第4話 鬼ごっこ・・・前夜
今日は連隊レンジャーの訓練支援ってことで、とある樹海の国立森林公園に来ている。
通常の戦闘訓練とは違う、らしい。
どこがどう違うのか?中隊の陸曹に聞いてみた。
「そうだな。動哨に出る時は気を付けろよ。こちらが見つけてもフレンドリーに近づいて来て、友軍のフリをするからな」
そう言うのは俺の営内班長の白井3曹だ。
「こちらの陣地内に入り込んでるクセに、堂々と歩き回るから逆に不自然じゃなくなるんだ。質が悪いよな」
ふむふむ、堂々としてる奴に気を付けろ、か。
次に、2分隊長の朝田3曹に聞いてみた。
「歩哨に就いたら、必ず誰何はやれよ。止まらなければどんどん射て」
「え?射っちゃって良いんですか?」
「あぁ、かまわん。下手するとお前、拉致られるぞ」
そんな大げさな。斥候が歩哨を連れ去るなんて・・・。
「そんなのあり得るんですか?柳2曹」
「おぉ、あり得るぞ。俺の同期も拉致られて、敵の陣地で身ぐるみ剥がされたらしい」
「うわぁ・・・」
「しかも、武器や無線機、地図も奪われたから敵が友軍の無線に割り込んで来たり、宿営地が襲撃されたりして大変だったようだ」
絶対つかまるな、と。
「他にはありますかね?」
「合言葉はちゃんと聞いとけよ。レンジャーの連中は間違った合言葉を自信ありげに答えるから、曖昧な返答してたらこっちが間違ってるような錯覚に陥るぞ」
マジか。ほんと質が悪いなウチのレンジャーは!
「それとな」
まだあるの!?
「奴らを捕まえる時は、最後まで気を抜くな。中には射ってこないとタカを括って暴れる奴もいるからな」
えぇっと、なんか実戦みたいですね。
「その通り。いつもの訓練みたいにシナリオがある訳じゃないからな。まっ、自由度は多いんだし、お前も楽しめばいいさ」
俺が聞いてきた話を、同期や後輩にも伝えてみた。
「うげぇ、拉致られるんすか?」
「じゃあ天幕に帰ってもおちおち寝てられねぇな」
反応は様々だ。しかし、
「逆にこっちが捕まえるのもアリなんすよね?なんかそれはそれで楽しそう」
「オラ何だかワクワクしてきたぞ!(悟空風)」
と、状況を楽しもうとする者もいて、これもまた頼もしく感じた。
「武村士長、捕まっても泣かないで下さいよ?若しくは自決して下さい」
「ひでーなおい!お前こそ、こっちに逃げてくんなよ?どうせなら地雷原に突っ込んで敵を巻き添えにしてしまえ!」
「いや、それじゃ俺だけ爆死して終わりじゃないっすか!」
ケラケラとみんなで笑いあう。
これが実際の戦闘だったら、こんな爆笑することも・・、ないのかな?
案外、戦闘が苦痛に感じてしまったら、真っ先に戦死してしまうかもしれない。
まぁ、いいや。
俺は補給陸曹からエンピ(シャベル)を受け取り、陣地を掘りに向かうのだった。
つづく?
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