第4話彼について………
「そういえばその色島っていつだったかあたしが朝練で走ってる時に見たぞ」
愛結ちゃんから借りたハンカチでスカートを拭きながら夏が言う。
「えっ、何時」
私は驚いて夏に詰め寄る。
「うわっ、近いよ。近い。いや確か先週の金曜日だったと思う。
ほら、いつも陸上部の朝練早いだろ。たまたま走った後水飲んでて
二階の廊下を歩いてるあいつ見かけたぞ。」
夏が私を引きはがしながら皆に言う。
「うぎゅう」
私の顔が、夏の両手で形を変える。思わず変な声が出てしまった。
ガラッ
扉が開き、運の悪い事に入ってきたのは色島君だった。
「………」
一瞬私たちと彼の空気が止まる。
彼は一瞬驚くも、すぐに視線を自分の席である窓の方へ行き
何事もないかのようにさっていった。
夏が私の顔から両手をゆっくり離す。
「えっと、早耶、ご、ごめん」
ばつの悪そうな夏に対し私は
「おわった……」
落ち込んでいた。
「だ、大丈夫だよ、早耶ちゃん。」
「何が?」
「あ、あぅ」
愛結ちゃんの励ましも全く効果をもたらさない。
「あちゃ~。まさかのアホ顔みられるとは。
まぁ、過ぎたことは気にしない気にしない。」
「少しは励ませ」
励ましてくれているのかわからない美樹の顔を私は腹いせに
両手で挟んでやった。
「いふぁ、いたいって。わ、私のせいじゃないでしょ」
「うるさい、心の中で笑ってるんでしょ」
「早耶ちゃん、美樹ちゃんは悪くないよ」
「そうだぜ、許してやれよ」
愛結ちゃんと夏が止めに入る。
「むー」
私は仕方なく美樹の顔から手を放す。
「あんたね、私が笑うと思ってんの?」
頬をさすりながら私を睨む美樹。
「うん」
私は正直者だ。
ゴンッ
「いったぁ~、痛い、グーで殴ることないでしょ、グーで」
頭に衝撃を受け私は涙目になる。
「そんな訳ないでしょ。好きな男に変顔みられて笑うなんて……当たり前じゃない
あははははっ」
真面目な顔してやっぱり私をバカにする美樹。
「うぇ~ん」
泣きながら里香ちゃんのエンジェルバストに突っ込む私。
「きゃっ」
驚きながらも背中を撫で、慰めてくれる愛結ちゃん。
「よしよし。いい子だから」
天使のような包容力で私は少し癒された。
「美樹もひでぇ~な。」
「うるさい。いつも進まない惚れ話聞かされる身にもなってよ」
「あたしらだって聞かされて「倍は聞かされてるわよ倍は!」はいはい」
夏が美樹をとがめてるけど、直ぐに言い返された。
私はそんなに言ってない。愛結ちゃんの胸から少しだけ顔をずらし
二人を睨む。
「「うっ」」
二人が私の殺気にたじろぐ。
私は猫目で睨むと相手にすぐわかる。
嫌いな人はすぐ顔に出ると皆に言われる。そこまでのつもりがないのに………。
「二人とも、早耶ちゃんに謝って。」
愛結ちゃんが真剣な顔をして二人を怒る。
「「ご、ごめんなさい」」
二人が軽く頭を下げる。
私は嘘泣きをやめて、愛結ちゃんの胸から顔を放して
「うん、しょうがないから許す」と呟いた。
「「おいっ」」
二人から突っ込まれ、皆で笑っていた。
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