第8話猫が狼に見えた………。1

「今回はずいぶんとったんですねぇ」

「え、えっと、はい」

夜明け前に学校へ来ている事が天水さんにばれてしまった次の日。

お昼休みお弁当を一人で美術室で食べようとしていた僕は

校内放送で校長室まで呼び出され、何故か校長先生と

おそばを食べていた。

「あの?「おいしいですねぇ、おそば」は、はい」

「それは良かったです。子供は遠慮せずたくさん食べてください。」

校長先生はそう言って僕にそばを分けてくれる。

「あの、僕お弁当もあるし。」

「おや、小食ですか色島君は?」

「い、いえ、でも、流石に多すぎるような」

僕たちの目の前にはおそばのお皿が5皿あった。

しかも全部特盛。つゆは柚子、わさび、カレー粉、てんつゆ。

まだ試してないけど色々バリュエーションがあった。

「そうですか。では私も君のお弁当を食べてもいいですか?」

校長先生はにこやかに話す。

「ええ、良いですけど、口に合うかどうか」

僕はテーブルの端にあった弁当箱の包みをテーブルの前に置く。

「ほう、凄いですね。これはなんですか?」

「ああ、それは大葉の包み揚げとこっちはロールキャベツ。

で、これがレンコンのサラダ。ドレッシングは甘醤油をベースに

してます。」

「素晴らしい。キミが作ったのですか?」

「はい、家は和洋中何でも作る変な店を父さんがやっていて

お客さんの要望に応じてメニューを作るんです。」

「ほう、面白いですね。どんなメニューもですか?」

「はい、父さんが元々凝り性で「何でも作れればお客さん増えるだろ」って

笑いながら言っていたのを覚えてます。」

「食材等は?」

「食材もあるもので大抵作りますのでお客さんは沢山来ます。

僕も良く手伝うっていうより。お客さんの食べたい物が皆バラバラだから

手伝わないと間に合わないんですよ。」

「それで料理が上手いんですね。これを頂きますね。」

そういって校長は大葉の包み揚げを取り出し食べる。

「自分用ですからあんまり「とても美味しい。おいしいですね」

あ、ありがとうございます」

お世辞でも嬉しい。

僕自身まだまだ父さんの様に上手くできない料理もあるがそれでも

毎日絵を描くのと同じくらい料理もしている。

コンコン!

「そういえばもう一人生徒を呼んで要るんですよ。

入って来てください。」

「え?」

「し、失礼しまう。あぅ、噛んだ」

そこには天水さんがいた。


「先生?」

「実は彼女が、君が毎朝描いていた絵の写真を見たいと担任の石倉先生に言われたとの報告を受けてまして。どうせならとお昼ご飯に招待したんです。」

そう言って校長は天水さんを、僕の斜め横の椅子に座らせおそばとつゆを彼女に渡した。


「あはは、ヨロシクね。」

「……」

「天水さん、おそばを沢山頼んであるのでもし良かったらどうぞ」

「わぁ!ありがとうございます。これは?」

「色んなつゆがあるので試してみてください。こちらが柚子で、こちらが……」

僕には校長と彼女のやり取りは聞こえてなかった。


理由は一つ。

僕は彼女が猫を被った狼だと知っているからだ。



あれは昨日のサクラの絵を二人で撮影した後の事だ。

「楽しかったぁ」

「そう。まぁ、良かった。それじゃあ僕はこれで」

「え?帰るの」

「いや、教務員室で寝てても良いって言われてるから」

「何それずるい」

カメラをしまい、荷物をまとめながら天水さんに話す。

ぎゅっ。

「は?」

「私も眠い」

「部活あるんじゃ「今日は休む」は?」

「朝練自由参加だし。眠いの」

袖をギュッと引かれたまま、僕は固まる。

「でも、仮眠室のベッド一つし「ベッドもあるの?」しまった」

目を輝かせる彼女に僕は話したことを後悔した。

「せ、せっかく来たんだから走るのも気持ちいいと「眠い」いや、でも「眠い」」

彼女の眼がだんだん険しくなってくる。

「はぁ~わかったよ。じゃあ、はい」

僕は仕方なく蓮ねえちゃんから借りた鍵を天水さんの渡す。

「え?」

「流石に女生徒と一緒はまずい。だから僕はここで寝るから」

「え、あ、じゃ、じゃあ、良いよ要らない」

慌てて僕の袖を離し、鍵を返そうとする。

「いや、でも眠いんじゃ「だ、大丈夫だよ元気だし」いや、身体フラフラしてるよ?」

彼女は元気を見せつけるようにくるりと回るがふらついていた。

「はぁ、良いから。それとも一緒に寝る?」

僕は少し意地悪く言って見た。

「え、うん、それが良い」

真顔で言う彼女に僕はたじろぐ。

「い、いや、冗談だか「色島君は嘘つきなの?」いやあの……」

この子は冗談が分からないのだろうか?

言わなければ良かったと激しく後悔した。

「だって色島君はいつもそこで寝てるんでしょ。」

「まぁ、そうだけど。僕は慣れてるから」

「でも、悪いから一緒に寝よ?」

「うん。意味が解らない。確実に先生に呼び出されて怒られるから」

「別に寝てるだけだよ?」

「いや、いつも早く来る保健の先生に起こしてもらってるから絶対怒られる」

「大丈夫だよ。何とかなるなる」

いや、ならないよ。

いそいそと荷物を持ち、僕の手を引っ張り彼女は教室を出ようとする。

「いや、無理だよ。そんなことしたら「蓮ねぇちゃんって言ってたよね」えっ!」

彼女が教室のドアの方に向けた顔をこちらに向ける。

その眼に僕は本能的に逃げたくなった。

まん丸い目が釣り目になり、意地悪そうな顔になっていた。

これは蓮ねぇちゃんが僕を虐める時の顔にそっくりだ。

「いや、ほら「蓮ちゃんって皆言うけど?なんで色島君だけお姉ちゃん?」うっ!」

彼女が僕の真ん前まで来て僕を見る。近い。

僕は走っていないのに、冷や汗が出ていた。

「なんで汗かいてるの?」

「いや、「蓮ちゃんとはどういう関係かな?」えっと……」

彼女との距離がどんどんゼロに近づく。

逃げようとしても僕自身の机に阻まれ逃げられず。

裏切り者め、と机を睨みながら彼女と目を合わさないようにするのが精一杯だ。

「ふぅ~ん。私にも言えない事なんだ。」

「いや、私にもって、そんな仲良くない「何か言った?」いえ、言ってません」

僕は反射的に謝っていた。

ぺロッ!

「ひゃぁ」

彼女は僕の首に流れる汗をいきなり舐め僕は鳥肌が立った。

「あはは、しょっぱい」

彼女はやっと僕から離れ、笑い出す。

「い、いきなり何するのさっ」

僕は怒りだすと、彼女の眼がすわり、

「蓮姉ちゃん………」

「ぐっ!」

彼女の言葉に僕は黙るしかない。

流石に自分の担任が従妹で僕の家に居候しているとは言えない。

「はぁ~、そんなに嫌なんだ。私の事」

「え、うんまぁ」

「普通に答えないでよ。そこはそんな事無いよとかじゃないの?」

彼女の問いかけに答えただけで怒られた。

「いや、だって天水さん僕の苦手なタイプだし………」

僕は恐る恐る答えた。

「輪、私のど、どこが?」

「性格」

「あぅ」

「ごめんね「あやまるなぁ」」

彼女は大声でいい泣き崩れる。

「せ、性格とかってい、一番直せないじゃん」

「う~ん。そうだね。「否定しようよ」あはは、ごめん」

嘘泣きだったようだ。

「あのさ、天水さん」

「何」

恨みがましい目で座りながら僕を見上げる。

「とりあえず休憩室に行こうよ」

「えっ!」

僕は彼女を立たせる。

「いっ、一緒に「寝ないから」うぅ~」

やはり勘違いをしている彼女にとどめを刺す。

「僕の眠気がそろそろピークだから先行くよ?」

「わ、解った。い、行くから待って」

スタスタ歩く僕の後ろから彼女が小走りでついてきた。

結局、僕たちは別々の場所で寝て僕は校長先生に起こされ

僕が寝ていると思っておこしに来た保健の先生は天水さんを見て驚き

二人とも説教を受けた。

まぁ、悪い事をしたわけでもないのですぐに解放されたが、僕は天水さんに

蓮ねぇちゃんの事を話さない代わりに言うことを聞かざるおえなくなってしまった。

「蓮ちゃんと色島君の事は黙っていてあげるから私の言うこと聞くよね?」

笑顔で脅す彼女に僕はこう答えるしかなかった。

「はい」と………。







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