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 僕が、大学の頃からアルバイトしていたIT稼業――の。ほんの隅っこに入ったのは、今から9年前のこと。


 は当時、ITインフラやシステムの導入・構築の類を請け負う会社であった……が、ある事件がきっかけで「分解」してしまった。

 営業と購買、システム構築やプログラム開発コーディングの部門は消滅し、技術コンサルの部門が3つの新会社に分かれ、導入や保守を行っていた部門は多数の個人事業主にバラけた。

 そして、それら新会社と個人事業主たちは、出来合いのインフラを導入・保守する事業を「α協会société ALPHA」の看板ブランドでやりはじめたのだ。


 そのころ僕を使っていたのは、技術コンサル部にいたアル……ええと、アルフレッド・ミニター氏で。一回り半も年下の僕などに「アル」と呼ばせていても、誰も侮ったりしない――そんな実力のあるコンピュータ・エンジニアで、しかも世話好きで、とても慕われていた。

 それまでもコンピュータ・ネットワーク周りのお仕事をもらっていたのだが、アルの移った新会社「アルファリーダ」には断られてしまったので、個人事業主として「α協会société ALPHA」に加盟せざるを得なくなったのだ。

 加盟に必要な保証金はアルから借りて、寮から移ったシェアハウスを「根城」にした。


 協会自体には施設もなく、看板代ブランド料の払い込みを受ける口座だけの存在だったが、A4一枚で料金体系を明示できるほど業務メニューを絞り込んだこともあって、すぐ「速くて、しかも手堅い仕事をする」と評判になり、僕のような個人事業主にも回ってくるようになった。


 顧客は、中小の企業や学校・病院などがメインだ。その殆どが、社内ネットワークを整備したうえで、インターネットへ接続すること、両者の間に「非武装ゾーンDMZ」を作りメール・サーバーなどを建てること……を希望した。あるいは「大分古くなったので、そろそろ刷新したい」とうったえた。


 アルファリーダは、そういった相談を受けて現場を調査・確認し、仕様と参考見積とを作成し、納入する。顧客はまずその段階で、アルファリーダへ支払いをする……その仕様は顧客のものとなり、必ずしもα協会加盟の個人事業主アルファ・コントラクタへ発注する必要はない。他の業者にやらせてもいいし、自分自身でやってもいいのだ。


 とはいえ。たいていの場合、参考見積を作成したαコントラクタ個人事業主へと依頼が来る。直に受注契約を交わしたαコントラクタ個人事業主は、仕様に基づいて顧客と相談し、スケジュール・シートを整備し、ネットワーク機器や通信回線契約・回線工事等の発注書を下書して、顧客に発注してもらう。

 顧客が心変わりして、仕様の変更を求めてくるようなときもある。修正の規模にもよるが、いったん契約を終了して、アルファリーダへ交渉してもらうのが基本である。


 導入の際など人手が要る時や、別件で手が離せないときに保守作業を求められた時は、他の会員……αコントラクタ個人事業主に再委託する。これが前提になるので、受注した会員による導入報告や、再委託先の会員の作業報告は、協会の全員で共有することになる。

 このような体制は、秘密保持を重視する大企業からは疎んじられるものなので、受注できることは滅多にないのだが。大企業向けの仕事はカスタマイズの要求も大きいので、α協会で受けられる仕事ではない……ともいえた。

 

 そう。世の中にて実績も情報もたっぷりあるような「枯れた」システムや、少なくともアルファリーダにて評価済みのシステム……を組み合わせるだけで、プログラムの作成コーディングが必要な仕事は受けない。その代り――これがα協会société ALPHAの基本方針であった。


 そのためアルは、僕のような若手が――ソフトウェアのコーディングや、次から次へ登場する新しい技術へと。挑み、試行錯誤する機会のないまま年齢を重ねることをすごく気にしていて、看板代で用意した有料の技術講座を受講することを会員に求めていたけど、正直僕はピンときていなかった。

 もともと文書類ドキュメントの作成を得意としていた僕は、報告の書き方の改善などで認められていたこともあって、それなりにを感じており。このまま貯金を殖やしていければ……と、思っていた。


 そして、保証金の借金を完済したとき。


 この、タイツォータさんが……協会の門を叩いてきたのだ。

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