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夜中の寒さには未だ
公判の度に押し寄せる腕利きたち……の姿はすでになく。『
今を去る数年前、世界最強の自動車メーカーであるノヴァルは。不可解なクレーム……「意図せざる加速」事象の多発に苦しみ、次第に危機的な状況へと近づいていた。
運転手はアクセルを踏んでいない
不可解なことに、物理的な原因が見当たらないケースも多々あり。それらには何の故障も見つからないので、メーカーとしても「異常なし」とせざるを得ないのだが、「意図せざる加速」に遭遇した人々は納得しなかった。
とうぜんながら、メーカーの
ディーラーも、ひっきりなしに舞い込むオーナーからの点検要請に応えるのが精いっぱいで、新車を売るどころではなくなっており。もはや、ノヴァルのブランド価値は「風前の灯火」であるようにみえてきた。
そうした流れが劇的に変わったのは、3年前のちょうど今頃、国家交通安全局からの委託で行われた――
宇宙開発局には、宇宙船の航宙制御プログラムを扱う専門部署があり。かつての惑星無人探索プロジェクトにおける、黎明期の自律システムによる活躍が、幾度となく語られてきたので。まさにその、宇宙開発局じきじきの車両調査に反対しようという者など居なかった。
果たして、その結果は――
「ノヴァル・キャブラのエンジン制御システムに、欠陥は認められない」
それが
テレビ等の報道に噛り付いていた人々は、ある者は「ほぅら!」と膝を叩きながら、そうでなければ「えっ?」と首をかしげながら、一人……また一人、と。別の話題へ乗り換えていき、あっという間に散会して、「意図せざる加速」を過去の話題へと押し流していく。
しかし、それは……バーで交わすような、世間話のレベルに過ぎない。
実際のところ、ノヴァルに対し各州で
そうした「被害者」や「遺族」だけでなく。「安全唱道者」にも、争いを諦める空気が生ずることはなく、「都合が悪い」と無視することもせず。寧ろ「NUSA報告」に刺激された技術者が、新たな
そんな諍いのなか、たまたま
ここの誰もが「謎」や「秘密」の一部と化し。けれど、誰であれ「謎」や「秘密」の正体を、すべて見渡すことなどできはしない。世の人のごとく……ただのノイズとして、あるいは分かりやすい結論として。過去の彼方に埋めることができなかった人たちもいる。
これから。そういう、僕たちの話をしよう。
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