第6話 僕の独白

僕が学校に朝早く来れるのは担任でもあり、

義理の姉である石倉蓮先生の、つまり蓮ねぇちゃんのおかげだ。

蓮ねぇちゃんは僕のお母さんの従妹の娘で僕たちの家族と一緒に

住んでいる。

昔から僕の事を可愛がってくれていた。

僕がこの女の子みたいな容姿で虐められている事を知っていた

ねぇちゃんがこの学校はどうだろうかと勧めてくれたのもここを選んだ

理由の一つでもある。


まさか、担任になるとは思ってなかったけど。

僕が絵を描くのが好きで、でも家に絵ばかりになると困る。

そんな時、蓮ねぇちゃんが僕に、

「黒板にでも描ければ、すぐ消せるだろうに」

と言ってくれた。

「でも、他の人になんか見られたくない」

「なら、日の出前に行けばいい。あたしから校長に言っとくよ。」

「いや、ダメでしょ?どう考えても」

僕はこの人ほんとに教師なんだろうかと考えていたら表情に出ていたらしい。

「ふぐぁ~」

「今、あたしの事バカにしてたろ、色葉~」

ヘッドロックされた。

体育会系なのに大きな胸が………じゃなくて

「死ぬ、死ぬからやめ、やめて」

「ほう、あたしの胸で死ねるなら本望だろう?」

にやにやしながら判ってやっている確信犯。

「ちょ、ほんとに」

「お前はほんとにウブだねぇ、あたしが襲ってやろうか?」

耳元で言われ全身が鳥肌を立てた。

「ま、あたしを襲いたくなったら一人前だ。いつでも相手してやるよ」

「じょ、冗談辞めてよ」

「あたしは何時だって本気だけど?」

ぺロッ。

「ひゃぁ」

「あっはっはっ」

耳元を舐められ僕は変な声を出してしまう。

「で、どうする?色葉が早く起きれるんなら、校長に頼むけど?」

僕は耳を拭きながら意地悪そうに僕を見ているねぇちゃんを睨む。

「代金は今ので許してやる。お前が追加料金払ってくれるならうれしいが?」

悪魔にしか見えない。普通逆ではないだろうか。こういう場合。

僕は何故か僕の部屋でくつろいでいる蓮ねぇちゃんから距離を取りながら考えた。

「ほ、ほんとにいいんだったら。やってみたいけど………」

「うん?あたしとか?それならそうと早く言ってくれ。」

そう言って上着を脱ぎだす蓮ねぇちゃん。

「は?ち、違うよ。そっちじゃない、そっちじゃないから」

とても色っぽい褐色肌にピンクのブラが見え始め慌てて僕はねぇちゃんに駆け寄り

上着を下げようとする。

「おわ、冗談だよ冗談。前が見えないって」

「いいから下げてぇ~。母さんに見られたら大変「色葉、ご飯よ?」ぇ」

扉が開き母さんの声がした。

見えてないのは僕が丁度蓮ねぇちゃんの胸の中にいるわけで………。

ねぇちゃんの上着を下す時に抵抗され胸の中に捕まったのだ。

「あっと……」

「色葉もそういう年頃になったのねぇ、お母さん嬉しい。でも、ご飯食べてからに

しましょう?お父さんショック死しちゃいそうだし。」

「あはは、そうですねぇ」

「か、母さん、ちが、ちがう「あん」ねぇちゃんも変な声出すな!」

「蓮ちゃん、色葉の事よろしくね。この子初めてだから」

「おい」

「わかりました。責任もって相手します」

「何二人で分かり合ってんだ。いいかげんはなせぇ」

「おいおいもっと優しくするもんだぞ?女には。」

「うぐぁ~」

必死に上着の中から逃げようとする僕を足と手で拘束しながら母さんと

一緒になって蓮ねぇちゃんは笑っていたらしい。

因みにその日の夕食から僕はねぇちゃんほ無視し、以外と寂しがり屋な

蓮ねぇちゃんは一時間後には僕に土下座していた。

まぁ、僕も胸が気持ちよ、んんっ、僕も悪かったし。

そんな訳で僕は特別にこの学校に早く入ることが許された。


勿論校長先生とも話した。

「良いですよ」

「ほんとですか?」

「はい。黒板に絵を描くなんて楽しそうじゃないですか。」

「ほら、言ったろ」

「ありがとうございます」

「キミが美術部で頑張っていることも部の先生から聞いていますし。」

「良かったな」

「ちょ、やめてよ、ここがっう」

「おやおや」

隣に座る僕の頭をガシガシとする蓮ねぇちゃんに僕は抵抗し、校長は笑っていた。

「色島くん、私から2つお願いがあります」

「え?」

「うん?」

僕と蓮ねぇちゃ、先生が訝しげに校長を見る。

「はい、一つはキミは毎日学校に来て絵を描いてください。」

「は?」

「毎日ですか?」

「そうです」

驚く蓮先生と僕に校長は話を続ける。

「キミの絵は私も見たことがあります。とても素晴らしい。

それに君は覚えていないかもしれませんが、一年の初め私が美術室に寄った時

君一人で遅くまで残って絵を描いていましたよね?」

「え?」

「その時私は君と話をしました。何を思ってどんな絵をかきたいのかと………」

「あっ、あの時のおじさん?」

「おじさん?」

僕は驚く蓮先生をよそに校長をもう一度見る。

「はい、キミは用務員の方と間違えていたようですが」

「あっ、えっと、僕変な事言った覚えが…」

冷や汗が出てきた。

「そんなことないですよ。キミはこう言ってました。

「生きている世界の、その瞬間をこの絵の中に焼け付けたいんだ」と」

僕は口をあんぐりと開け、両手で頭を抱えた。

「へぇ、校長相手にそんな大それたことを色葉がねぇ」

案の定、蓮先生がにやにやしながら笑う。

今は絶対先生の顔じゃない。家にいる僕をいじくる顔をしている。

「恥ずかしがることはないと思いますよ?素晴らしい言葉ですし」

「だとさ、よかったな」

「うるさい」

僕は小声で蓮先生に訴える。

そんな僕を笑いながらも蓮先生が好調に尋ねる。

「でも、毎日って土日もですか?さすがにそれはきつくないですか校長」

「ええ、ですから彼が良ければです。勿論病気や体調不良の時はやめた方が良いですし。ただ、私はせっかくですから何か目標を立てた方が良いのではと思いまして」

「「目標ですか」」

僕と蓮ねぇ、先生の声が被る。

にやりと笑われ、僕はムスッとした。

「えぇ。今日が丁度始業式が終わり二年生のの初めですから確か四月の16日ですね」

「はい」

校長の言葉に頷く蓮先生。

「ですからあすより一年間365日やるのはどうでしょう?」

「本気ですか?」

校長の提案に蓮先生が驚く。

「勿論病欠の場合や、台風等の時はカウントしません。」

「いやでも、さすがに毎日は」

朝が弱い蓮先生が渋るが僕の心は弾んでいた。

「良いんですか?毎日描いても」

「色葉?」

「色島君?ええ、もちろんですとも。ただし無理はしない事」

「はいっ!」

驚く二人に僕は頷いた。

「良かった。ではもう一つのお願い事です。」

「え?」

「もう一つは、毎日描いた絵をカメラで撮っていただきたいのです。」

「「カメラで?」」

僕と蓮先生が顔を見合す。

「はい。せっかく描いてすぐ消すのはとても勿体ない。かと言ってきみは他の誰かに見られたくないんですよね?」

「あ、はい」

とがめられているような気がして僕は小さくなった。

「いえ、怒っているわけでも、咎めているわけでもありません。」

「ぇ?」

心の内が見えたのか校長が優しく言ってくれた。

「キミがそこまでして描く物です。中途半端なものなど描かないでしょう?」

「は、はい」

「ですのでそれは立派な作品です。それを記録に残しておかないのは愚の骨頂です」

「は、はぁ」

「まぁ、色葉の絵はうまいしなぁ」

二人の買いかぶりすぎるような発言に僕は曖昧にしか頷けない。

「でも、僕カメラ持ってないし撮り方も…」

「ああ、それなら大丈夫ですよ。私がきみにプレゼントします。」

「「は?」」

にこやかに言う校長に僕と蓮先生が固まる。

「これは私からの提案ですから、キミに頼んでいる身ですし。」

「え、えぇ~、いあ、いあうあ、良いです、要らないです。も、貰えませんそんな」

慌てて校長に言う僕。

「僕が、絵を描く場所がないから言ってるだけで学校に早く来れるだけで」

「それはそうですが、私がきみの絵を見たいんです。それではいけませんか?」

穏やかだがしっかりした校長の声に僕は何も言えなくなった。

「ほんとにいいんですか?校長」

蓮先生が校長をしっかり見て話す。

「はい、さすがに毎日早起きは出来ませんし、色島君も誰にも邪魔されずに

思う存分描きたいでしょう。」

「それは、そうですけど?」

僕は少し悪いなと思いながら頷く。

「なら決まりです。カメラは使いやすそうなものを選んでおきます。

チョーク以外に欲しいものあったら言って下さい。

キミが必要なものはそうですね、校長室に毎日取りに来てください。」

「校長室ですか?」

「良いんですか。生徒が入っても?」

「えぇ、色島君なら別にかまいません。それに取られるものもないですし」

にこやかに言う校長に蓮先生が言う。

「そこにカウントも置いておきます。」

「カウント」

「はい、来た日に色島君がカウントを押してください。

そして絵が出来上がって撮影したらカメラをここに置いておいてください」

「カメラを?」

「えぇ、私が現像しますので、勿論キミにも差し上げます。

それなら紙ですし、キミも保存しやすいでしょう?」

「確かにそれなら家でもおいておけるな。良かったな色葉。」

「う、うん。で、でもいいんですか?」

戸惑う僕に校長は、

「えぇ、実は私はカメラが趣味でして、良く撮りに行くんですよ。

勿論足腰を鍛える為に武術も習ってますが」

「あたしでも勝てないんだぞ」

「え゛っ」

さらっととんでもないことを言われ僕は固まる。

確かに齢70を超えているのに体がしっかりしているし、腕も太い。

でも、テコンドーをやっている蓮ねぇちゃんでも勝てないって……。


「ですから、カメラで撮った物を私がその日に現像し、次の日来た時に

同じ所に置いておきます。バインダーもプレゼントするので

そこに挟んでおきますね。」

「良いんですか?」

「はい、勿論持って帰れるように二冊用意して置きます。

一冊はカメラを置いておく戸棚の下にしまった置きますのできみは

毎日もう一冊のバインダーを持ってきてください。」

「あ、ありがとうございます」

「よかったなぁ、至れりつくせりだぞ」

「うわ、ちょ、やめてよ蓮ねぇ、先生っ」

ガシガシと頭を触られ逃げる僕。

「では、明日揃えておきますのでこれが校長室の鍵のスペアです。

 あと、校門を開ける鍵。これは先生しか持てないものですから失くさないように」

校長が懐からセンサー付きの鍵を二つ出して僕に渡してくれる。

恐る恐る受け取る僕。

校長の手は分厚かった。この人ほんとに40才くらいにしか見えないんだけど。

「この鍵は登録制ですので今日から君の物です。大事にしてください」

「ぇ、僕の名前で登録されるのですか?」

「良いんですか校長?」

「はい、これから頑張ってください。」

差し出された両手に僕も手を出すとすごい力で握手された。

痛い。

「おや、もっと鍛えないと女の子は守れませんよ」

「なっ?」

驚く僕を余所に校長は笑いながらその場を離れていった。

「あははは、言われてるぞ。色葉」

「う、うるさい。スゴイ痛かった。」

「ははは、見せてみろ。あたしが舐めてやろうか?」

僕の見せた手を舐めようとする蓮先生、

慌てて僕は手を引っ込めた。


その日の夜僕は早く寝た。

校長先生からもらった鍵を枕元に置いて。

次の日、まだ日が昇っていない朝に僕は目覚めた。

目覚めはばっちり。

何故か横で寝ている蓮ねぇちゃんをどけ僕は着替え学校へ向かう。

誰もいない。学校までの道も誰もいない。

不思議な感覚だ。

この世界に僕だけしかいない感覚。


ガシャン

学校に付き鍵で校門を開ける。

開けたあとは開けっ放しでいいらしい。

センサーもあるし金属探知もある。我が学校ながら凄いセキュリティーだ。


下駄箱で靴を脱ぎ校長室に向かう。

校長室のドアを開け、中に入る。

なかはとても落ち着いた雰囲気で横の小さな棚の上に、

「あ、あった、凄い、このカメラ幾らするんだろう」

綺麗な新品のカメラと使い方を書いた紙が貼ってあった。


有難く受け取り教室へ向かう。

教室の扉を開き深呼吸をする。


「よしっ!」

これが僕の世界の始まり。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る