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 この出張所タイツォータ 第2では、「意図せざる加速」事件ケースだけを扱っている。勿論、ノヴァルが被告の、この州で訴えのあったものケースのみだ。


 その中でも、最・重要の扱いだったのが。次に掲げる、とても長い名前の事件である:「ダイアナ・ブックホルド、アイダ・ゲッテ ― v. ― ノヴァル自動車、ノヴァル・ステイツ販売、ステイツ・ノヴァル・エンジニアリング / 個人的傷害personal injury不法な死wrongful death 事件」。

 これを略して「ブックホルド対ノヴァル事件」、さらに略して「ブックホルド事件ケース」と呼んでいる。


 呼び方のルールが「原告 対 被告 事件」の順番なので、うんっと略していくと被告の名前まで消えてしまうのが(この仕事を4年間やってても)妙な感じだけど、要するに。2005年式のキャブラを運転してUA事故に遭ったブックホルドさん――と、ゲッテさんの遺族から。ノヴァル自動車は訴えられていたのだ。


 それは、どのような事故だったのか。


 今を去る7年前の9月。この州の住人であるダイアナ・ブックホルドさんが、2年前に購入したノヴァル・キャブラを運転して、数十年来のご友人:アイダ・ゲッテさんと涼みに行った湖からの帰り道。運転席ダイアナ助手席アイダとで、あれこれ話しながら。高速道路で帰ってきた……とき、どちらもお年を召していたけれど。矍鑠そのものhale and heartyで、二人だけで何の不安もなかった。


「……と、しゃべくってたら、あっという間だね。」

「おっ、ここで降りるのかい?」

「そうだよ、前もそうだったろ。」

「早く降りすぎたって、言ってなかったかねぇ。」


 そして、インターチェンジから降りる下り坂ランプの途中で。

 が始まったという。


「おや?……おかしいね。」

「どうしたんだい? やっぱり、早すぎたのかい。」

「そうじゃないよ、スピードが落ちないのさ。ブレーキが引き摺られてるみたいで――」

「えっ?……たいへんじゃないか。ちょっと右を失礼いいかい?


 ゲッテさんはそう言って、運転席の足元を覗こうとした。


「んん、よく見えないねぇ、脚を……もっとできない?。」

「踏ん張ってるから、無……理……って、ええ!?」

「ぁあの信号の先!道がないよ?」

「ま、曲がれそうにないさぁ。どうしたら……」

「……まだサイドブレーキがあるよ、そう!」


 赤信号を無視したとき、他の車が通らなかったのは幸いかもしれない。

 だが、そこは十字路ではなかった。T字路の「足」から進入したキャブラは、歩道へ乗り上げてなお減速しきれず、時速30kmあまりで土の壁へと激突した。


 助手席のゲッテさんは即死。

 一方、運転席のブックホルドさんは生き延びた………が、意識は回復したものの、重い後遺症を負うこととなった。


 現場検証をした警察によれば、高速道路を降りるランプの出口からT字路の信号を超えて衝突地点までの45mに渡り。路面にはブレーキをかけた跡が、はっきり残っていたということだ。

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