも損なわれないのが不思議で。
これがボスなら、「わかってないように見えるかもだが、実際はわかってるんだぜ?」的な曖昧さを漂わせるので、そうなるの良くわかるというか……理解の範疇なのだが。
「私にはわからない」と言いつつも、「大丈夫でないのでは?」と感じ取って主張できるのは大したものだと思う。
実際、その直後より。
ノヴァル側の訴訟体制は――インターネットの向こうに潜む不可視のならず者から放たれた、今でいう
そのときの経験が、三年前に立ち上げた……当出張所の、
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